(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月4日15時10分
玄界灘
(北緯33度56.3分東経130度33.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船第五春日丸 |
モーターボートケイIII |
総トン数 |
198トン |
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全長 |
46.50メートル |
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登録長 |
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6.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
588キロワット |
84キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第五春日丸
第五春日丸(以下「春日丸」という。)は,昭和60年10月に進水した,凹甲板船尾船橋型の鋼製油タンカーで,船尾楼前方の甲板下左右両舷に区画された貨物油槽各4個が,同楼上部に操舵室がそれぞれ配置されており,同室中央に操舵輪,その左側にレーダー,右側に主機遠隔操縦装置及びGPSプロッターなどが装備されていた。
同船は,主として,香川県菊間港及び同県坂出港から福岡県博多港及び関門港間のガソリンなどの輸送に従事していた。
イ ケイIII
ケイIIIは,昭和63年3月に進水した最大搭載人員9人のFRP製プレジャーモーターボートで,船体中央部に操縦室を有し,同室右舷側に舵輪及び機関の遠隔操縦ハンドルを備え,魚群探知機及びモーターホーンなどが装備されていた。
3 事実の経過
春日丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み,空倉で,船首0.6メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成16年9月4日12時10分博多港を発し,山口県徳山下松港へ向かった。
A受審人は,発航後,舵と機関とを適宜使用して博多港を出航し,12時50分福岡湾湾口で,昼食を終えて昇橋してきたB指定海難関係人に単独の船橋当直を任せることとしたが,同指定海難関係人が同当直の経験を豊富に持っているので大丈夫と思い,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示することなく,降橋して休息をとった。
船橋当直に就いたB指定海難関係人は,関門海峡に向けて進行し,14時46分倉良瀬灯台から067度(真方位,以下同じ。)650メートルの地点で,針路を075度に定め,機関を全速力前進に掛けて10.5ノットの対地速力で,自動操舵により続航した。
15時04分B指定海難関係人は,倉良瀬灯台から074度3.3海里の地点に達したとき,右舷船首5度1.0海里のところに,船首を風に立てて東北東に向けたケイIIIの白いオーニングを初めて視認し,一瞥してゆっくり移動する小型船と判断し,同船の船尾方を航過してこれを避けるとともに,同船と波津白瀬灯浮標との間を通航することとして6度ばかり右に転針すればよいと考え,針路を同船を正船首わずか左方に見る081度に転じ,同船の船尾方に向けたので大丈夫と思い,右舷前方の波津白瀬灯浮標に近付き過ぎないようにすることに気をとられ,引き続きケイIIIに対する動静監視を十分に行うことなく,その後,同船が錨泊中の船舶であって,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま進行した。
春日丸は,右転するなどしてケイIIIを避けず,同じ針路及び速力で続航中,15時10分倉良瀬灯台から075度4.3海里の地点において,その船首がケイIIIの右舷船尾に真後ろから衝突した。
当時,天候は曇で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は,衝突した旨の報告を受け,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また,ケイIIIは,C受審人が単独で乗り組み,友人2人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日06時50分福岡県遠賀郡西川西岸の係留地を発し,波津白瀬北方の釣り場に向かった。
C受審人は,07時10分ごろ遠賀川河口沖合3海里ばかりの地点に到着して魚釣りを始め,その後,釣り場所を移動して12時20分波津白瀬灯浮標北西方500メートルばかりの水深約30メートルの前示衝突地点付近に船首から重さ5キログラムの錨を投入し,錨索を約60メートル延出して機関を停止し,船首のポールに黒球を掲げて錨泊し,魚釣りを再開した。
15時04分C受審人は,船首を081度に向けて後部甲板右舷側の物入れの上に腰を掛け,右舷側に釣り竿を出して釣りをしていたとき,正船尾1.0海里のところに,自船に向かって接近する春日丸が存在していたが,錨泊地点が貨物船の航行する海域から南方に離れていたことから,付近を航行する貨物船などはいないものと思い,友人の釣りの手助けをしたり,周囲の釣り船の様子をうかがったりしていて,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かなかった。
C受審人は,15時08分半春日丸が避航の気配を見せないまま,衝突のおそれがある態勢で500メートルまで接近したが,依然,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,注意喚起信号を行わずに錨泊中,同時10分少し前ふと後方を見て,船尾方至近に迫った同船を初めて認め,急ぎモーターホーンを鳴らしたが,効なく,ケイIIIは,081度に
向首して錨泊中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,春日丸には損傷がなく,ケイIIIは右舷中央部及び船尾外板に亀裂を生じて浸水したが,巡視艇により芦屋港に引きつけられ,のち,修理された。
(本件発生に至る事由)
1 春日丸
(1)A受審人が,B指定海難関係人に対し,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示していなかったこと
(2)ケイIIIに対する動静監視を十分に行っていなかったこと
(3)ケイIIIを避けなかったこと
2 ケイIII
(1)錨泊地点が貨物船の航行する海域から南方に離れていたこと
(2)付近を航行する貨物船などはいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)注意喚起信号を行わなかったこと
(原因の考察)
A受審人が,B指定海難関係人に対し,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示していたなら,同指定海難関係人がケイIIIに対する動静監視を十分に行い,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付き,同船を避けることができたのであるから,同受審人が,同指定海難関係人に対し,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示していなかったこと,並びに同指定海難関係人が,ケイIIIに対する動静監視を十分に行わなかったこと及び同船を避けなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
ケイIIIが,適切な見張りを行っていたなら,自船に向かって接近する春日丸を早期に視認でき,その後,避航の気配がないまま接近する同船に対し,注意喚起信号を行って避航を促すことができたと認められる。従って,C受審人が,錨泊地点が貨物船の航行する海域から南方に離れていたので,付近を航行する貨物船などはいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったこと及び注意喚起信号を行わなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,春日丸が,玄界灘を東行中,動静監視不十分で,前路で錨泊中のケイIIIを避けなかったことによって発生したが,ケイIIIが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
春日丸の運航が適切でなかったのは,船長が,丙種甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に対し,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示しなかったことと,同当直者が,前路に他船を認めた際,動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
1 懲戒
A受審人は,玄界灘において,丙種甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に単独の船橋当直を任せる場合,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,同当直者が船橋当直の経験を豊富に持っているので大丈夫と思い,前路に他船を認めた際にはその動静監視を十分に行うよう,指示しなかった職務上の過失により,同当直者が,前路に認めたケイIIIに対する動静監視を十分に行わず,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,同船の右舷中央部及び船尾外板に亀裂を生じて浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は,玄界灘において,魚釣りの目的で錨泊する場合,自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,錨泊地点が貨物船の航行する海域から南方に離れていたことから,付近を航行する貨物船などはいないものと思い,友人の釣りの手助けをしたり,周囲の釣り船の様子をうかがったりしていて,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する春日丸に気付かず,注意喚起信号を行わずに錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
B指定海難関係人が,玄界灘において,単独で船橋当直に就いて東行中,前路に他船を認めた際,動静監視を十分に行わず,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま,同船を避けずに進行したことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,退職したことに徴し勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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