(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月4日12時00分
新潟県両津港港内
(北緯38度05.0分東経138度26.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船みさご丸 |
総トン数 |
6.54トン |
全長 |
11.43メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
(2)設備及び性能
みさご丸は,B社製の連続最大出力44キロワットの主機を搭載し,昭和52年5月に進水した一本釣り漁などに従事するFRP製漁船で,平成12年9月にC社製の連続最大出力235キロワット,機関回転数毎分2,710の主機に換装した。
また,航海計器としてレーダー1台,自動衝突予防援助装置及び衛星航法装置などを設備し,操業用機器として魚群探知器を備えていた。
3 事実の経過
みさご丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年8月4日04時00分新潟県両津漁港を発し,同県佐渡島の弾埼東方沖合の漁場に向かった。
05時00分A受審人は,前示漁場に至り,弾埼北方沖合や同西方沖合を適宜移動しながら操業を続け,はた約15キログラムを獲て操業を終え,同日10時40分弾埼灯台から105度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点を発進して帰途に就いた。
漁場発進時,A受審人は,針路を183度に定め,機関回転数を全速力前進より少し落とした11.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,発進すると間もなく,床面からの高さが約70センチメートルで,幅約40センチメートルの渡し板に腰を掛け,周囲の見張りを行いながら昼食をとり始め,宮ノ埼灯台の北東方で針路を転じる前に食事を終えた。
11時13分少し過ぎA受審人は,宮ノ埼灯台から060度2.1海里の地点に達したとき,針路を207度に転じ,その後,その針路を保って続航していたところ,食事をとった直後であったうえ,海上も静穏で,周囲に他船もいない状況の下,連日の操業で疲労が蓄積した状態となっていたのであるから,渡し板に腰を掛けて当直にあたっていると居眠りに陥るおそれがあったが,自らは眠気を覚える状態とはなっていなかったので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,立ち上がって外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
11時35分少し過ぎA受審人は,宮ノ埼灯台から182度2.8海里の地点に達したとき,針路模様を確認したところ,偏位もなく正常に航行しており,改めて針路を修正する必要もなかったので,このまま航行を続ければ良いものと思って進行しているうち,気が緩み,間もなく居眠りに陥った。
こうして,みさご丸は,A受審人が居眠りに陥り,両津港の北防波堤に向首進行していることに気付かないまま進行中,12時00分両津港北防波堤灯台から294.5度750メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その船首が北西方から138度方向に延びる北防波堤に衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
衝突の結果,船首部を圧壊するなどの損傷を生じた。
(本件発生に至る事由)
1 渡し板に腰を掛けて船橋当直をしていたこと
2 昼食をとったばかりであったこと
3 海上が静穏であったこと
4 周囲に他船がいなかったこと
5 眠気の自覚がなかったこと
6 3日前から連続して出漁し,疲労が蓄積した状態にあったこと
7 針路の修正の必要がなく,そのままの針路を保っていれば良いと思っていたこと
8 居眠りに陥ったこと
(原因の考察)
本件は,新潟県両津港に向けて漁場から帰港中,当直にあたっていた当直者が居眠りに陥り,同港の北防波堤に向首進行して同堤に衝突したものであるが,以下その原因について考察する。
A受審人が,3日ほど前から連続して操業に従事し,疲労が蓄積した状態にあり,食事をとったばかりであったこと,海上模様も静穏で周囲に気になる他船が存在しなかったこと,針路模様を確認したとき,正常に航行しており,そのままの針路を保っていれば良いと思ったこと,操舵室内の渡し板に腰を掛けたまま当直にあたり居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,眠気の自覚がなかったことは,本件発生に関与があったものの,原因とはならない。
(海難の原因)
本件防波堤衝突は,新潟県両津湾において,漁場から両津漁港に帰港する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,両津港の北防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,新潟県両津湾において,連日の操業で疲れが溜まった状態で漁場から両津漁港に帰港する場合,渡し板に腰を掛けて当直にあたっていると居眠りするおそれがあったから,居眠りに陥ることのないよう,立ち上がって外気にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,自らは眠気を感じていなかったので,まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,海上も静穏で周囲に他船がおらず,針路の修正の必要もなかったことから,渡し板に腰を掛けているうち,気が緩んで居眠りに陥り,両津港の北防波堤に向首進行して同堤との衝突を招き,船首部を圧壊するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
|