(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月2日08時36分
銚子港
(北緯35度45.5分 東経140度51.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第五十八清勝丸 |
漁船第十八有磯丸 |
総トン数 |
170トン |
169トン |
全長 |
39.82メートル |
40.62メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
595キロワット |
(1)設備及び性能等
ア 第五十八清勝丸
第五十八清勝丸(以下「清勝丸」という。)は,昭和60年5月に進水した,さけ,ます流し網漁業,さんま棒受網漁業及びいか一本釣り漁業に従事する,一層甲板の船尾船橋型鋼製漁船で,操舵室が上下2層になっており,船首端から約21メートル後方の上部操舵室には,遠隔操舵装置,舵角指示器,レピーターコンパス,主機操縦用連絡ベル,汽笛信号スイッチ,レーダー,GPSや魚群探知機等が備えられていた。
イ 第十八有磯丸
第十八有磯丸(以下「有磯丸」という。)は,昭和59年3月に進水した,さけ,ます流し網漁業,さんま棒受網漁業及びかじき等流し網漁業に従事する,一層甲板の船尾船橋型鋼製漁船で,操舵室が上下2層になっており,船首端から約21.5メートル後方の上部操舵室には,遠隔操舵装置,舵角指示器,レピーターコンパス,可変ピッチプロペラ翼角操縦装置,汽笛信号スイッチ,レーダー,GPS及び同プロッタや魚群探知機等が備えられていた。
3 事実の経過
清勝丸は,A受審人ほか16人が乗り組み,さんま棒受網漁の目的で,船首1.7メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,平成16年10月31日06時30分宮城県女川港を発し,鹿島灘の漁場で操業を繰り返したのち,翌11月2日05時30分水揚げのため,同漁場を発進して銚子港に向かった。
A受審人は,発進後,下部操舵室で操船し,次第に霧模様で視程が約50メートルに狭められて視界制限状態となったが,法定灯火のほかに黄色の点滅灯を表示したものの,霧中信号を行うことなく,入航に備えて昇橋してきた一等航海士とともに上部操舵室に移動し,08時26分銚子港一ノ島灯台(以下「一ノ島灯台」という。)から022度(真方位,以下同じ。)1.64海里の地点で,針路を210度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵によって進行した。
08時26分半A受審人はレーダーを1.5海里レンジとし,一等航海士をレーダーの監視に当たらせ,自らもレーダーの監視を行っていたところ,左舷船首12度1.46海里に銚子港から出航する有磯丸のレーダー映像を初めて認めたが,防波堤のレーダー映像に気をとられ,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった。
A受審人は,08時33分一ノ島灯台から016度1,670メートルの地点に達したとき,レーダーで左舷船首10度850メートルのところに有磯丸の映像を探知でき,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,依然レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることなく続航中,08時36分わずか前左舷船首至近に同船の船体を認め,衝突の危険を感じ,全速力後進を令したものの及ばず,08時36分一ノ島灯台から009度1,110メートルの地点において,清勝丸は,原針路のまま,速力が約2ノットになったとき,その船首が有磯丸の右舷船首に前方から30度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,視程は約50メートルであった。
また,有磯丸は,B受審人ほか15人が乗り組み,さんま棒受網漁の目的で,船首1.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって,同月2日08時00分銚子港を発し,鹿島灘の漁場に向かった。
B受審人は,出航後,上部船橋で操船に当たり,霧のため視界が制限された状況下,法定灯火を表示するとともに霧中信号のつもりで長音2回を吹鳴しながら,一等航海士をレーダーの監視に当たらせ,08時29分一ノ島灯台から025度410メートルの地点に達したとき,針路を000度に定め,機関を極微速力前進にかけ,3.2ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
08時33分B受審人は,一ノ島灯台から012度820メートルの地点に達したとき,0.5海里レンジでレーダーの監視を行っていたところ,右舷船首20度850メートルに清勝丸のレーダー映像を初めて認め,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが,もう少し接近すれば,同船が自船を避けるものと思い,速やかに行きあしを止めることなく続航した。
08時36分わずか前B受審人が右舷船首至近に清勝丸の船体を認め,衝突の危険を感じ,半速力後進を令したものの及ばず,有磯丸は,原針路のまま,前進行きあしがなくなり,後進行きあしになったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,清勝丸は船首部外板に亀裂及びバルバスバウに凹損を,有磯丸は錨及び船首部手摺りに損傷並びにバルバスバウに亀裂をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,霧のため視程が約50メートルの視界制限状態となった銚子港において,入航中の清勝丸と出航中の有磯丸とが衝突したものであり,同港は港則法が適用される港であるが,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったので,同法には適用すべき避航に関する規定がないことから,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法が適用される。
(本件発生に至る事由)
1 清勝丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)防波堤のレーダー映像に気をとられたこと
(3)レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこと
(4)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
2 有磯丸
(1)霧中信号のつもりで長音2回を吹鳴しながら進行したこと
(2)0.5海里レンジでレーダーの監視を行っていたこと
(3)レーダーで前路に認めた清勝丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったとき,もう少し接近すれば同船が自船を避けるものと思い,速やかに行きあしを止めなかったこと
(原因の考察)
清勝丸が,霧のため視界制限状態となった銚子港に入航中,レーダーによる動静監視を十分に行い,更に,有磯丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,防波堤のレーダー映像に気をとられ,レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこと及び針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,有磯丸が,霧のため視界制限状態となった銚子港を出航中,レーダーで前路に認めた清勝丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったとき,速やかに行きあしを止めていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,B受審人が,レーダーで前路に認めた清勝丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったとき,もう少し接近すれば同船が自船を避けるものと思い,速やかに行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,霧中信号を行わなかったこと及びB受審人が,霧中信号のつもりで長音2回を吹鳴しながら進行したことは,本件発生の原因とはならないものの,法令順守の観点から是正されるべき事項である。
B受審人が,0.5海里レンジでレーダーの監視を行っていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,霧のため視界制限状態となった銚子港において,入航する清勝丸が,レーダーによる動静監視不十分で,出航中の有磯丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,有磯丸が,レーダーで前路に認めた清勝丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った際,速やかに行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,霧のため視界が制限された銚子港に入航中,同港を出航する有磯丸のレーダー映像を前路に探知した場合,レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,防波堤のレーダー映像に気をとられ,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き,清勝丸の船首部外板に亀裂及びバルバスバウに凹損を生じさせ,有磯丸の錨及び船首部手摺りに損傷並びにバルバスバウに亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,霧のため視界が制限された銚子港を,機関を極微速力前進にかけて出航中,レーダーで前路に認めた清勝丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合,速やかに行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに,同人は,もう少し接近すれば同船が自船を避けるものと思い,速やかに行きあしを止めなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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