(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月7日03時00分
兵庫県東播磨港
(北緯34度40.4分東経134度48.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十一大福丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十一大福丸(以下「大福丸」という。)は,平成5年4月に進水した船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,平成16年2月6日15時15分広島県呉港を発し,兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は,単独での船橋当直を次席一等航海士と適宜交代しながら,同日19時ごろ来島海峡を通過したのち,翌7日02時45分東播磨港への入港操船のため昇橋した。
02時47分A受審人は,東播磨港別府東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から224度(真方位,以下同じ。)4.0海里の地点で,次席一等航海士と交代し,針路を048度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,操船目標の東播磨航路第2号灯標(以下,灯標及び灯浮標名については「東播磨航路」を省略する。)の灯火を船首左舷7度に,また同灯標に続く第4号灯浮標及び第6号灯浮標の各灯火もそれぞれ確認し,単独で手動操舵により進行した。
ところで,東播磨航路の灯浮標は,前年の平成15年8月に,入口の第1号及び第2号灯浮標が,柱形式の灯標に変更され,水面から灯火までの高さがそれまでの4メートル余りから8メートル余りへと高くなっており,夜間入港するとき,操船者の眼高によっては同灯火が港内の工場群の照明に紛れ易かったが,A受審人は変更後に何度か入港していたのでこれらのことは十分知っていた。
こうして,東播磨航路入口の南方に接近しているとき,目標の灯標や灯浮標の灯火から目を離して前路を東西に横切る他船に注意を向けていたA受審人は,再びそれらの灯火を見つけようとしたが,第4号及び第6号灯浮標の各灯火を確認することができたものの,港内の工場群の照明に紛れた第2号灯標の灯火を確認できないで続航した。
02時57分A受審人は,東防波堤灯台から221度2.4海里の地点に達し,航路入口の南西方に向かうつもりで,速力を減じずに左転して針路を012度としたとき,第2号灯標に著しく接近することとなったが,港内の工場群の照明に紛れていた同灯標の灯火を確認できないまま進行した。
このとき,A受審人は,確認していた第4号灯浮標と第6号灯浮標の灯火が重なってから航路入口に向かえば,第2号灯標の灯火を容易に確認して無難に入航できるものと思い,速力を減じた上でレーダーを利用して自船と第2号灯標との相対位置の確認を十分に行わなかった。
こうして,A受審人が,正船首方の第2号灯標を避けないまま続航し,03時00分わずか前船首右舷至近に同灯標を認めて右舵をとったものの,効なく,03時00分大福丸は,東防波堤灯台から226度2.0海里の地点において,原針路,原速力のまま第2号灯標に衝突した。
当時,天候は晴で風力4の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果,大福丸の船首右舷のハンドレールに曲損を,また第2号灯標の標体に凹損などをそれぞれ生じさせたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件灯標衝突は,夜間,兵庫県東播磨港南方沖合において,東播磨航路に入航しようとする際,灯標との相対位置の確認が不十分で,灯標に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,兵庫県東播磨港南方沖合において,第2号灯標の灯火を見失ったまま東播磨航路に入航しようとする場合,同灯火が港内の工場群の照明に紛れ易かったのだから,第2号灯標に著しく接近しないよう,速力を減じた上でレーダーを利用して第2号灯標との相対位置の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,確認していた第4号灯浮標と第6号灯浮標の各灯火が重なってから航路入口に向かえば,第2号灯標の灯火を容易に確認して無難に入航できるものと思い,同灯標との相対位置の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,第2号灯標と著しく接近して衝突を招き,大福丸の船首右舷のハンドレールに曲損,同灯標の標体に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。