日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年神審第34号
件名

貨物船第十旭豊丸貨物船第二瀬戸内丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎,橋本 學,村松雅史)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第十旭豊丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第二瀬戸内丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第十旭豊丸・・・船首部が圧壊
第二瀬戸内丸・・・左舷中央部外板に破口

原因
第二瀬戸内丸・・・水路調査不十分,狭い水道等の航法(右側航行)不遵守

主文

 本件衝突は,第二瀬戸内丸が,水路調査が不十分であったばかりか,狭い水道の右側端に寄って航行することなく,左側の浅瀬に著しく接近して船首を右方に押し出され,第十旭豊丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月15日08時05分
 大阪港大阪区第3区
 (北緯33度37.5分東経135度27.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十旭豊丸 貨物船第二瀬戸内丸
総トン数 499トン 410トン
全長 64.76メートル 59.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十旭豊丸
 第十旭豊丸(以下「旭豊丸」という。)は,平成8年8月に進水した,液体化学薬品等の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製液体ばら積船で,船橋に操舵コンソール台とレーダー2台,GPSプロッター1台,無線設備などを装備し,上部船橋にエアーホーン1台を設置していた。船橋からの前方視界は良好であった。
 海上試運転における後進試験では,12.1ノットの前進速力のときに全速力後進としてから船体停止までに要した時間は1分36秒で,その航走距離は325メートルほどであった。旋回試験では,舵角35度でその旋回径は180メートル程度であった。
イ 第二瀬戸内丸
 第二瀬戸内丸(以下「瀬戸内丸」という。)は,平成2年1月に進水した船尾船橋型の砂利採取運搬船で,船橋に操舵コンソール台とレーダー2台,GPSプロッター1台,無線設備などを装備し,上部船橋にエアーホーン1台を設置していた。船首にはジブクレーンが設備されていたが,操船者が見張り位置を左右に移動すれば,前方視界を妨げるものではなかった。
 海上試運転における後進試験では,11.17ノットの前進速力のときに全速力後進としてから船体停止までに要した時間は1分2.8秒であった。旋回試験では,舵角35度でその旋回径は120メートル程度であった。

3 木津川河口の狭い水道
 木津川河口の狭い水道(以下「水道」という。)で一般船舶が通航している港域の部分は,大阪市大正区と同市浪速区を結ぶ大浪橋から下流の部分で,その延長はほぼ6キロメートルとなっている。水道は,大浪橋からしばらく南方に下り,海域に繋がる部分で西に大きく湾曲するJの字型を描き,その幅は,上流の大浪橋付近では50メートルほどであるが,南下するにしたがって徐々に広がり,三軒家川との合流地点で,100メートルを超えて,湾曲部付近では200メートルであった。
 水道には道路橋や鉄道橋がかかっているが,その水面上高さは,上流の大浪橋で3.3メートル,木津川大橋で11メートルとなっていて小型船やバージが通航可能で,木津川水門を越えて下流に行くと,千本松大橋で33メートル,新木津川大橋で44メートルとかなりの大型船でも通航は可能であった。
 河口両岸には,発電所,各種製造業,輸送業,造船所などがあって,それぞれ専用岸壁を備えて,貨物船等の出入りが頻繁であった。


 水道では上流から流されてくる土砂やヘドロなどが堆積するので,大阪市港湾局による維持浚渫が実施されているが,湾曲部内側付近に浅瀬が広がっており,また,海図W1148に注意書きとして,河口付近の水深は変化しやすいことが書かれていたので,航行船舶は海図などで水道調査を十分に行ったうえで,湾曲部内側での乗揚や水深の深くなる方向へ船首が押し出される影響などに注意が必要であった。

4 事実の経過
 旭豊丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,空倉で,船首0.60メートル船尾2.90メートルの喫水をもって,平成16年11月15日07時50分大阪港大阪区第3区木津川河口右岸にある木津川輸送倉庫岸壁を離れ,同区第1区のLPG桟橋に向かった。
 A受審人は,機関長を機関の操作に,離岸作業を終えた一等航海士及び甲板長を見張りにつけて,水道の中央線やや右側を同線に沿って下航して行った。
 08時03分A受審人は,木津川信号柱(以下「信号柱」という。)から312度(真方位,以下同じ。)160メートルの地点に達し,針路を261度に定め,機関を半速力前進にかけ,8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行中,船首右舷14度1,030メートルのところに水道の左側を上航する瀬戸内丸を認め,同船に対して水道の右側端に寄って上航するよう促すつもりで,汽笛で長一声を吹鳴した。
 これより先,A受審人は,瀬戸内丸に先行して水道の右側を上航する第三船を認めていたが,第三船とは安全な距離を保って航過できると判断したので,瀬戸内丸の動静を監視しながら続航した。
 A受審人は,長一声の汽笛を吹鳴しても瀬戸内丸が水道右側端に移らず,逆に左転して右岸側に接航しようとするのを見て,第三船との航過距離が50メートル程確保でき,瀬戸内丸との航過距離も50メートル程確保できそうだったので,自船の原針路,原速力を維持して進行することとした。
 08時05分少し前A受審人は,船首右舷3度150メートルに迫った瀬戸内丸が急に右転を開始し,自船の前路に進出してくるのを認めたので,機関を全速力後進,汽笛で短音の連吹,右舵一杯としたものの,効なく,08時05分旭豊丸はその針路が285度となったとき,5.0ノットの速力を残して,信号柱から273度610メートルの地点で,その船首が瀬戸内丸の左舷外板中央部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は雨で風力2の南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,瀬戸内丸は,B受審人ほか3人が乗り組み,海砂約1,300トンを積載し,船首3.60メートル船尾4.50メートルの喫水をもって,同月14日23時20分香川県丸亀港を発し,大阪港大阪区第3区で水道左岸の大阪市西成区北津守にある岸壁に向かった。
 翌15日07時30分ごろB受審人は,単独で港内操船に従事し,大阪港大関門を通過して木津川河口に向けて進行した。
 ところで,B受審人は,この水道を航行した経験が豊富であったが,付近の大尺度海図を所持しておらず,海図などで水道についての水路調査を十分に行ったことがなかったので,水道湾曲部内側に浅瀬があることやこの付近での水深が変化しやすいことに思い至らなかった。
 そのうち,B受審人は,自船の右舷側を追い越して水道に向かおうとしつつある第三船を認めたので,水道の左側に向けたまましばらく航行し,第三船に追い越されたのち水道の右側を上航するつもりで続航した。
 08時02分木津川河口入口に差しかかったB受審人は,第三船がようやく自船の右正横100メートルほどのところを追い越して行こうとしていたとき,依然として右岸の中山製鋼所西本岸壁に沿って水道の左側を進行していた。
 08時03分B受審人は,信号柱から279度1,160メートルの地点に達し,船首左舷11度1,030メートルに下航する旭豊丸を認め,同船が吹鳴する長一声の汽笛を聞いたとき,すでに第三船が自船を追い越して少し前方に進んでいたので,水道の右側端に移動することができたものの,さらに自船が少し左に寄れば自船と第三船の間を旭豊丸が無難に航過できると思い,直ちに水道の右側端に寄って航行することなく,針路を103度に定め,機関回転数毎分300の9.0ノットの速力としたところ,水道湾曲部内側のヘドロなどで形成された浅瀬に著しく接近することとなった。
 08時05分少し前B受審人は,原速力,原針路で続航中,船首右舷方150メートルに旭豊丸を見るようになったとき,前示浅瀬に著しく接近して急に船首が右方に押し出されて,右舷対右舷で無難に替わる態勢の旭豊丸の前路に進出し始めた。船首が右に押し出されたのを認めた同人は,急いで左舵一杯とし,続いて機関を後進一杯としたが,船首の右回頭が止まらないまま,瀬戸内丸の行き脚が5.0ノットとなって船首が185度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,旭豊丸の船首部が圧壊し,瀬戸内丸の左舷中央部外板に破口を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,特定港である大阪港の大阪区第3区内において,下航する旭豊丸と上航する瀬戸内丸が,木津川河口の狭い水道で衝突した事件であるが,この水道は港則法の航路ではないので,同法に適用される航法はない。
 海上衝突予防法において検討すると,同水道は,幅が200メートル余りで,狭い水道等に当たると認められるので,同法9条が適用されるのが適当である。

(本件発生に至る事由)
1 旭豊丸
 第三船と瀬戸内丸の間を通過しようとしたこと

2 瀬戸内丸
(1)湾曲部内側の水路調査を十分に行わなかったこと
(2)水道の右側端に寄って航行しなかったこと
(3)浅瀬により船首が右方に押し出されて旭豊丸の前路に進出したこと

3 その他
 第三船が衝突前に瀬戸内丸の右舷側を追い越して行ったこと

(原因の考察)
 本件は,上航する瀬戸内丸が下航する旭豊丸と水道で行き会おうとするとき,B受審人が海図などで水路調査を十分に行っておれば,浅瀬の存在などに気付いて,直ちに水道の右側端に寄ったはずで,瀬戸内丸が水道の右側端に寄って航行すれば,旭豊丸と無難に航過することができたと認められる。
 したがって,B受審人が,水道付近の大尺度海図を所持しておらずに水路調査が不十分であったばかりか,水道の右側端に寄って航行することなく,左側のヘドロなどで形成された浅瀬に著しく接近し,船首を右方に押し出されて旭豊丸の前路に進出したことは,本件発生の原因となる。
 一方,旭豊丸が,第三船と瀬戸内丸の間を通過しようとしたことは,瀬戸内丸が水道左側に寄って航行したことにより惹起されたものであり,両受審人が揃って右舷対右舷で無難に航過できると考えていたことを考え併せると,本件発生の原因とならない。
 また,第三船が,衝突前に瀬戸内丸の右舷側を追い越して行ったことは,瀬戸内丸が水道の右側端に寄って航行しなかったことの動機の一部と認められるが,瀬戸内丸が第三船の後について続航することは可能であったことから,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,大阪港大阪区第3区の木津川河口の狭い水道において,下航中の旭豊丸と上航中の瀬戸内丸が行き会う際,瀬戸内丸が,水道湾曲部内側の水路調査が不十分であったばかりか,水道の右側端に寄って航行することなく,左側のヘドロなどで形成された浅瀬に著しく接近して船首を右方に押し出され,無難に航過する態勢の旭豊丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,大阪港大阪区第3区の木津川河口の狭い水道において,下航中の旭豊丸と上航中の瀬戸内丸が行き会う場合,旭豊丸と右舷対右舷で航過しようとすると,さらに水道の左側を航行することととなり,水道湾曲部内側で左側のヘドロなどで形成された浅瀬に著しく接近して船首を右方に押し出されて旭豊丸の前路に進出するおそれがあったから,浅瀬に著しく接近することのないよう直ちに水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船と第三船の間を旭豊丸が無難に航過できると思い,直ちに水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により,前示浅瀬に著しく接近して船首を右方に押し出されて無難に航過する態勢の旭豊丸の前路に進出し,同船との衝突を招いて,瀬戸内丸の左舷中央部外板に破口を生じさせ,旭豊丸の船首を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION