(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月26日03時15分
北海道チキウ岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十一瑞寶丸 |
漁船第八幸栄丸 |
総トン数 |
9.9トン |
7.9トン |
全長 |
|
17.50メートル |
登録長 |
13.10メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
|
433キロワット |
漁船法馬力数 |
120 |
|
3 事実の経過
第三十一瑞寶丸(以下「瑞寶丸」という。)は,船体中央部に操舵室を備えた,いか一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和63年11月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.9メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年7月25日15時00分北海道鹿部漁港を発し,チキウ岬南東方沖合16海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は,17時ごろ前示漁場に着き,所定の灯火のほか集魚灯を点じて魚群探索を行ったのち,19時00分チキウ岬灯台から137度(真方位,以下同じ。)16.2海里の地点で,機関を中立運転とし,船首からシーアンカーを投入して漂泊したあと,レーダーを3海里レンジとして作動させたまま,自動いか釣り機により操業を開始した。
翌26日03時12分A受審人は,チキウ岬灯台から145度16.0海里の地点で,船首が035度を向いていたとき,左舷船首32度980メートルのところに,南下中の第八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)の白,紅,緑3灯を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが,集魚灯を点灯しているので,漂泊中の漁船と判断して避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,シーアンカーを解き放って機関を前進させるなど,衝突を避けるための措置もとらないまま,操舵室右舷側に立ち,右舷方の海面を注視して操業を続けた。
瑞寶丸は,漂泊して操業中,03時15分チキウ岬灯台から145度16.0海里の地点において,船首が035度を向いていたとき,その左舷中央部に幸栄丸の船首部が前方から15度の角度で衝突した。
当時,天候は霧模様で風力1の北西風が吹き,潮候はほぼ低潮時で,視程は約1海里であった。
また,幸栄丸は,船体中央部に操舵室を備えた,いか一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和58年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同月25日16時00分北海道椴法華港を発し,同港北方沖合20海里ばかりの漁場に向かった。
B受審人は,18時ごろ前示漁場に着いて魚群探索を行ったあと,19時30分ごろ操業を開始し,翌26日02時30分いか約300キログラムを漁獲して操業を終え,02時57分チキウ岬灯台から137度13.7海里の地点を発進し,所定の灯火を掲げて椴法華港に向け帰途に就いた。
発進したとき,B受審人は,針路を183度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分1,600にかけ,10.5ノットの対地速力で進行し,発進後間もなく,3海里レンジで作動中のレーダーに他船の映像を認めなかったことから,前方を向いて操舵室の床に座り,新しく購入した魚群探知器の調整を始めた。
B受審人は,03時12分チキウ岬灯台から144度15.7海里の地点に達したとき,正船首980メートルのところに,航海灯及び集魚灯を掲げて漂泊している瑞寶丸を視認することができ,その後,衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが,依然,魚群探知器の調整に気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,転舵するなど同船を避けないまま続航した。
03時15分わずか前B受審人は,集魚灯の明かりが操舵室の窓を通して差し込んできたことから,立ち上がって前方を見たところ,正船首至近に瑞寶丸を認め,衝突の危険を感じ,手動操舵に切り替えて右舵一杯とし,機関の回転数を下げたが,効なく,幸栄丸は,船首が200度に向いて,ほぼ原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,瑞寶丸は,左舷側いか釣り機などに損傷を生じたが,のち修理され,幸栄丸は,左舷側船首部外板に凹損を伴う擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は,夜間,北海道チキウ岬南東方沖合において,帰航中の幸栄丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の瑞寶丸を避けなかったことによって発生したが,瑞寶丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,北海道チキウ岬南東方沖合において,帰航のため南下する場合,前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。
しかし,同人は,魚群探知器の調整に気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,瑞寶丸の存在に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,幸栄丸の左舷側船首部外板に凹損を伴う擦過傷を,瑞寶丸の左舷側いか釣り機などに損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,夜間,北海道チキウ岬南東方沖合において,操業のため漂泊する場合,左舷前方から接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,集魚灯を点灯しているので,漂泊中の漁船と判断して避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。