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平成17年函審第24号
件名

漁船弘漁丸貨物船ポスアンビション衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,西山烝一,野村昌志)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:弘漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
弘漁丸・・・船首部に亀裂を伴う凹損
ポスアンビション・・・左舷中央部外板に擦過傷

原因
弘漁丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守
ポスアンビション・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は,弘漁丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,ポスアンビションが,見張り不十分で,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げないまま投縄中の弘漁丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月19日04時35分
 津軽海峡
 (北緯41度17.0分 東経140度12.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船弘漁丸 貨物船ポスアンビション
総トン数 4.9トン 75,277トン
全長   269.00メートル
登録長 13.25メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   12,834キロワット
漁船法馬力数 90  
(2)設備及び性能等
ア 弘漁丸
 弘漁丸は,平成5年8月に進水したはえなわ漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に船橋があるFRP製漁船で,操舵室にはレーダー1台,GPAプロッタ及び魚群探知機などが装備されていた。
イ ポスアンビション
 ポスアンビション(以下「ポ号」という。)は,西暦1992年に大韓民国コジェで建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋にはレーダー2台,GPSプロッタ及びコースレコーダなどが装備されており,船首端より船橋前面までの距離が227メートルであった。

3 事実の経過
 弘漁丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年10月19日02時30分北海道館浜漁港を発し,同漁港南方沖合の漁場に向かった。
 ところで,弘漁丸のまぐろはえなわ漁は,津軽海峡西口付近で行われ,同業漁船が多く,また,海潮流の影響により,はえなわが絡むおそれがあることから,同業漁船は北緯41度21分の緯度線を投縄開始線とし,船間間隔をそれぞれ0.5海里とって横一線に並び,04時00分一斉に南方に向かって投縄を開始することに取り決めがなされていた。
 そうして,はえなわは,幹縄の45メートルおきに先端に針の付いた長さ15メートルの枝糸をつけ,針数が18本,長さ約1,000メートルを1篭として6篭備え,最初に錘とボンデンの付いた幹縄を投入し,針の投入時には餌である活いかを手ですくって針に付け,この針を3本投入する毎に長さ15メートルの浮玉吊ロープ及び針9本投入毎に旗の付いたボンデンを装着して投下するものであり,操業中は操縦性能が制限される状態にあった。
 A受審人は,出航に際して航行中の動力船が掲げる灯火のほか,中央部マスト上端に黄色回転灯を点灯し,03時30分白神岬南方沖合3.0海里ばかりの漁場に至って漂泊し,操業準備のため操舵室前方と後方に作業灯各1個を点灯して投縄開始時刻を待った。
 04時00分A受審人は,白神岬灯台から203度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点において,針路を自船の磁気コンパスの真南となる168度に定め,機関を半速力前進にかけ,折からの海潮流によって10度左方に圧流されながら,実効針路158度及び5.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
 発進後,A受審人は,船尾甲板で右舷側を向いて立ち,操舵室から延長コードを伸ばした遠隔操縦装置を傍らに置いて機関を適宜調整するとともに,はえなわに餌を付けて投縄を開始したが,前部マスト上方に取り付けられていた,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げなかった。
 04時29分A受審人は,白神岬灯台から182度5.3海里の地点に至ったとき,右舷船首50度1.9海里のところにポ号の掲げる,白,白,紅3灯を視認することができ,その後,同船の方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で互いに接近することを認め得る状況であったが,餌の活いかを針に取り付けることに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,行きあしを停止するなど同船との衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 04時35分わずか前A受審人は,はえなわ5,500メートルばかりを延出したとき,ポ号の波切り音を耳にして右舷船首至近に迫った同船に気付き,衝突の危険を感じて機関を後進にかけたが効なく,04時35分白神岬灯台から179度5.9海里の地点において,弘漁丸は,原針路,原速力のまま,その船首がポ号の左舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の東南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には約1.0ノットの東北東流があった。
 また,ポ号は,フィリピン共和国人の船長B及び一等航海士Cほか同国人19人及びオーストラリア連邦国人1人が乗り組み,同乗者1人を乗せ,空倉のまま,船首7.7メートル船尾9.8メートルの喫水をもって,同月15日13時00分(現地時間)中華人民共和国ナントン港を発し,カナダロバーツバンク港に向かった。
 B船長は,津軽海峡東航時の船橋当直者に対し,見張りを厳重にするよう船長命令簿により指示していたが,通峡時に多数の漁船を認めたときは,船長に報告するよう指示していなかった。
 越えて,18日04時00分C一等航海士は,甲板員1人とともに船橋当直に就いて北東進し,04時08分白神岬灯台から211度12.0海里の地点に達したとき,左舷前方7海里から10海里に多数の漁船の灯火を認めたが,このことを船長に報告しないまま,針路を055度に定め,機関を全速力前進の16.0ノットにかけて,折からの海潮流に乗じ,17.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 一方,自室で休息中のB船長は,C一等航海士から何の報告も受けなかったので,多数の漁船が操業する津軽海峡通航の指揮を執ることができなかった。
 04時29分C一等航海士は,白神岬灯台から191度7.0海里の地点に達したとき,左舷船首17度1.9海里のところに南下する弘漁丸の白,緑2灯のほか黄色回転灯及び作業灯を視認できる状況であり,その後,弘漁丸の方位に変化がないまま,衝突のおそれがある態勢で接近していたが,正船首方2.7海里ばかりのところを右方に航過する漁船の灯火に気を奪われ,左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気が付かず,右転するなど弘漁丸との衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 04時34分半C一等航海士は,左舷船首17度320メートルのところに弘漁丸の灯火を初めて認め,衝突の危険を感じて甲板員に右舵を令したが効なく,ポ号は,原速力のままその船首が058度を向首したとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,弘漁丸は,船首部に亀裂を伴う凹損を生じ,ポ号は,左舷中央部外板に擦過傷を生じた。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,津軽海峡西口付近において,南下する弘漁丸と東航するポ号とが,互いに衝突のおそれのある態勢で接近し衝突したものである。
 弘漁丸は,はえなわに餌を付けて投縄作業中であり,操縦性能が制限される状況にあったが,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げていなかった。
 また,航行中の動力船であるポ号は,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げていない弘漁丸を,漁ろうに従事している船舶と識別できず単なる航行中の動力船と認識する可能性があった。
 したがって,両船舶間に一致した客観的認識が得られない状況にあったと認められるので,海上衝突予防法第18条の各種船間の航法を適用することも同法第15条に規定されている横切り船の航法を適用することも相当でなく,本件は船員の常務によって律することとなる。

