日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年門審第43号
件名

貨物船飛翔丸漁船隆利丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(尾崎安則,清重隆彦,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:飛翔丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:隆利丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
飛翔丸・・・左舷船首及び中央部外板に擦過傷
隆利丸・・・左舷船尾部を破損,引綱を切断して漁具が海没

原因
飛翔丸・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
隆利丸・・・各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,飛翔丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事中の隆利丸の進路を避けなかったことによって発生したが,隆利丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月16日11時27分
 山口県川尻岬北東方沖合
 (北緯34度31.8分東経131度04.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船飛翔丸 漁船隆利丸
総トン数 499トン 14.87トン
全長 76.50メートル  
登録長   16.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   160
(2)設備及び性能等
ア 飛翔丸
 飛翔丸は,平成9年11月に進水した航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型の全通二層甲板を備えた鋼製のばら積み貨物船で,船首端から船橋楼前面までの距離が60.8メートルあり,船橋楼前部の上甲板下に貨物倉1個が,3層をなした船橋楼の最上層前部に操舵室がそれぞれ配置され,同室からの前方の見通しは良く,同室内には前部中央に操舵スタンドが備えられ,その右側に,右舷側から順に主機遠隔操縦装置,ジャイロコンパスが,その左側に,右舷側から順に1号レーダー,2号レーダー,オートチャートプロッタが,1号レーダーの下方にGPSプロッタがそれぞれ備えられ,オートチャートプロッタ下部が海図棚となっていた。
 操舵スタンドにはGPSプロッタと連動したトラッキングユニットが備えられており,同スタンドの操舵モード切替スイッチを遠隔操舵に合わせ,同ユニットでトラッキング航行機能を作動させると,予定針路線を記憶し,潮流等の外力の影響で偏位した場合に自動修正して同線上を航行することなどができ,同ユニットの取扱説明書には,避航機能が備わっていないので,付近に他船が存在する海域等では同航行機能を使用しないよう注意書きが付されていた。
 また,旋回性能は,海上公試運転成績書によれば,舵角35度で右旋回するとき,90度回頭するのに要する時間が53秒であった。
イ 隆利丸
 隆利丸は,昭和50年10月に進水した小型機船底びき網漁業に従事する全通一層甲板のFRP製漁船で,船体中央部に機関室を有し,その上に操舵室が配置され,同室後壁の両舷側に設置された窓から後方を見ることができ,同室内にはマグネットコンパス,レーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機が備えられ,操舵輪はなく,手動操舵は遠隔操舵装置のダイヤルを操作することによって行われていた。
(3)隆利丸の漁具及び漁法等
 隆利丸の底びき網漁具は,引綱等の構成が,径26ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ650メートルの合成繊維製索に径30ミリ長さ約450メートルのコンパウンドロープを繋いだ引綱と,径36ミリ長さ400メートルの合成繊維製索に径30ミリ長さ50メートルのコンパウンドロープを繋いだ手綱とからなっており,これらを連結して全長を約1,550メートルとし,2本を1組として使用していた。
 網は,長さ40メートルの袖網と長さ20メートルの袋網とからなり,左右の袖網先端に手綱をそれぞれ取り付けていた。
 漁法は,かけ回し方式で,右舷側の引綱の先端にフロートを取り付けて海中に投下し,時計回りに同側引綱,手綱,網そして左舷側手綱,引綱の順に繰り出し,底付きの魚群を包囲しながら同フロートの位置に戻り,右舷側引綱を船内のリールウインチに取り込んで,船首を網と反対の方向に向けて機関を適宜使用し,左右の引綱等の寄せ及び漕ぎ方を行って魚群を網側に寄せたのち,えい網して更に袋網に追い込み,その後,引綱等を同ウインチに巻き込んで揚網にかかっていた。
 各作業の所要時間は,投網に約15分,寄せ及び漕ぎ方に約20分,えい網に約20分,揚網に約25分であり,1回の操業に1時間25分ばかりかかっていた。

