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平成16年横審第103号
件名

遊漁船良征丸モーターボート三友二号衝突事件
第二審請求者〔補佐人 e〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史,田邉行夫,小寺俊秋)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:良征丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b,c,d
受審人
B 職名:三友二号船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
e

損害
良征丸・・・船首材に損傷及び左舷船首部外板に破口を伴う擦過傷
三友二号・・・左舷後部外板及び風防ガラスを破損,同乗者1人が死亡

原因
良征丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
三友二号・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,良征丸が,見張り不十分で,錨泊中の三友二号を避けなかったことによって発生したが,三友二号が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月2日11時40分
 三重県神島西方沖合
 (北緯34度32.3分 東経136度57.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船良征丸 モーターボート三友二号
総トン数 4.8トン  
全長   6.14メートル
登録長 11.60メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 330キロワット 29キロワット
(2)設備及び性能等
ア 良征丸
(ア)船体構造等
 良征丸は,平成12年9月に進水した漁業及び遊漁等に従事するFRP製小型兼用船で,旅客定員12人を有し,限定沿海区域を航行区域とし,船体中央より少し後方に操舵室があり,同室内の左舷寄りに舵輪を設け,GPSプロッター,魚群探知機のほか,自動操舵及びコントローラー式遠隔操舵装置をそれぞれ装備していたが,レーダーは装備されていなかった。
(イ)操縦位置からの見通し状況
 良征丸は,操舵室の床が高く天井に開口部がないので立つことができずに床に座って操船するようになっており,前方の見張りを妨げる構造物はなかったものの,機関回転数毎分1,500の15.0ノットから船首が浮上し始め,同1,700の17.0ノットでは,船首両舷にわたって20度ばかりの死角が生じる状況にあったが,船首を左右に振るなどして見張りを行えば,死角を補うことができた。
イ 三友二号
(ア)船体構造等
 三友二号は,昭和56年5月に第1回定期検査を受けたFRP製モーターボートで,船外機1機を船尾外板中央部に備え,最大搭載人員8人を有し,限定沿海区域を航行区域とし,船体中央より少し後方に操舵スタンドがあり,同スタンドから遠隔操作で直ぐに船外機を始動できようになっていた。また,法定の形象物を掲げられる支柱を備えていなかった。
(イ)見通し状況
 三友二号は,見張りに支障となるような構造物がなかったので,船上のどこからでも周囲を見渡すことができた。

3 事実の経過
 良征丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客4人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成15年11月2日06時50分愛知県師崎港を発し,08時ごろ神島南方3海里ばかりの釣り場に至り,週末で多数の釣り船が出ているなか投錨し,はまちを対象魚に遊漁を始め,その後北北東方へ少し移動し,瀬木寄瀬(せぎょおせ)と呼ばれる付近で再び投錨して遊漁を続け,潮止まりとなって釣果が落ちたので,11時25分発進して神島西方沖合のたいの釣り場に向かった。
 A受審人は,釣り客全員に救命胴衣を着用させたうえ船尾部に座らせて発進し,徐々に機関の回転数を上げて全速力前進の17.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,前路に錨泊していた多数の釣り船を避航したり,それらの釣れ具合を見ながら船首を左右に振る状態で縫航したのち,前路に他船を見掛けなくなったので,11時38分神島灯台から213度(真方位,以下同じ。)1.26海里の地点で,針路を315度に定め,引き続き17.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 11時39分A受審人は,神島灯台から226度1.23海里の地点に達したとき,正船首525メートルのところに船首を南西方に向けた三友二号を視認することができ,その後,同船が錨泊中であることを示す法定の形象物を表示していなかったものの,船首から錨索を海面に延出し,左舷側を見せたまま方位が変わらないことから錨泊していることが分かる状況で,衝突のおそれがある態勢で接近したが,前路に支障となる他船はいないものと思い,船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,錨泊中の三友二号に気付かず,速やかに同船を避けないまま続航した。
 11時40分少し前A受審人は,釣り場に近づいたので減速を始めて船首浮上がなくなったとき,正船首至近に三友二号を初めて認めたが,何らの措置をとることができず,11時40分神島灯台から239度1.27海里の地点において,良征丸は,原針路のまま,7.5ノットの速力となったとき,その船首が三友二号の左舷後部に直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北北西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の中央期にあたり,付近には弱い北西流があった。
 また,三友二号は,B受審人が1人で乗り組み,同乗者Cほか1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日09時00分三重県鳥羽市本浦の係留地を発し,09時15分菅島近くの釣り場に至ったところ,魚群探知機に魚影を認めなかったので,それを探しながら東方沖合の神島に向かった。
 10時30分B受審人は,前示衝突地点に至ったとき,魚影を認めたので釣りを行うこととし,機関を止めて水深約20メートルのところに重さ約5キログラムのステンレス製錨を投じ,約1メートルのチェーンと直径15ミリメートルの合成繊維製ロープとを連結した錨索を船首から約40メートル延出し,付近には多数の釣り船が出ており,船舶が通常航行する水域であったものの,法定の形象物を表示しないで船首を西方に向けて錨泊し,C同乗者が操舵スタンド前の左舷側に,もう1人の同乗者が右舷船尾部に,自らは同スタンド前の右舷側にそれぞれ腰を下ろし,航走中に着用した救命胴衣を自らを含め全員が脱いで釣りを始めた。
 11時39分B受審人は,右舷方を向いた姿勢で釣りをしていたところ,折からの風潮流により船首が225度に向いていたとき,左舷正横525メートルのところに自船に向首した良征丸を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが,錨泊している自船を航行中の他船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,良征丸の存在とその接近に気付かず,注意喚起信号を行うことも,更に接近したとき船外機を始動するなど前進して衝突を避けるための措置もとらないまま,錨泊を続けた。
 11時40分少し前B受審人は,左舷側にいたC同乗者の他船が向かってくるとの声で振り返ったところ,左舷正横100メートルのところに白波を立て自船に向首した良征丸を初めて認め,30メートルに迫ったとき衝突の危険を感じて立ち上がり,大声を出して手を振ったが効なく,三友二号は,船首を225度に向けたまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,良征丸は,船首材に損傷及び左舷船首部外板に破口を伴う擦過傷を生じ,三友二号は,左舷後部外板及び風防ガラスを破損したが,のちいずれも修理され,C同乗者が海中転落し,出血性ショックで死亡する事態を招くに至った。

