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平成17年横審第38号
件名

油送船第五吉丸引船列貨物船デジューエース衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月31日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋,黒岩 貢,古城達也)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:第五吉丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a

損害
第五吉丸・・・右舷中央部に擦過傷
アクサス 1・・・右舷中央部ブルワークに曲損
デジューエース・・・船首部外板に擦過傷

原因
第五吉丸引船列・・・えい航船等の灯火不表示,警告信号不履行
デジューエース・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は,第五吉丸引船列が,航行中のえい航船等の灯火を表示せず,警告信号を行わなかったことと,デジューエースが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月30日03時03分
 関門港
 (北緯33度54.5分 東経130度54.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第五吉丸 油送船アクサス1
総トン数 98.13トン 48.69トン
全長 30.60メートル  
登録長   21.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 73キロワット
船種船名 貨物船デジューエース  
総トン数 2,484.00トン  
全長 94.42メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,059キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第五吉丸
 第五吉丸(以下「吉丸」という。)は,昭和51年8月に進水した平水区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製油送船で,操舵室の後端が船尾端から7.5メートル船首側となっていて,同室屋根の水面上の高さは約4.5メートルであり,本件当時,臨時変更証を受け,大韓民国へ売船輸出するための通関手続を受ける目的で,関門港へ回航されていた。
イ アクサス1
 アクサス1(以下「ア号」という。)は,昭和45年8月に進水した平水区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製油送船で,操舵室屋根の水面上の高さは約3メートルであって,本件当時,船舶検査証書の有効期間を超えて定期検査が受検されてなく,大韓民国へ売船輸出するための通関手続を受ける目的で,吉丸にえい航され,関門港へ回航されていた。
ウ デジューエース
 デジューエース(以下「デ号」という。)は,西暦1984年7月に日本の造船所で進水し,主として本邦と大韓民国間の貨物輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,操舵室中央にジャイロコンパスを組み込んだ操舵スタンド,同スタンドの右舷側にエンジンテレグラフ,左舷側にレーダー2台がそれぞれ装備され,同室左舷後方に海図台と,同台の上に,数値表示型のGPSが設置されていた。

3 事実の経過
 吉丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,回航の目的で,船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,空倉で船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水となった無人のア号を引き,吉丸の船尾端からア号の船尾端までの長さが約75メートルとなる引船列(以下「吉丸引船列」という。)を構成し,平成16年1月27日17時00分香川県土庄港を発し,関門港小倉区砂津泊地に向かった。
 ところで,A受審人は,吉丸引船列の回航を請け負った際,同引船列に航行中のえい航船等の灯火を表示する設備がなかったが,吉丸には,航行中の動力船が表示する灯火のほか,操舵室屋根の左舷船尾付近に周期5秒の電池式白色閃光灯1個を,ア号には,操舵室屋根の右舷船首付近に,周期3秒で公称光達距離2,000メートルの電池式白色閃光灯1個をそれぞれ表示しただけで,気を付けて航行すれば大丈夫と思い,航行中のえい航船等の灯火を表示しないまま,前示のとおり発航したものであった。
 発航後,A受審人は,船橋当直を乗組員と適宜交代しながら瀬戸内海を西行し,越えて1月30日00時20分下関南東水道第1号灯浮標付近で同当直に就いたとき,夜間に関門航路を横切るのを避け,一旦(いったん)同航路を通り抜けて六連島沖で錨泊した後,明るくなるのを待って前示泊地に向かうこととし,同航路各左舷浮標の約100メートル内側を,同航路に沿って西行した。
 02時57分A受審人は,大瀬戸第2号導灯(後灯)(以下「第2号導灯」という。)から008度(真方位,以下同じ。)1,620メートルの地点で,針路を255度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの潮流により左方に約30度圧流されて6.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 A受審人は,02時58分第2号導灯から005度1,480メートルの地点に達したとき,右舷船尾33度870メートルの関門航路中央寄りに,自船の左舷側を追い越す態勢で西行するデ号の白,白,緑3灯を初めて認め,針路を関門航路第21号灯浮標(以下「関門航路」を冠する灯浮標の名称については冠称を省略する。)の少し内側に向くように適宜修正し,同航路の右側端に向け続航した。
 03時00分A受審人は,第2号導灯から350度1,300メートルの地点に至り,270度に向首したとき,自船が関門航路の右側端に向かって徐々に針路を修正していたことと,デ号が右舷船尾19度550メートルのところで自船の右舷側至近に向首して定針したこととから,その後デ号が吉丸引船列と衝突のおそれのある態勢で接近したが,ア号に表示した閃光灯により自船とア号とが引船列を構成していることに気付いてそのうち避けてくれると思い,所持していた懐中電灯でア号を照射して注意を喚起するなり,警告信号を行うなりしなかった。
 A受審人は,03時02分少し過ぎ右舷船尾に接近したデ号に危険を感じ,懐中電灯を同船に向けて振ったが効なく,03時03分第2号導灯から327度1,500メートルの地点において,吉丸が277度を向首し,潮流の影響で自船の左舷船尾10度方向に張ったえい航索に,デ号の船首が後方から67度の角度で衝突し,その後ア号の右舷側とデ号の左舷船首部とが,吉丸の右舷側とデ号の右舷中央部とが,それぞれ衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,視界は良好で,付近海域に流向250度流程1.8ノットの潮流があった。
 また,デ号は,韓国人船長Bほか同国人船員8人,インドネシア人船員1人及び中国人船員4人が乗り組み,スチールコイル4,737トンを載せ,船首5.55メートル船尾5.94メートルの喫水をもって,同月29日08時50分岡山県水島港を発し,大韓民国ポハン港に向かった。
 翌30日02時00分ころB船長は,下関南東水道第2号灯浮標付近で昇橋し,二等航海士及び甲板員を補佐に,操舵手を操舵にそれぞれ就けて操船指揮に当たり,関門航路の中央付近を西行した。
 03時00分B船長は,第2号導灯から011度1,470メートルの地点で,針路を262度に定め,折からの潮流により左方に2度圧流され260度の針路となり,機関を全速力前進にかけ11.8ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 定針したときB船長は,左舷船首11度550メートルに吉丸の船尾灯を初めて認め,同船を単独の漁船であると思い込み,目視及びレーダーによる見張りを十分に行わなかったので,吉丸の約70メートル後方でア号が表示していた閃光灯を認めず,吉丸がア号と引船列を構成していることにも,その後吉丸引船列と衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かず,航路内における追越し信号を行うことなく,関門航路の中央に針路を向けて同引船列左舷側の広い海域を追い越す態勢にするなど,衝突を避けるための措置もとらなかった。
 03時01分B船長は,吉丸引船列が左舷船首18度400メートルになったとき,関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)から,「貴船は前方のえい船に接近している。船間保って注意されたい。」旨の情報提供を受けたが,「近くに航行中の他船が存在する。」旨の情報と誤解し,吉丸のみに注意を払って続航した。
 B船長は,03時02分少し過ぎこのまま吉丸の右舷側を追い越すと陸岸や第21号灯浮標に接近し過ぎることに気付き,依然として同船が単独の漁船であると思っていたので,吉丸の左舷側を追い越すこととして左舵一杯を令したところ,デ号は,左回頭中,220度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,吉丸は右舷中央部に擦過傷を,ア号は右舷中央部ブルワークに曲損をそれぞれ生じたが,修理されないまま大韓民国に売船輸出され,デ号は船首部外板に擦過傷を生じ,のち修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,港則法の適用海域である関門港関門航路において,デ号が吉丸引船列を追い越す態勢で発生したものであるが,同引船列が航行中のえい航船等の灯火を表示していなかったので,同引船列の状況を正確に認知させることが困難であったことと,同引船列が潮流に抗して適宜針路を修正していたこととから,同法施行規則に定められた航路内における追越しの航法で律することは適当でなく,また,港則法にこの状況を律する他の定めがないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することとなる。
 また,予防法第13条追越し船の航法は,港則法施行規則の場合と同様の理由により適用することができないので,予防法第38条及び第39条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 吉丸引船列
(1)気を付けて航行すれば大丈夫と思い,航行中のえい航船等の灯火を表示しなかったこと
(2)潮流により左方に約30度圧流され針路を適宜修正していたこと
(3)デ号が,そのうち避けてくれると思ったこと
(4)所持していた懐中電灯でア号を照射して注意を喚起しなかったこと
(5)警告信号を行わなかったこと

