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平成17年長審第27号
件名

漁船照吉丸遊漁船八重丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:照吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:八重丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
照吉丸・・・右舷船首部に破口
八重丸・・・右舷船首部に破損,釣り客1人が右大腿筋膜張筋挫傷等の負傷

原因
照吉丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
八重丸・・・注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,照吉丸が,見張り不十分で,錨泊中の八重丸を避けなかったことによって発生したが,八重丸が,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月7日12時00分
 玄界灘烏帽子島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船照吉丸 遊漁船八重丸
総トン数 12トン 4.96トン
全長 18.80メートル 13.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   95キロワット
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 照吉丸は,引き網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士免許取得,平成17年3月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)がほか1人と乗り組み,たい2そうごち網漁を行う目的で,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年6月7日05時00分僚船と共に福岡県福吉漁港を発し,玄界灘烏帽子島南方の漁場に向かった。
 06時00分A受審人は,烏帽子島灯台から南東方0.5海里の漁場に到着して操業に取り掛かり,左舷側200メートルに位置する僚船と共に南西方に向かって2ないし2.5ノットの引き網速力(対地速力,以下同じ。)で約45分間網を引き,約40分かけて揚網することを繰り返し,4回目の投網地点に向かうため,後部甲板で引き揚げた網の整理作業を終えて操舵室に入り,11時57分半烏帽子島灯台から199度(真方位,以下同じ。)3.7海里の地点を発進し,針路を042度に定め,機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの速力とし,舵輪後方の椅子に腰を掛けて手動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,正船首方700メートルのところに八重丸が存在し,その後,同船が錨泊中であることを示す形象物を表示していなかったものの,船尾から錨索を伸ばして船尾を風上に向け,移動していない状況から,同船が錨泊中の船舶であることが分かり,同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,発進するとき前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はないものと思い,前方の見張りを十分に行うことなく,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,右転するなど,八重丸を避けないまま,徐々に機関の回転数を上げ,やがて13.0ノットの全速力前進として続航中,12時00分烏帽子島灯台から197度3.3海里の地点において,照吉丸は,原針路のまま,その船首が八重丸の右舷船首部に直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は高潮時であった。
 また,八重丸は,FRP製遊漁船で,B受審人(昭和50年9月一級小型船舶操縦士免許取得,平成17年3月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,釣り客4人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日05時00分福吉漁港を発し,玄界灘烏帽子島南方3海里付近の釣り場に向かった。
 06時00分目的地に着いたB受審人は,前示の衝突地点において,左舷船尾から重さ45キログラムの錨を水深約40メートルの海中に投じ,直径30ミリメートルの化学繊維製錨索を約60メートル繰り出し,所定の形象物を表示しないまま,機関を停止し,遊漁を始めた。
 11時57分半B受審人は,折からの北西風を受けて船尾が風に立って船首が132度を向き,操舵室の右舷側の椅子に腰を掛けて周囲の見張りを行っていたとき,右舷正横700メートルのところに,1時間ほど前から認めていた友人のA受審人が乗船する照吉丸が,揚網を終えて次の投網のために動き出し,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが,注意喚起信号を行わず,同船が間近に迫って衝突の危険を感じたものの,A受審人がいつものように釣果を聞きに近寄ってくるものと思い,錨索を解き放ち機関を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとることなく,同じ状態で錨泊中,12時00分わずか前照吉丸の接近模様に異常を感じて主機を起動しようとした直後,八重丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,照吉丸は,右舷船首部に八重丸のかんぬきとの接触による破口を,八重丸は,右舷船首部に破損をそれぞれ生じ,八重丸の釣り客1人が衝突の衝撃で転倒して右大腿筋膜張筋挫傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は,玄界灘烏帽子島南方沖合において,漁場を移動中の照吉丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の八重丸を避けなかったことによって発生したが,八重丸が,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,玄界灘烏帽子島南方沖合において,漁場を移動する場合,前路で錨泊中の八重丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,発進するとき前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はないものと思い,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の八重丸に気付かず,右転するなど,同船を避けないまま進行して衝突を招き,照吉丸の右舷船首部に八重丸のかんぬきとの接触による破口を,八重丸の右舷船首部に破損をそれぞれ生じさせ,八重丸の釣り客1人に右大腿筋膜張筋挫傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,玄界灘烏帽子島南方沖合において,所定の形象物を表示しないまま,釣りのため錨泊中,右舷正横から自船に衝突のおそれがある態勢で接近している照吉丸を認めた場合,錨索を解き放ち機関を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,友人のA受審人がいつものように釣果を聞きに近寄ってくるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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