(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月15日18時48分
福井県小浜港
(北緯35度31.3分東経135度44.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイゴールデンスター |
登録長 |
2.7メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
62キロワット |
3 事実の経過
ゴールデンスター(以下「ゴ号」という。)は,日没から日出までの間の航行が禁止された定員3人のウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで,艇体前部に操縦ハンドル(以下「ハンドル」という。)が装備され,その後方に鞍型の操縦者用前部座席及び同乗者用後部座席が設けられていた。
同艇の操縦は,前部座席にまたがった操縦者がハンドルを左又は右にきると,艇尾にあるジェットポンプ推進装置のジェットノズルがこれに連動してジェット噴流の向きが変わることにより旋回し,また,ハンドルの右グリップ根元部にスロットルレバーが,左グリップ根元部にエンジンスターターとストップボタンがそれぞれ取り付けられ,スロットルレバーをハンドル側に引くと機関回転数が上昇して増速し,放すと自動的にアイドリング位置に戻ってジェット噴流がなくなり,ハンドルをきっても旋回力が得られないものであった。
A受審人は,昭和60年ごろ四級小型船舶操縦士の免許を取得し,主に琵琶湖で小型ボートに乗って釣りに行くようになり,平成4年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し,同9年7月に自身が代表していたB社が購入したゴ号に乗艇し始め,主に琵琶湖で遊走を楽しんでいたが,同14年8月ごろからは操縦をしておらず,その間,ゴ号の受検が滞り,船舶検査証書は同15年7月に有効期限が切れていた。
A受審人は,同16年8月15日13時00分ゴ号を引いて自宅を出発し,友人3人と1泊の予定で福井県小浜湾に向かい,遊走できる場所を探したのち,15時30分ごろ小浜市小松原にゴ号を降ろせる海岸を見つけてキャンプすることとし,2年ぶりの乗艇なので,ゴ号のバッテリー交換,オイル補給などの整備を1時間半ばかり行い,その後,食事をして日没前に翌日の遊走のため試走することとした。
こうして,ゴ号は,A受審人が船長として1人で乗り組み,乗艇が初めての友人1人を後部座席に乗せ,救命胴衣をそれぞれ着用し,試走の目的で,同日18時45分小松原の海岸を発進して同市福谷沖合に向かった。
ところで,福谷は小浜港北東側にあり,その沖合200メートルのところには,海岸線と平行して南側から北側へ順に長さ200メートル,同200メートル及び同125メートルの3本の離岸堤がそれぞれ50メートルの間隔をもってほぼ直線状に整備されていた。
A受審人は,発進後,スローで沖合に向け西行したのち,離岸堤南側の防波堤が替わって徐々に右転して北に向け,同離岸堤沖合を毎時30キロメートルの対地速力で北上し,18時47分小浜港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から022度(真方位,以下同じ。)1,910メートルの地点で,試走を終了し,右回頭して発進地に戻ることとし,緩やかに右旋回を開始した。
18時48分少し前A受審人は,北防波堤灯台から028度2,170メートルの地点に達したとき,前方の離岸堤までの距離が約90メートルとなり,そのまま旋回すると,離岸堤に著しく接近する状況であったが,周囲の波の状況を見ることに気をとられて,前方の見張りを十分に行わなかったので,そのことに気付かず,同速力のまま緩やかな右旋回を続けた。
18時48分わずか前A受審人は,離岸堤に約20メートルにまで接近していることを認め,衝突の危険を感じてあわててハンドルを右一杯にきったが,スロットルレバーを離したため右旋回の推進力が得られず,ゴ号は,右方に傾いて左に横滑りしながら進行し,18時48分北防波堤灯台から031度2,120メートルの地点において,原速力のまま艇首が170度を向いて,その左舷艇首部が離岸堤の消波ブロックに衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,日没は18時46分であった。
衝突の結果,左舷艇首部外板に破口及び左舷フットレストフロア外板に損傷を生じ,修理可能であったがA受審人自身の戒めのため,のち廃船処分とされ,同乗者が約2週間の通院加療を要する胸部打撲及び頸椎捻挫を負った。
(原因)
本件離岸堤衝突は,福井県小浜港において,同乗者を乗せて試走中,旋回する際,見張り不十分で離岸堤に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,福井県小浜港において,同乗者を乗せて試走中,離岸堤の沖合で旋回する場合,離岸堤に著しく接近しないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲の波の状況を見ることに気をとられ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,離岸堤に著しく接近している状況に気付かないまま緩やかな旋回を続けて離岸堤の消波ブロックとの衝突を招き,左舷艇首部外板に破口及び左舷フットレストフロア外板に損傷を生じ,同乗者に約2週間の通院加療を要する胸部打撲等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。