(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月8日14時00分
沖縄県那覇港南西方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八光洋丸 |
遊漁船海盛丸 |
総トン数 |
17.32トン |
|
全長 |
|
9.80メートル |
登録長 |
|
13.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
121キロワット |
3 事実の経過
第八光洋丸(以下「光洋丸」という。)は,昭和57年8月に進水したまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で,昭和52年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほかインドネシア人研修生3人が乗り組み,操業の目的で,喫水不詳のまま,平成17年1月8日13時20分那覇港内の泊漁港を発し,沖縄島南方120海里ばかりの漁場に向かった。
ところで,光洋丸は,船体中央部やや船首寄りに操舵室を,同室船尾側に船員室を配し,操舵室には,同室前部に設けた棚の中央部に舵輪,その左舷側に自動操舵装置,右舷側に,主機監視盤,主機遠隔操縦用クラッチレバー及びスロットルレバーを装備し,同棚右舷側端に,ケーブルで接続された,主機遠隔操作及び遠隔操舵をともにできる遠隔管制器が置かれていた。そして,同室後部には,両舷側壁に接してそれぞれ棚が設けられ,右舷側の棚の上には,画面を左舷側に向けてレーダーが,左舷側の棚の上には,GPSプロッター及びロランC受信機等が装備されていた。
発航後,A受審人は,操舵室上部で遠隔管制器を使用して那覇港内の操船に当たり,13時42分那覇国際空港飛行場灯台(以下「飛行場灯台」という。)から357度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点で,操舵室上部から降りて操舵室内に移動し,針路を230度に定めて自動操舵に切り替え,機関を回転数毎分1,300として7.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は,定針したとき,前路を一瞥しただけで,他船を認めなかったことから,船首方に支障となる船はいないものと思い,前路の見張りを行わず,船員室で待機していた研修生の様子を見に行き,その後,操舵室に戻り,同室後部で,右舷側を向いた姿勢となって,レーダー画面上の海面反射の調整を始めた。
13時58分少し前A受審人は,飛行場灯台から289度1.6海里の地点に達したとき,正船首500メートルのところに,右舷側を見せた海盛丸を視認することができ,その後,折からの北風に船首を立てたまま同船の船首方位が変わらないことや,航走波が見えず,正船首方から移動しないことなどから,同船が漂泊中であり,衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認め得る状況であったが,レーダーの調整に気をとられ,前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けることなく続航した。
13時59分A受審人は,正船首の海盛丸まで220メートルとなったものの,依然,前路の見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かず,同一針路,速力で進行し,14時00分飛行場灯台から281度1.7海里の地点において,光洋丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,前方から52度の角度で海盛丸の右舷船首部に衝突した。
当時,天候は曇で風力4の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
また,海盛丸は,平成2年7月に第1回定期検査を受けたFRP製遊漁船で,平成3年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,友人3人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日08時30分那覇港内の那覇新港船だまりを発し,同港唐口北西方2海里ばかり沖の釣場に至って釣りを開始した。
ところで,海盛丸は,船体中央部に機関室囲壁を,その船尾方に操舵室を配し,船尾甲板には,甲板上約2メートルの高さでオーニングを設け,船体を白色に塗装されていた。
B受審人は,釣場を何度か移動したのち,13時30分前示衝突地点付近に至り,機関を停止したのち,船首からパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入し,アイ加工したトーイングロープ先端を船首のビットにかけ,引き揚げ索を同ビットに結びつけて漂泊し,同乗者のうち2人を船首部に移動させ,自らは他の1人と,船尾部で左舷側を向いて釣りを始めた。
13時58分少し前B受審人は,折からの風潮流により船首が358度に向いていたとき,右舷船首52度500メートルのところに,自船に向首し,その後,衝突のおそれがある態勢で接近する光洋丸を視認することができる状況となったが,漂泊を開始したときに周囲を見回したところ,他船を見かけず,同乗者に何か気付いたら知らせるように言っていたので,大丈夫と思い,左舷側を向いた姿勢で釣りを続け,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,シーアンカーを放し,機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
14時00分わずか前B受審人は,同乗者の知らせで,振り向いて右舷側を見たとき,目前に迫った光洋丸を初めて視認し,船首部にいた同乗者を船尾部に移動させたほか,どうすることもできずにいるうちに,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,光洋丸は,船首部に擦過傷を生じ,海盛丸は,右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損及び船首部ガンネルに破損を生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,那覇港南西方沖において,漁場に向けて航行中の光洋丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の海盛丸を避けなかったことによって発生したが,海盛丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,那覇港南西方沖において,漁場に向けて航行する場合,前路で漂泊中の海盛丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,定針したとき前路を一瞥しただけで,他船を認めなかったことから,船首方に支障となる他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の海盛丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,光洋丸の船首部に擦過傷を,海盛丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損及び船首部ガンネルに破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,那覇港南西方沖において,漂泊して釣りを行う場合,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する光洋丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,漂泊を開始したときに周囲を見回したところ,他船を見かけず,同乗者に何か気付いたら知らせるように言っていたので,大丈夫と思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近する光洋丸に気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。