2 デ号
(1)吉丸の船尾灯を認め単独の漁船であると思い込んだこと
(2)目視及びレーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(4)航路内における追越し信号を行わなかったこと
(5)関門マーチスからの情報内容を誤解したこと

3 その他
(1)付近海域に流向250度流程1.8ノットの潮流があったこと

(原因の考察)
 本件は,吉丸引船列が,航行中のえい航船等の灯火を表示していれば,デ号が,吉丸とア号が引船列を構成していることに気付き,また,同引船列が警告信号を行っていれば,デ号が十分に見張りを行い,間近に接近する前に同引船列左舷側の広い海域を追い越す態勢にするなど,発生を回避することができたと認められる。
 したがって,A受審人が,気を付けて航行すれば大丈夫と思い,航行中のえい航船等の灯火を表示しなかったこと及びデ号がそのうち避けてくれると思い警告信号を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,所持していた懐中電灯でア号を照射して注意を喚起しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 吉丸引船列が,潮流により左方に約30度圧流され針路を適宜修正していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,原因とならない。
 一方,デ号が,目視及びレーダーによる見張りを十分に行っていれば,吉丸とア号が引船列を構成していることに気付き,間近に接近する前に吉丸引船列左舷側の広い海域を追い越す態勢にするなど,衝突を避けることができたものと認められる。
 したがって,B船長が,吉丸を単独の漁船であると思い込み,目視及びレーダーによる見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B船長が,航路内における追越し信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B船長が,関門マーチスからの情報内容を誤解したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,情報を得る前から吉丸の存在には気付いており,十分に見張りを行えば吉丸引船列に気付いたものと認められるので,原因とするまでもない。
 付近海域に流向250度流程1.8ノットの潮流があったことは,本件発生に関与があったものの,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,関門港関門航路において,西行する吉丸引船列が,航行中のえい航船等の灯火を表示せず,警告信号を行わなかったことと,西行するデ号が,見張り不十分で,吉丸引船列との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,関門港関門航路において,ア号を引き吉丸引船列を構成して西行する場合,航行中のえい航船等の灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,吉丸に航行中の動力船が表示する灯火に加え閃光灯1個を,ア号に閃光灯1個をそれぞれ表示しただけで,気を付けて航行すれば大丈夫と思い,航行中のえい航船等の灯火を表示しなかった職務上の過失により,デ号との衝突を招き,吉丸の右舷中央部外板に擦過傷を,ア号右舷中央部のブルワークに曲損をそれぞれ生じさせ,デ号の船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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