3 事実の経過
 飛翔丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,カルサインコークス1,150.72トンを積載し,船首3.64メートル船尾4.80メートルの喫水をもって,平成16年3月15日17時30分三池港を発し,舞鶴港に向かった。
 翌16日08時00分A受審人は,筑前大島灯台の北方沖合で,船橋当直を交代し,引き続き機関を毎分回転数260の全速力前進にかけ,操舵室の扉及び窓を全て閉めたまま,レーダー2台をスタンバイ状態とし,単独で操船に当たり,約12ノットの速力で,九州北部沿岸を進行した。
 A受審人は,山口県川尻岬沖合で小型底びき漁船等を2回にわたって避航したのち,前方に他船を認めなかったことから,11時15分少し前今岬灯台から318度(真方位,以下同じ。)6.9海里の地点で,同地点からGPSプロッタに記憶させていた出雲日御碕灯台から326度2.0海里のポイントまでの予定針路線を設定し,針路を053度に定めたうえ,トラッキング航行機能を作動させ,折からの潮流に乗じて13.1ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で続航した。
 11時22分A受審人は,今岬灯台から331度7.0海里の地点に達したとき,右舷船首3度1海里のところに隆利丸が存在したが,オートチャートプロッタのところで積み荷関係資料の整理等を行っていて同船の存在に気付かず,同じ針路,速力で進行した。
 11時24分半A受審人は,今岬灯台から336度7.1海里の地点に差しかかったとき,同方向0.5海里のところに北北東方に向いた隆利丸を初認したが,一べつして止まっているように見えたことから,停留して操業中の漁船であり,自船と危険な状況となることはないと思い,オートチャートプロッタの海図を交換することとし,同プロッタの後方に立って下を向き,海図棚の中から次に使用する海図を探し始め,その後,隆利丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,同船が法定の形象物を表示して低速力で漁ろうに従事していることや,同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることも,さらに同船が黄色回転灯を点灯して注意を促していることにも気付かず,右転するなどして同船の進路を避けることなく同じ針路,速力のまま続航した。
 11時26分A受審人は,隆利丸が430メートルに接近したとき,同船が電子ホーンを吹鳴したものの,依然として海図を探すことに気を奪われていて聞こえず,同船の進路を避けないまま進行中,ふと顔を上げたとき目前に同船を視認し,あわててしまって操舵切換えスイッチを自動操舵の位置に合わせて右舵をとったので舵効なく,11時27分今岬灯台から341度7.2海里の地点において,飛翔丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首が左回頭中の隆利丸の左舷船尾に後方から53度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近には0.6ノットばかりの北東流があった。
 また,隆利丸は,B受審人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,同月16日05時00分山口県仙崎港を発し,06時30分同港北方沖合で水深約100メートルの漁場に至り,黒色の鼓形形象物を後部マストの甲板上約3メートルの高さに表示し,操業を開始した。
 11時17分B受審人は,今岬灯台から338度7.0海里の地点で,当日4回目の操業を開始し,船尾から投網したのち,針路を015度に定め,機関を毎分回転数450の極微速力前進にかけ,手動操舵により単独で操船に当たり,折からの潮流の影響を受け,右方に7度圧流されながら,2.5ノットの速力で,引綱等の寄せを開始した。
 11時22分B受審人は,今岬灯台から340度7.1海里の地点に達したとき,飛翔丸を左舷正横後55度1.0海里のところに初認したものの,このころ引綱等の寄せが終わって網の抵抗が増したことから,機関回転数を少しずつ上げて漕ぎ方を開始し,折からの潮流の影響で,右方に11度圧流されながら,1.6ノットの速力で漕ぎ方を続けた。
 11時24分半B受審人は,今岬灯台から340度7.2海里の地点に差しかかり,飛翔丸が0.5海里に接近したとき,同船に警告するつもりで黄色回転灯を点灯したものの,その後,同船が避航の気配を見せないままさらに接近したが,同回転灯に気付いていずれ避航するだろうと思い,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく同じ針路,速力で進行した。
 11時26分B受審人は,飛翔丸が430メートルに接近したとき,電子ホーンを連吹し,同時27分少し前左舵一杯としたものの及ばず,隆利丸は,000度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,飛翔丸は,左舷船首及び中央部外板に擦過傷を生じたのみで,修理を要さず,隆利丸は,左舷船尾部を破損し,引綱を切断して漁具が海没したが,船体はのち修理され,漁具も回収された。