(本件発生に至る事由)
1 弘漁丸
(1)漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げずに操業していたこと
(2)A受審人が,右舷船尾で投縄作業に当たっていたこと
(3)A受審人が,見張りを十分に行っていなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 ポ号
(1)B船長の船橋当直者に対する報告事項についての指示が十分でなかったこと
(2)C一等航海士が,津軽海峡西口付近において多数の漁船を認めたとき,その旨を船長に報告しなかったこと
(3)C一等航海士が,見張りを十分に行っていなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,弘漁丸が,見張りを十分に行っていたなら,接近するポ号を認識して衝突を避けるための措置がとれ,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 弘漁丸が,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,海難防止の観点から,所定の灯火を掲げるようにしなければいけない。
 A受審人が,船尾甲板で投縄作業に当たっていたことは,見張りに何ら支障はなく,また,体を少し動かせば,操舵室のレーダーも見ることができていたのであるから,本件発生の原因とならない。
 他方,ポ号が,見張りを十分に行っていたなら,接近する弘漁丸を認識して衝突を避けるための措置がとれ,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,B船長が船橋当直者に対する報告事項についての指示が十分でなかったこと,C一等航海士が,津軽海峡西口付近において多数の漁船を認めたとき,その旨を船長に報告しなかったこと及び同一等航海士が,見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,津軽海峡西口付近において,漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げないままはえなわを投入している弘漁丸と,東航中のポ号が,互いに衝突のおそれのある態勢で接近中,弘漁丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,ポ号が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 ポ号の運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,多数の漁船を認めたら報告するよう指示しなかったことと,船橋当直者が,多数の漁船を認めたことを船長に報告しなかったこと及び見張りが十分でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,津軽海峡西口付近において,まぐろはえなわ漁業を行う場合,接近するポ号を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,餌の活いかを針に取り付けることに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ポ号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き,弘漁丸の船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせ,ポ号の左舷中央部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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