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平成17年神審第37号
件名

漁船福章丸貨物船フンアバンコク衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,工藤民雄,中井 勤)

理事官
阿部直之

指定海難関係人
A 職名:フンアバンコク一等航海士

損害
フンアバンコク・・・船首部に擦過傷
福章丸・・・船尾部を大破して転覆,船長が溺死

原因
フンアバンコク・・・各種船舶間の航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,フンアバンコクが,漁ろうに従事中であった福章丸の進路を避けなかったことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月8日04時30分
 瀬戸内海播磨灘
 (北緯34度33.5分東経134度50.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船福章丸 貨物船フンアバンコク
総トン数 4.9トン 8,273トン
全長 17.34メートル 140.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 48キロワット 6,656キロワット
(2)設備及び性能等
ア 福章丸
 福章丸は,平成16年5月に進水した音響信号装置を有しないFRP製漁船で,主として瀬戸内海の播磨灘において小型底びき網漁業に従事していたものであり,同船の船尾端には直径約10センチメートルのステンレス製パイプで組み立てられた,高さ6ないし7メートルの漁具巻揚用櫓が設置されていた。
イ フンアバンコク
 フンアバンコク(以下「フ号」という。)は,西暦1995年10月に進水した,主として日本及び大韓民国間の定期航路に就航する船尾船橋型鋼製コンテナ船で,その試運転成績表による旋回径は,バラストコンディションにおける速力17.2ノットで舵角35度を取った場合,左旋回径531メートル(船長の4.02倍)及び右旋回径579メートル(同4.38倍)であり,舵効が現れるのは,転舵してから100ないし200メートル前進した15ないし20秒後であった。

3 事実の経過
 福章丸は,船長Bが1人で乗り組み,小型底びき網漁業に従事する目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年11月7日16時00分兵庫県浅野漁港を発し,播磨灘鹿ノ瀬南方水深25ないし35メートル付近の漁場へ向かった。
 ところで,当時,B船長が従事していた小型底びき網漁業とは,一般に「ちんこぎ網漁業」と呼ばれる1艘曳きトロール漁業のことであり,同漁業に従事する漁船は,操業中を通して,トロール従事船が表示する法定灯火(以下「トロール船の灯火」という。)である緑,白の全周灯を上下2連に掲げており,曳網時には機関を全速力前進にかけ,3.5ないし4.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,引き綱及び漁獲網部分を含めた200ないし250メートルに渡る長さの漁具を引き,底魚などを漁獲するものであった。
 16時30分ごろB船長は,前示漁場に到着したのち,投網に1分,曳網に40ないし50分及び揚網に5分を掛け,さらに漁獲物の選別に要する時間を含めて,1回約1時間に渡る操業を繰り返し行い,翌8日04時20分淡路室津港西防波堤灯台(以下,灯台に関しては衝突地点を表記する場合を除き「淡路」を省略する。)から318.5度(真方位,以下同じ。)3.3海里の地点で,針路を140度に定め,機関を全速力前進にかけ,4.0ノットの曳網速力で,トロール船の灯火を含む法定灯火を表示して,手動操舵によって進行した。
 そして,04時22分B船長は,室津港西防波堤灯台から318.5度3.2海里の地点に達したとき,右舷船首89度2.0海里のところに,フ号が表示する白,白,紅の3灯を視認することができ,同時28分同灯台から318度2.8海里の地点に至ったとき,同船が,その方位に明確な変化がないまま,0.5海里のところまで接近し,衝突のおそれがある状況となったが,トロール船の灯火を表示して漁ろうに従事していたことから,そのまま続航した。
 こうして,B船長は,その後も,同じ針路,速力で進行中,04時29分少し過ぎフ号が自船の進路を避けることなく,間近に接近したことから,急きょ機関を極微速力前進とし,船尾から引いていた漁具による後方への張力と自船の前進力とを拮抗させた状態を保って,ほぼ行きあしを停止したが,04時30分淡路室津港西防波堤灯台から318度2.7海里の地点において,福章丸は,140度に向首したまま,その右舷船尾部に,同船が停止した直後に左転を開始したフ号の船首が,前方から75度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北東風が吹き,視界は良好であった。
 また,フ号は,A指定海難関係人ほか韓国人9人,中華人民共和国の国籍を有する中国人6人が乗り組み,コンテナ貨物6,585トンを積み,船首6.80メートル船尾7.60メートルの喫水をもって,同月7日06時45分韓国釜山港を発し,瀬戸内海を経由する予定で大阪港へ向かった。
 出航後,A指定海難関係人は,船長が定めた2人当直4時間交替制の当直時間割に従い,04時から08時及び16時から20時の時間帯に操舵手とともに船橋当直に当たり,翌8日04時00分播磨灘航路第4号灯浮標を通過した辺りで昇橋して,前直の二等航海士と交替したのち,同時20分室津港西防波堤灯台から281度4.2海里の地点で,針路を063度に定め,機関を全速力前進にかけ,16.0ノットの速力で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,A指定海難関係人は,レーダーにより左舷1点方向2.6海里付近に,漁船らしき福章丸の映像を認めたことから,当該映像に注意しながら続航したところ,04時22分同灯台から286度3.8海里の地点に達したとき,左舷船首14度2.0海里のところに,同船が表示していたトロール船の灯火及び緑舷灯,並びに前示櫓頂部の橙色閃光灯及び甲板上の作業灯を視認し,操業中の漁船であることを認知したが,未だ距離が遠かったことから,同じ針路,速力のまま進行した。
 そして,04時28分A指定海難関係人は,室津港西防波堤灯台から308度2.8海里の地点に達したとき,福章丸が,その方位に明確な変化がないまま,自船から0.5海里の地点まで接近し,衝突のおそれがある状況となったが,これまでの経験上,ほとんどの漁船が間近まで近づくと停止していたことから,やがて福章丸も停止するであろうと安易に考え,同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして,A指定海難関係人は,福章丸が停止することを期待しながら進行中,04時29分少し過ぎ同船が停止する気配のないまま,左舷船首至近に迫ったことから,ようやく衝突の危険を感じ,急きょ左舵一杯としたところ,自船の回頭が始まる直前に行きあしを停止した福章丸に向って,左転しながら続航することとなり,フ号は,その船首が035度を向いたとき,16.0ノットの原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,フ号は船首部に擦過傷を生じたのみであったが,福章丸は船尾部を大破して転覆し,サルベージ船に収容されて浅野漁港に引き付けられたところ,船橋内で溺死したB船長が発見された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,播磨灘において,トロール船の灯火を表示して漁ろうに従事していた福章丸と,航行中のフ号が衝突したものであり,以下,適用される航法について検討する。
 福章丸が,トロール船の灯火を表示して漁ろうに従事していたこと,及びフ号が航行中の動力船であり,同船の当直者が福章丸のトロール船の灯火及び緑舷灯を視認し,漁ろうに従事している漁船であると認知していたことに疑う余地はない。
 よって,海上衝突予防法第18条第1項各種船舶間の航法のうち,航行中の動力船と漁ろうに従事している船舶間の関係を定めた同項第3号をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 福章丸
(1)福章丸が,音響信号装置を備えていなかったこと
(2)B船長が,行きあしを停止したこと