(航法の適用)
 本件は,山口県川尻岬北東方沖合において,航行中の飛翔丸と,法定の形象物を表示して低速力で漁ろうに従事中の隆利丸とが衝突したものであり,衝突地点付近は,海上交通安全法及び港則法の適用水域ではないので,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用されることとなる。
 両船の運航実態からすれば,予防法第18条の各種船舶間の航法の適用が,また,両船の相対位置関係からすれば,同法第13条の追越し船の航法の適用が考えられるので,これについて検討する。
 予防法第13条第1項に「追越し船は,この法律の他の規定にかかわらず,・・・その船舶の進路を避けなければならない。」と規定されているが,この規定は,同法第18条等により,被避航船とされる船舶であっても,当該船舶が追越し船になる場合には,これらの規定は適用されず,追い越される船舶の進路を避けなければならないことを明確にしたものであり,本件の場合はこれに該当しない。
 したがって,予防法第18条第1項の規定を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 飛翔丸
(1)操舵室の扉及び窓を全て閉めていたこと
(2)レーダーを使用してARPA機能等を活用しなかったこと
(3)トラッキング航行機能を使用していたこと
(4)オートチャートプロッタで使用する海図を探したこと
(5)隆利丸が止まって操業しているように見えたことから,自船と危険な状態となることはないと思ったこと
(6)動静監視を十分に行わなかったこと
(7)隆利丸が漁ろうに従事中であるとに気付かなかったこと
(8)隆利丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かなかったこと
(9)隆利丸が黄色回転灯を点灯していることに気付かなかったこと
(10)隆利丸の進路を避けなかったこと

2 隆利丸
(1)飛翔丸が黄色回転灯に気付いていずれ避航するだろうと思ったこと
(2)行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 飛翔丸が,隆利丸に対する動静監視を十分に行っていたら,同船が漁ろうに従事中であること,同船と衝突のおそれのある態勢で接近していること及び同船が黄色回転灯を点灯していることに気付き,時間的距離的に余裕を持って,同船の進路を避けることができたと認められる。
 したがって,A受審人が,一べつして隆利丸が止まって操業しているように見えたことから,自船と危険な状態となることはないと思い,同船に対する動静監視を十分に行わず,漁ろうに従事中の隆利丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,操舵室の扉及び窓を全て閉めていたこと及びレーダーを使用してARPA機能等を活用しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,周囲の見張りは,視覚のほか,聴覚及びそのときの状況に適した全ての手段によって行われるべきであり,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 A受審人が,トラッキング航行機能を使用していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,動静監視を十分に行っていれば,衝突を避けることができたのであるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,針路を自動的に修正する機能であり,他船の存在の如何にかかわらず操舵するものであることから,他船が前方に存在するときは手動操舵で航行することが求められ,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A受審人が,オートチャートプロッタで使用する海図を探したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,探しながらも動静監視を行える状況にあったので,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,付近に他船が存在するときには他の作業を行わず,その動静監視に努めるべきであり,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,隆利丸は,飛翔丸が衝突のおそれのある態勢のまま間近に接近したとき,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとっていたら,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,飛翔丸が衝突のおそれのある態勢のまま間近に接近したとき,同船が黄色回転灯に気付いていずれ避航するだろうと思い,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,山口県川尻岬北東方沖合において,東行中の飛翔丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事中の隆利丸の進路を避けなかったことによって発生したが,隆利丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山口県川尻岬北東方沖合において,右舷船首方に隆利丸を視認した場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一べつして隆利丸が止まって操業しているように見えたことから,自船と危険な状態となることはないと思い,海図を探し始め,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,低速力で漁ろうに従事中の隆利丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,飛翔丸の左舷船首及び中央部外板に擦過傷を生じさせ,隆利丸の左舷船尾部を破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,山口県川尻岬北東方沖合において,低速力で漁ろうに従事中,飛翔丸が衝突のおそれのある態勢のまま接近するのを認め,黄色回転灯を点灯して注意を促しても同船がさらに接近した際,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 しかしながら,以上のB受審人の所為は,漁ろうに従事中の形象物を表示しており,黄色回転灯を点灯して注意を促したうえ,飛翔丸が隆利丸を避け得る時機に電子ホーンを連吹した点に徴し,職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:8KB)

参考図2
(拡大画面:12KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION