(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月24日03時25分
新潟県新潟港西区
(北緯37度55.8分 東経139度03.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第三勝栄丸 |
引船すみ丸 |
総トン数 |
354トン |
146トン |
全長 |
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31.00メートル |
登録長 |
44.90メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
2,280キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第三勝栄丸
第三勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は,平成5年2月に進水し,船首に旋回式クレーンが備えられ,バウスラスターが装備された船尾船橋型砂利採取運搬船で,船橋中央部に舵輪,その左舷側にレーダー及びGPS,右舷側に機関及びバウスラスターの各操縦装置がそれぞれ設置され,港湾土木工事現場への捨石等の運搬に従事していた。
イ すみ丸
すみ丸は,平成5年5月に進水し,2機2軸のZ型推進器を装備した鋼製引船で,船体中央の少し前方に2層構造の船橋楼を有し,上層に操舵室が,下層の右舷側に船長室がそれぞれ設けられ,新潟港において大型船の入出港援助作業に従事していた。
3 事実の経過
勝栄丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,捨石約1,000トンを載せ,船首3.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,平成16年5月24日03時18分新潟県新潟港西区の万代島ふ頭東側岸壁を発し,同県直江津港に向かった。
ところで,新潟港西区は,信濃川の河口に築造された川港で,同区万代島ふ頭東側岸壁前面の水域は,同川本流東岸から南南西方に枝分かれした幅約150メートル奥行き約1,100メートルの水路(以下「水路」という。)となっており,その北側には中央ふ頭が北西方に突き出し,水路が逆「く」の字形に屈曲していた。そのため,同岸壁を発航する船舶は,水路に沿って北上した後,万代島ふ頭の角部で左転して信濃川本流に合流する操船が求められる状況であった。
発航後,A受審人は,霧模様で視程約500メートルの状況下,すみ丸が中央ふ頭に係岸していることを目視で認め,レーダーを0.25マイルレンジとして,船首に一等航海士及び甲板長を,船尾に機関長をそれぞれ配置し,操舵室で単独の船橋当直に当たり,機関とバウスラスターを使用して岸壁と平行に約10メートル離岸し,03時20分新潟信号所から182度(真方位,以下同じ。)2,000メートルの地点で,針路を034度に定め,機関を極微速力前進にかけて3.1ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,手動操舵により進行した。
A受審人は,03時22分ごろ濃霧となって急激に視界が制限された状況下,一旦(いったん)機関を停止して周囲の状況などの確認を行わず,低速のまま水路にほぼ沿って北上した。
03時23分A受審人は,新潟信号所から177.5度1,750メートルの地点に達したとき,中央ふ頭が正船首200メートルとなり,同ふ頭に左舷付けで係岸中のすみ丸に向首進行していたが,濃霧による岸壁等の視認状況の変化に気をとられ,水路の屈曲部に差し掛かったことやすみ丸までの距離を確かめるなど,レーダーによる見張りを十分に行わず,水路に沿って左転しないまま続航した。
A受審人は,更に北上してすみ丸に接近したが,依然,レーダーによる見張り不十分で,同船を十分に離す針路とせず,同じ針路,速力で進行中,03時25分わずか前船首配置の乗組員から,中央ふ頭に係岸中の同船を船首至近に視認した旨の報告を受け,直ちに機関を全速力後進にかけ,左舵一杯としてバウスラスターを左方一杯としたが及ばず,03時25分新潟信号所から173.5度1,610メートルの地点において,勝栄丸は,017度に向首したとき,その右舷船首がすみ丸の右舷中央部に,前方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,新潟県下越新潟地域に濃霧注意報が発表されており,視程は約25メートルであった。
また,すみ丸は,船長Bほか3人が乗り組み,船首1.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,同月23日17時45分前示衝突地点の中央ふ頭南側岸壁に,左舷付けで係岸した。
B船長は,係岸後,単独で在船し,マスト頂部の停泊灯と,船橋楼周りに10個の夜間照明を点灯して停泊当直に当たり,23時ごろから自室で就寝していたところ,翌未明,接近する機関音で目が覚めた直後,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,勝栄丸は,右舷船首部外板にペイント剥離(はくり)を,すみ丸は,右舷中央部ブルワークに亀裂を伴う曲損を生じ,救命筏格納容器を損壊した。
B船長は,衝突の衝撃を感じて甲板上に出て,状況の確認と事後の処置に当たった。
(本件発生に至る事由)
1 勝栄丸
(1)急激に視界が制限されたとき,一旦機関を停止して周囲の状況などの確認を行わなかったこと
(2)岸壁等の視認状況の変化に気をとられたこと
(3)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)水路に沿って左転しないで北上し,すみ丸を十分に離す針路としなかったこと
2 その他
(1)本件発生地点付近の海域が屈曲した水路であったこと
(2)視界が制限された状況であったこと
(原因の考察)
本件は,勝栄丸が,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,すみ丸への接近状況に気付き,同船を十分に離す針路として容易に発生を回避することができたと認められる。
したがって,A受審人が,岸壁等の視認状況の変化に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わず,水路に沿って左転しないで北上し,すみ丸を十分に離す針路としなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が,急激に視界が制限されたとき一旦機関を停止して周囲の状況などの確認を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難発生防止の観点から是正されるべき事項である。
本件発生地点付近の海域が屈曲した水路であったこと及び視界が制限された状況であったことは,本件発生に関与があったものの,原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,勝栄丸が,濃霧によって視界が制限された新潟県新潟港西区を発航する際,レーダーによる見張り不十分で,水路に沿って左転しないで北上し,係岸中のすみ丸を十分に離す針路としなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,濃霧によって視界が制限された新潟県新潟港西区を発航する場合,付近に係岸中の他船に著しく接近することのないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,濃霧による岸壁等の視認状況の変化に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,水路に沿って左転しないで北上し,係岸中のすみ丸を十分に離す針路としないまま進行して同船との衝突を招き,勝栄丸の右舷船首部外板にペイント剥離を,すみ丸の右舷中央部ブルワークに亀裂を伴う曲損と救命筏格納容器の損壊とを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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