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平成17年広審第19号
件名

貨物船登志丸漁船源栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島友二郎)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:登志丸次席二等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:源栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
登志丸・・・右舷後部外板に擦過傷
源栄丸・・・船尾部及び漁具に損傷

原因
登志丸・・・見張り不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
源栄丸・・・警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は,源栄丸を追い越す登志丸が,見張り不十分で,源栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,源栄丸が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月19日13時30分
 備讃瀬戸南航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船登志丸 漁船源栄丸
総トン数 697トン 4.9トン
全長 76.44メートル
登録長   10.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 登志丸は,専ら,大分港及び姫路港間を航行する船尾船橋型の貨物船で,船長及びA受審人ほか4人が乗り組み,粒銑2,100トンを積載し,船首4.12メートル船尾5.24メートルの喫水をもって,平成16年5月19日02時55分大分港を発し,姫路港に向かった。
 船長は,船橋当直を自ら,一等航海士,二等航海士及びA受審人による3時間交代の単独4直制とし,同当直のほかに出入港時,狭水道通過時,船舶輻輳時及び視界制限時等には操船指揮を執っていた。
 12時00分前直の船長と交代したA受審人は,単独で船橋当直に当たり,備後灘を推薦航路に沿って東行したのち備讃瀬戸南航路に入り,13時08分半同航路第5号灯浮標を左舷正横に見る,丸亀港蓬莱町防波堤灯台(以下「蓬莱町灯台」という。)から272度(真方位,以下同じ。)3.92海里の地点において,針路を062度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの東流に乗じて12.6ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,自動操舵により進行した。
 13時25分A受審人は,蓬莱町灯台から333度1.98海里の地点に達したとき,左舷船首3度0.80海里のところに,曳網しながら東行中の源栄丸を視認でき,その後同船を追い越し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めうる状況となったが,自船の船首方200メートルばかりのところに同航する大型タンカーがいたので,同船に追走していれば大丈夫と思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 A受審人は,右転するなどして源栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行中,13時30分わずか前同船を右舷船首至近に認め,衝突の危険を感じ,左舵を取ったものの及ばず,13時30分蓬莱町灯台から000度2.24海里の地点において,船首が019度を向いたとき,原速力のまま,キック作用により右方に振られた登志丸の右舷後部が,源栄丸の船尾に,後方から50度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北東風が吹き,視界は良好で,衝突地点付近には,約1ノットの東流があった。
 A受審人は,衝突を回避できたものと思い,そのまま航行を続け,船長が,その後海上保安部からの電話連絡で衝突の事実を知り,事後の措置にあたった。
 また,源栄丸は,船体中央部に操舵室を有し,汽笛を装備したFRP製小型底びき網漁船で,B受審人(昭和58年2月一級小型船舶操縦士免許取得)が船長としてほか1人と乗り組み,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,操業の目的で,同日05時40分香川県本島港を発し,塩飽瀬戸の漁場に向かった。
 B受審人は,前示漁場に到着し,漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げて操業を開始し,13時05分蓬莱町灯台から322度2.20海里の地点において,4回目の投網を行い,針路を069度に定め,折からの東流に乗じて3.5ノットの曳網速力とし,操舵室左舷側の差し板に腰を掛け,手動操舵により進行した。
 13時25分B受審人は,蓬莱町灯台から354度2.19海里の地点に達したとき,右舷船尾10度0.80海里のところに,東行中の登志丸を視認し,その後,同船が自船を追い越し,衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,登志丸が自船の進路を避けてくれるものと思い,警告信号を行わずに続航し,源栄丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,登志丸は,右舷後部外板に擦過傷を,源栄丸は,船尾部及び漁具にそれぞれ損傷を生じたが,のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は,備讃瀬戸南航路において,両船が共に東行中,源栄丸を追い越す登志丸が,見張り不十分で,源栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,源栄丸が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,単独で船橋当直にあたり,備讃瀬戸南航路を東行する場合,前方の他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方200メートルばかりのところに同航する大型タンカーがいたので,同船に追走していれば大丈夫と思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,源栄丸の存在に気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行して衝突を招き,登志丸の右舷後部外板に擦過傷を,源栄丸の船尾部及び漁具にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,備讃瀬戸南航路において,曳網しながら東行中,右舷船尾方から自船を追い越し衝突のおそれのある態勢で接近する登志丸を認めた場合,警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,登志丸が自船の進路を避けてくれるものと思い,警告信号を行わなかった職務上の過失により,登志丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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