2 フ号
(1)A指定海難関係人が,福章丸が操業中の漁船であることに気付いていたものの,間近に接近すれば停止するであろうと安易に考えたこと
(2)A指定海難関係人が,福章丸の進路を避けることなく進行したこと
(3)A指定海難関係人が,福章丸の間近に接近したとき,行きあしを停止した同船へ向けて左転したこと

(原因の考察)
 福章丸は,夜間,播磨灘において漁ろうに従事中,フ号と衝突のおそれがある状況となった場合,船長が,行きあしを停止したことは,衝突を避けるための協力動作として適切な判断であり,船尾から長さ200メートル以上の漁具を引いていた同船に対し,これ以上のことを要求することはできない。
 したがって,B船長が,行きあしを停止したことは,本件発生の原因とならない。
 フ号は,夜間,播磨灘を航行中,福章丸と衝突のおそれがある状況となった場合,フ号の船橋当直者が,福章丸が表示していたトロール船の灯火を視認しており,漁ろうに従事している漁船であると気付いたのであるから,間近に近づいたならば停止するであろうなどと安易に考えることなく,速やかに福章丸の進路を避けていたならば,衝突を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,福章丸の進路を避けることなく進行し,間近に接近したとき,停止した同船に向けて左転したことは,本件発生の原因となる。
 福章丸が,長さ12メートル以上の船舶であったにも拘わらず,音響信号装置を装備していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,フ号の当直者が福章丸の存在に気付いていたうえ,間近に接近すれば停止するであろうと安易に考えていたのであるから,福章丸が警告信号を発したとしても効果は期待できず,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,播磨灘において,航行中のフ号が,トロール船の灯火を表示して漁ろうに従事中であった福章丸の進路を避けなかったことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,漁ろうに従事中であった福章丸と衝突のおそれがある状況となった際,速やかに同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,十分に反省していることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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