(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月19日08時30分
島根県浜田港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一冨美丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
603キロワット |
3 事実の経過
第二十一冨美丸(以下「冨美丸」という。)は,専ら山陰沖の日本海で小型いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和50年5月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年11月一級及び特殊小型船舶操縦免許に更新)ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.9メートル船尾1.9メートルの喫水をもって,平成16年3月18日13時00分島根県浜田港を発し,山口県見島の北方30海里付近に拡延する千里ヶ瀬の漁場に向かった。
A受審人は,17時30分ごろ前記漁場に到着して操業準備を行ったのち夜間操業を開始し,翌19日04時00分いか約840キログラムを獲て操業を終えた。
04時28分A受審人は,浜田港に帰航するため,見島北灯台から013度(真方位,以下同じ。)33.2海里の地点を発し,針路を126度に定めて11.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,本件当時13日間連続して夜間操業を行い,昼間は港内において休息していたものの睡眠を十分にとることができず疲労が蓄積し,睡眠不足の状態であった。
A受審人は,発航後浜田港入航までの約4時間の船橋当直を,自らが単独で行うこととして操舵室内の舵輪後方に設けられた畳敷きの台に腰を掛けて当直にあたり,その間無線電話で僚船と漁獲高についての交信やB組合との交信も行い,07時30分ころC組合と入航予定時刻や漁獲高についての最後の交信を行った。
A受審人は,08時15分浜田港の新西沖防波堤まで3.0海里となったところで眠気を催したが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,休息中の乗組員を起こして当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとることなく,自身の右側にある柱に寄りかかっているうち,いつしか居眠りに陥った。
こうして,冨美丸は,A受審人が居眠りに陥ったまま進行し,08時25分浜田港シャックリ灯標から280度1,300メートルの地点で同灯標の北方に向け転針する予定であったが,転針が行われないで続航するうち,08時30分浜田港シャックリ灯標から168度840メートルにあたる新西沖防波堤の北東端に原針路原速力のまま衝突した。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
その結果,船首部を圧壊したが,のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は,夜間,島根県浜田港沖合の日本海を同港に向け帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港の新西沖防波堤北東端に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,浜田港沖合の日本海を同港に向け単独で船橋当直に就いて帰航中,眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,休息中の乗組員を起こして当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥って浜田港の新西沖防波堤北東端との衝突を招き,船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。