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平成17年神審第49号
件名

漁船秀丸漁船泰丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,甲斐賢一郎,村松雅史)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:泰丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
秀丸・・・左舷船首部に擦過傷
泰丸・・・左舷側に擦過傷等,船外機が海没,船長が左腓骨骨折,左肋骨不全骨折等,甲板員が左肋骨骨折,左腎損傷等の負傷

原因
秀丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
泰丸・・・動静監視不十分,避航を促す音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,秀丸が,見張り不十分で,漂泊中の泰丸を避けなかったことによって発生したが,泰丸が,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月13日09時42分
 高知県野見湾
 (北緯33度22.5分東経133度18.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船秀丸 漁船泰丸
総トン数 1.1トン 0.3トン
全長 7.63メートル 5.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   30キロワット
漁船法馬力数 18  
(2)設備及び性能等
ア 秀丸
 秀丸は,昭和63年7月に進水し,船内外機を備えた和船型のFRP製漁船で,操舵室はなく,船首端から1.86メートル後方の右舷端甲板上,高さ90センチメートルのところにネットホーラーを設け,後部に機関室囲壁を配置していた。操船者は,平素,同囲壁後部中央の上に腰を掛け操船に当たっており,このとき甲板上の眼高が1.16メートルで,ネットホーラーにより右舷船首部の一部に死角を生じるものの,船首から左舷側にかけての見通しは良好であった。
 漁場往復時の航行速力は,4ノット程度であり,同速力における最大舵角時の旋回径が左右とも船の長さの約3倍で,全速力後進をかけたときの停止距離は約25メートルであった。
イ 泰丸
 泰丸は,平成15年5月に進水し,船外機を備えた和船型のFRP製漁船で,操舵室はなく,船尾部にかぶせ蓋を設けた物入れ2個を備えていた。操船者は,平素,物入れの蓋に腰を掛け操船に当たっていた。
 漁場往復時の航行速力は,5ノット程度であり,同速力における最大舵角時の旋回径が左右とも船の長さの約3倍で,全速力後進をかけたときの停止距離は約20メートルであった。

3 事実の経過
 秀丸は,A受審人が1人で乗り組み,定置網漁業の目的で,船首尾とも0.20メートルの喫水をもって,平成16年10月13日06時00分高知県須崎市の野見漁港を発し,06時15分ごろ自身が管理する,野見湾内の定置網(以下「A定置網」という。)に至って網揚げを行い,ひらご鰯など約200キログラムを獲たのち,須崎港内の市場で水揚げを終え,同定置網を補修するため,09時22分同市場を発進し,再びA定置網に向かった。
 A受審人は,須崎港内を南東に針路をとってコーギノ鼻沖合に向け南下し,同鼻を近距離に離して付け回した後,09時38分半,須崎港湾口東防波堤東灯台(以下「東防波堤東灯台」という。)から112度(真方位,以下同じ。)530メートルの地点で,沿岸に設置された前方の定置網を至近にかわす082度に定め,4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,機関室囲壁後部に右舷少し後方向きに腰を掛け,顔を前方に向け右手で舵柄を操作しながら操船に当たって進行した。
 定針したとき,A受審人は,平素,この時間に付近海域の海岸近くに漁船を見掛けたことがなかったことから,船首方を一見したのみで,前方に他船はいないだろうと考え,左舷船首方430メートルに存在する泰丸を見落としたまま続航した。
 A受審人は,09時40分半,東防波堤東灯台から102度770メートルの地点に差し掛かり,定置網南端を左舷側に約10メートル離して航過したとき,コーギノ鼻東方430メートルの,南東に突き出た鼻に近づけるよう,針路を068度に転じ,同一速力で進行した。
 転針したとき,A受審人は,正船首方190メートルのところに,船首を西方に向けて漂泊している泰丸を視認することができ,その後,同船に衝突のおそれがある態勢で向首接近していたが,前路に航行の支障となる他船はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,右転するなどして泰丸を避けずに続航中,突然衝撃を感じ,09時42分東防波堤東灯台から096度920メートルの地点において,秀丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首が泰丸の左舷中央部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候は下げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,泰丸は,B受審人が甲板員の妻と2人で乗り組み,刺し網漁業の目的で,船首0.05メートル船尾0.15メートルの喫水をもって,同日08時30分高知県須崎市白浜を発し,船外機のクラッチが不具合であったので,途中,須崎市の鉄工所に寄って修理を行い,09時10分同鉄工所を発し,コーギノ鼻東方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,09時32分ごろ前示衝突地点に至り,その後,機関を微速力前進にかけたままクラッチを切って漂泊し,船首を西方に向けた状態で,左舷船尾の物入れの蓋に腰を掛けて船首方を向き,また甲板員が中央部で船尾方を向いて漁網の綱を捌き,操業の準備に取り掛かった。
 09時38分半B受審人は,左舷船首方430メートルのところに,コーギノ鼻を替わって東行するようになった秀丸を視認したが,自船の左舷側を替わって行くものと思って目を離し,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うことなく,綱を捌く作業を続けた。
 09時40分半B受審人は,船首が278度に向き,秀丸が左舷船首30度190メートルとなったとき左転し,その後,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが,漁網の綱を捌くことに気を奪われ,依然として動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,避航を促す音響信号を行わず,間近に接近したものの,クラッチを後進に入れて移動するなど,衝突を避けるための措置をとらないで漂泊中,09時42分わずか前,至近に迫った秀丸を視認したものの,どうすることもできず,泰丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,秀丸は,左舷船首部に擦過傷を,泰丸は,左舷側に擦過傷等を生じ,船外機が海没した。また,B受審人が左腓骨骨折,左肋骨不全骨折等を,また泰丸甲板員が左肋骨骨折,左腎損傷等を負った。

(航法の適用)
 本件は,高知県野見湾の海岸近くで,航行中の秀丸と機関のクラッチを切って漂泊中の泰丸とが衝突したものであるが,衝突地点付近の海域は,港則法及び海上交通安全法の適用海域でないことから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。同法には,漂泊している船舶と航行中の船舶とに関する航法規定は存在しない。
 よって,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 秀丸
(1)A受審人が,機関室囲壁後部に右舷向きに腰を掛けて操船に当たる習慣があったこと
(2)A受審人が,前路に航行の支障となる他船はいないものと思っていたこと
(3)船首方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)漂泊中の泰丸を避けなかったこと

2 泰丸
(1)B受審人が,自船の左舷側を替わって行くものと思って目を離していたこと
(2)B受審人が,漁網の綱を捌くことに気を奪われ,秀丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(3)避航を促す音響信号を行わなかったこと
(4)間近に接近したときクラッチを後進に入れて移動するなど,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 漁場に向けて航行中の秀丸が,船首方の見張りを十分に行っておれば,当時,海上も穏やかで視界も良かったことから,前路で漂泊中の泰丸を容易に視認することができ,その動静を把握したのち転舵するなどして同船を避航し,本件発生を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路に航行の支障となる他船はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行わず,漂泊中の泰丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,機関室囲壁後部に右舷向きに腰を掛けて操船に当たる習慣があったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,泰丸は,野見湾の海岸近くにおいて漂泊中であったものの,秀丸を視認した後,同船に対する動静監視を十分に行っておれば,同船が避航の気配のないまま接近することを判断でき,衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,自船の左舷側を替わって行くものと思って目を離し,漁網の綱を捌くことに気を奪われ,秀丸に対する動静監視を十分に行わず,避航を促す音響信号を行うことも,クラッチを後進に入れて移動するなど,衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,高知県野見湾において,漁場に向けて航行中の秀丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の泰丸を避けなかったことによって発生したが,泰丸が,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,野見湾において,漁場に向け海岸近くを航行する場合,前路で漂泊中の泰丸を見落とすことのないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路に航行の支障となる他船はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路に漂泊している泰丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,秀丸の左舷船首部に擦過傷を,また泰丸の左舷側に擦過傷等を生じさせ,船外機を海没させたうえ,泰丸船長に左腓骨骨折,左肋骨不全骨折等を,更に泰丸甲板員に左肋骨骨折,左腎損傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,野見湾の海岸近くにおいて,機関のクラッチを切り漂泊して刺し網投入の準備中,左舷船首方に東行する秀丸を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船の左舷側を替わって行くものと思って目を離し,漁網の綱を捌くことのみに気を奪われ,秀丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,その後,同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢となって接近していることに気付かず,避航を促す音響信号を行わず,間近に接近したときクラッチを後進に入れて移動するなど,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自身と甲板員が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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