日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年広審第119号
件名

モーターボートサチマルモーターボート桑原丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:サチマル船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:桑原丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
サチマル・・・右舷船首部外板に亀裂
桑原丸・・・左舷後部外板に亀裂を伴う凹損

原因
サチマル・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
桑原丸・・・見張り不十分,避航を促す音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,サチマルが,見張り不十分で,漂泊中の桑原丸を避けなかったことによって発生したが,桑原丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月29日06時45分
 愛媛県今治港

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートサチマル モーターボート桑原丸
全長   5.83メートル
登録長 6.25メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 69キロワット 31キロワット

3 事実の経過
 サチマル(以下「サ号」という。)は,船体中央から少し後方に操舵室を有するFRP製モーターボートで,A受審人(昭和58年2月四級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み,たこ釣りの目的で,船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年7月29日06時05分愛媛県西条市渦井川右岸の船だまりを発し,同県今治港東防波堤東方沖合200メートルの釣り場に向かった。
 A受審人は,操舵室右舷側に備えた舵輪後方に立って見張りにあたり,左舷方の陸岸に沿って燧灘を北上し,06時37分半今治港蔵敷防波堤灯台(以下「蔵敷防波堤灯台」という。)から125度(真方位,以下同じ。)1.95海里の地点で,針路を目的の釣り場に向く310度に定め,機関を全速力前進にかけて16.2ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,左舷船首方約2海里のところに北方に向首した貨物船を認め,その動静に留意して続航した。
 06時43分半わずか過ぎA受審人は,蔵敷防波堤灯台から104度720メートルの地点に差し掛かったとき,正船首700メートルのところに漂泊中の桑原丸を視認でき,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,前示貨物船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,桑原丸を避けなかった。
 A受審人は,やがて左舷船首方の貨物船の船首から錨鎖が海面に垂れていることなどから同船が錨泊中であることがわかる状況で,なおも同船に視線を向けたまま,その様子を観察しながら今治港の港域を進行し,同船の船首を替わるころ,その陰から陸岸近くに錨泊している複数のプレジャーボートが見えてきたので,同プレジャーボートに接近することとし,06時45分わずか前機関を全速力前進から少し落として左舵をとった直後,06時45分蔵敷防波堤灯台から029度300メートルの地点において,サ号は,原針路,原速力のまま,その船首が,桑原丸の左舷後部に後方から18度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好で,衝突地点付近には微弱な南東流があった。
 また,桑原丸は,船体中央から少し後方に操舵スタンドを有する無蓋のFRP製モーターボートで,B受審人(平成13年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み,たこ釣りの目的で,船首0.16メートル船尾0.50メートルの喫水をもって,同日06時10分愛媛県今治市浅川右岸の船だまりを発し,前示衝突地点付近の釣り場に向かった。
 B受審人は,06時20分目的の釣り場に至り,機関を中立運転とし,舵を中央にしたまま,西方に向首して漂泊を開始し,救命胴衣を着け,操舵スタンドの後方に立って前方を向いた姿勢で,たこ釣りの仕掛けを作り始めた。
 06時43分半わずか過ぎB受審人は,蔵敷防波堤灯台から029度300メートルの地点で,292度に向首していたとき,左舷船尾18度700メートルのところにサ号を視認でき,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが,仕掛け作りに気を奪われ,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,避航を促す有効な音響信号を行わず,間近に接近したとき,直ちに機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらないで漂泊を続けた。
 B受審人は,間もなく仕掛け作りを止めて釣り場を移動することとし,06時45分わずか前機関を前進に入れた直後,後方を振り返って至近に接近するサ号を認め,右舵一杯をとったものの,効なく,桑原丸は,292度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,サ号は右舷船首部外板に亀裂を,桑原丸は左舷後部外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じたが,いずれも修理された。また,B受審人が衝突の衝撃で海中に転落したが,A受審人に救助された。

(原因)
 本件衝突は,愛媛県今治港において,釣り場に向けて西行するサ号が,見張り不十分で,漂泊中の桑原丸を避けなかったことによって発生したが,桑原丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,愛媛県今治港において,同港東防波堤東方沖合の釣り場に向けて西行する場合,前路の他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷船首方に認めた貨物船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の桑原丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,サ号の右舷船首部外板に亀裂を,桑原丸の左舷後部外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,愛媛県今治港東防波堤南東方沖合の釣り場において,漂泊して釣りの準備を行う場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,たこ釣りの仕掛け作りに気を奪われ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するサ号に気付かず,避航を促す有効な音響信号を行わず,間近に接近したとき,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION