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平成17年横審第17号
件名

カーフェリー希望貨物船幸正丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(田邉行夫,西田克史,古城達也)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:幸正丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
幸正丸・・・船首部に凹損
希望・・・船尾部に凹損,亀裂及び破口

原因
幸正丸・・・回頭場所の選定不適切,回頭措置不十分

主文

 本件衝突は,清水港の船だまりに向かう幸正丸が,回頭場所の選定が不適切であったばかりか,回頭措置不十分で,係岸中の希望を十分に離す針路としなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月16日06時50分
 静岡県清水港
 (北緯35度00.6分 東経138度29.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 カーフェリー希望 貨物船幸正丸
総トン数 2,785トン 498トン
全長 74.00メートル 75.18メートル
機関の種類 ガスタービン機関 ディーゼル機関
出力 23,536キロワット 1,323キロワット
(2)設備及び性能等
ア 希望
 希望は,平成6年2月に進水の軽合金製カーフェリーで,災害救援船としての用途も兼ねていた。
イ 幸正丸
 幸正丸は,平成2年9月に進水の船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋から船首までの距離は50メートルであった。また,推進器は右回り,4翼固定式のものであった。

3 事実の経過
 希望は,船首3.83メートル船尾2.79メートルの喫水をもって,清水港日の出ふ頭5号岸壁に,船首尾ともそれぞれ3本の係留索をとり,船首を180度(真方位,以下同じ。)に向け,入船右舷着けの状態で係留中,平成16年6月16日06時50分清水港江尻船だまり北防波堤灯台(以下「江尻船だまり灯台」という。)から177度800メートルの地点において,幸正丸の船首が希望の船尾部に後方から32度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で潮流は微弱であった。
 また,幸正丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,小麦1,045トンを満載し,船首3.02メートル船尾4.80メートルの喫水をもって,同年6月15日12時40分京浜港横浜区を発し,清水港に向かった。
 A受審人は,23時10分清水港内に至り,清水港外防波堤南灯台から260度1,360メートルの地点に錨泊し,翌朝の清水船だまりへの移動に備えた。
 A受審人は,翌16日06時35分抜錨してそのまま入港配置とし,臨時に乗船していた一等航海士及び二等航海士を船首部に配置して左舷錨を準備し,機関長及び機関士を船尾部に配置し,船橋では自らが操船に当たり,機関を半速力前進にかけて7.0ノットの速力で手動操舵によって進行した。
 06時42分わずか過ぎA受審人は,清水港の航路の右側に当たる,江尻船だまり灯台から053度290メートルの地点に達したとき,いつものように航路の右側を航行し,清水船だまりの入り口からできる限り離れたところで,同船だまりへの進入針路にすることができるような回頭場所を選定することなく,荷役作業の予定を考慮して近回りをしようと思い,針路をほぼ希望に向首する191度に定め,機関を微速力前進とし,5.5ノットの平均速力で航路を斜行し徐々に航路外に向かって進行した。
 A受審人は,06時45分半希望まで410メートルに接近したとき機関停止としたものの,同じ針路のままの3.0ノットの平均速力で続航した。
 その後,A受審人は,舵だけで安全に回頭できるものと思い,清水船だまりの沖,希望の手前で行きあしを十分に減じたのち,その場回頭の操船法をとるなりして大角度の回頭措置を講じることなく進行し,06時48分半幸正丸の船首と希望の船尾部との距離が90メートルとなり,速力が2.0ノットに落ちたとき,機関停止のまま右舵一杯としたが,十分な舵効が得られず,希望を十分に離す針路としないまま接近した。
 A受審人は,船首配置の航海士から適切な報告を受けず,投錨する間もないまま06時50分江尻船だまり灯台から177度800メートルの地点において,幸正丸の船首が212度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸正丸は船首部に凹損を,希望は船尾部に凹損,亀裂及び破口を生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 幸正丸がいつものように航路の右側を航行し,清水船だまりの入り口からできる限り離れたところで,同船だまりへの進入針路にすることができるような回頭場所を選定しなかったこと
2 希望の手前で行きあしを十分に減じたのち,その場回頭の操船法をとるなりして大角度の回頭措置を講じて同船を十分に離す針路をとらなかったこと
3 船首配置の航海士から適切な報告を受けなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が,いつものように航路の右側を航行し,清水船だまりの入り口からできる限り離れたところで,同船だまりへの進入針路にすることができるような回頭場所を選定していたならば,希望までの距離的余裕を持つことができ,また,回頭状況によってはそのまま航路に沿って進行して衝突を避ける措置をとることができた可能性が高く,このような回頭場所を選定しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,希望の手前で行きあしを十分に減じたのち,その場回頭の操船法をとるなりして大角度の回頭措置を講じなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,船首配置の航海士から適切な報告を受けなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,清水港の清水船だまりに向かう幸正丸が,回頭場所の選定が不適切であったばかりか,回頭措置不十分で,日の出ふ頭に係岸中の希望を十分に離す針路としなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,清水港の清水船だまりに向かって進行中,同船だまりの沖,希望の手前で大きく回頭する場合,行きあしを十分に減じたのち,その場回頭の操船法をとるなど十分な回頭措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,舵だけで安全に回頭できるものと思い,十分な回頭措置をとらなかった職務上の過失により,希望を十分に離す針路としないで衝突を招き,自船の船首部に凹損を,希望の船尾部に凹損,亀裂及び破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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