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平成17年函審第30号
件名

漁船第五十八泰安丸漁船第七千宝丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年9月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志)

副理事官
福島正人

受審人
A 職名:第五十八泰安丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第七千宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五十八泰安丸・・・船首部外板に破口を伴う擦過傷,基板の電路が短絡
第七千宝丸・・・船首部圧壊,集魚灯及びいか釣り機などが損壊

原因
第五十八泰安丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第七千宝丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第五十八泰安丸が,漂泊中の第七千宝丸を避けなかったことによって発生したが,第七千宝丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月17日00時55分
 北海道乙部漁港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八泰安丸 漁船第七千宝丸
総トン数 19トン 3.4トン
登録長 18.02メートル 11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第五十八泰安丸(以下「泰安丸」という。)は,昭和59年2月に進水した,はえなわ漁業などに従事するFRP製漁船で,A受審人(平成5年4月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか5人が乗り組み,えびかご漁の目的で,船首1.2メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成15年7月17日00時30分北海道乙部漁港を発し,同港北西方沖合8海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,同年5月1日から泰安丸の甲板員として乗り組んでいたが,7月16日から3日間,臨時で船長職を執ることになったものであり,11ノットほどの全速力前進中における同船の最短停止距離及び同時間がそれぞれ約100メートル及び20秒ほどであることを承知していた。
 A受審人は,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,00時35分乙部港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から301度(真方位,以下同じ。)450メートルの地点で,針路を286度に定め,機関を回転数毎分1,200の前進にかけ,折からの海潮流により2度右方に圧流されながら7.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,右舷わずか船首2.4海里のところに漂泊中の第七千宝丸(以下「千宝丸」という。)のレーダー映像及び集魚灯の明かりを初認し,海潮流の状況や漁模様などを聞くため地元漁船が使用する無線の周波数で千宝丸を呼びかけたものの,返答がなかったことから不審に思い,00時51分北防波堤灯台から289.5度2.1海里の地点に至ったとき,880メートル前方の同船の様子を確かめるため,自動操舵のまま針路を同船に向けて291度に転じ,2度右方に圧流されながら同じ速力で続航した。
 00時53分A受審人は,北防波堤灯台から290度2.4海里の地点に達したとき,千宝丸に正船首440メートルまで接近したことから,同船の船尾方を替わすため,自動操舵のダイヤルをわずか左にまわして進行した。
 00時54分少し前A受審人は,北防波堤灯台から290度2.5海里の地点に至り,前路の千宝丸と方位の変化がなく同船に向首したまま280メートルに接近したことから,舵効が得られない異常に気付き,遠隔による手動操舵に切り替えて左舵をとっても依然として舵効が得られず,同船に衝突のおそれがある態勢のまま接近する状況となったが,直接舵輪によって転舵すれば舵効が得られるものと思い,直ちに機関を後進にかけて千宝丸を避けることなく進行した。
 こうして,泰安丸は,A受審人が舵効を期待し,直接舵輪によって操舵したが,なおも舵効が得られないまま続航中,00時55分北防波堤灯台から290度2.6海里の地点において,原針路原速力のまま,その船首部が千宝丸の右舷船首部に前方から31度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の東風が吹き,潮候は低潮時で付近海域には0.25ノットの北流があり,視界は良好であった。
 また,千宝丸は,昭和57年11月に進水した,いか一本つり漁業などに従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和50年1月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,いか漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成15年7月16日18時00分乙部漁港を発し,同港西方沖合2.5海里の漁場に向かった。
 B受審人は,18時30分漁場に到着し,19時00分機関を中立運転として船首からシーアンカーを投入するとともに航行中の動力船が掲げる灯火のほか集魚灯を点灯し,無線の周波数を他漁業協同組合所属のいか釣り漁船に合わせ,無線を傍受しながら漂泊して操業を開始した。
 翌17日00時35分B受審人は,北防波堤灯台から288.5度2.6海里で,船首を080度に向け,折からの海潮流により北方へ0.25ノットの速力で流されながら操業していたところ,右舷船首27.5度2.4海里のところに乙部漁港から出漁する1隻のレーダー映像を認め,出漁時刻などからえびかご漁船の泰安丸と判断し,その後いか釣り機の見回りなどを行って漂泊を続けた。
 00時54分少し前B受審人は,泰安丸が右舷船首33度280メートルに接近し,レーダー映像のほか同船の掲げる白,緑,紅3灯をも視認することができ,衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近したが,漁場の異なる泰安丸が自船に接近することはないものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく,左舷船尾甲板でいか釣り機の監視などを行って漂泊を続けた。
 00時55分わずか前B受審人がふと右舷船首方を見上げたところ,間近に迫る泰安丸の船首部を認めたが,どうすることもできず,千宝丸は,080度を向首したまま漂泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,泰安丸は,船首部外板に破口を伴う擦過傷を生じ,千宝丸は,船首部を圧壊し,集魚灯及びいか釣り機などを損壊した。
 なお,修理業者により泰安丸の操舵設備を点検したところ,湿気などのためか,基板の電路が短絡していたことが判明した。

(原因)
 本件衝突は,夜間,北海道乙部漁港北西方沖合において,泰安丸が,舵効が得られず,前路で漂泊中の千宝丸に衝突のおそれがある態勢のまま接近する状況となった際,直ちに機関を後進にかけて同船を避けなかったことによって発生したが,千宝丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,北海道乙部漁港北西方沖合において,自動操舵及び遠隔による手動操舵によって転舵しても舵効が得られず,前路で漂泊中の千宝丸に衝突のおそれがある態勢のまま接近する状況となったのを認めた場合,直ちに機関を後進にかけて同船を避けるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,直接舵輪によって転舵すれば舵効が得られるものと思い,直ちに機関を後進にかけて千宝丸を避けなかった職務上の過失により,舵効を期待して操舵を続けたまま進行し,同船との衝突を招き,泰安丸の船首部外板に破口を伴う擦過傷を生じさせ,千宝丸の船首部を圧壊させるとともに集魚灯及びいか釣り機などを損壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,北海道乙部漁港北西方沖合において,漂泊中,接近する泰安丸のレーダー映像を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,漁場の異なる泰安丸が自船に接近することはないものと思い,泰安丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近していることに気付かず,機関を使用して衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,泰安丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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