(航法の適用)
 本件は,三重県神島西方沖合において,良征丸と三友二号とが衝突したものであるが,三友二号が錨泊中であることを示す法定の形象物を表示しないで錨泊していたものの,北上する良征丸にとって,三友二号に向首するようになったのち,船首から錨索を海面に延出し,折からの風潮流により船首を南西方に向け,左舷側を見せたまま方位が変わらないことから,錨泊していることが分かる状況にあったので,航行中の良征丸と錨泊中の三友二号とが衝突した関係と認められる。
 衝突地点は,海上交通安全法の適用海域であることから同法の定めが優先するものの,海上交通安全法には航行中の船舶と錨泊中の船舶との関係についての航法規定が存在しないことから,一般法である海上衝突予防法の適用によるところとなるが,同法においても同様の関係についての航法規定が存在しない。よって,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務の定めで律することになる。

(本件発生に至る事由)
1 良征丸
(1)船首が浮上して船首方に死角が生じていたこと
(2)前路に支障となる他船がいないと思い,死角を補う見張りを行わなかったこと
(3)錨泊中の三友二号を避けなかったこと

2 三友二号
(1)支柱の備えがなく錨泊中を示す法定の形象物を表示していなかったこと
(2)救命胴衣を着用していなかったこと
(3)錨泊している自船を航行中の他船が避けてくれると思い,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(4)注意喚起信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,釣り場を移動中の良征丸が,死角を解消して見張りを十分に行っていたなら,三友二号を早期に視認でき,錨泊している同船を容易に避航して発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,前路に支障となる他船はいないものと思い,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行わず,錨泊中の三友二号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 良征丸の船首が浮上して死角が生じていたことは,通常の操縦位置から船首方の見張りを妨げることとなるが,船首を左右に振るなどして死角の解消が可能であることから,本件発生の原因とならない。
 一方,錨泊中の三友二号が,周囲の見張りを十分に行っていれば,自船に向首して避航の様子もなく接近する良征丸を早期に視認でき,注意喚起信号を行い,余裕をもって衝突を避けるための措置をとって発生を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,錨泊している自船を航行中の他船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わず,注意喚起信号を行うことも,衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,支柱の備えがなく錨泊中を示す法定の形象物を表示していなかったこと,甲板上にいる自らを含め同乗者とともに救命胴衣を着用しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 三友二号側補佐人は,「良征丸が錨泊していた三友二号を避けるべきであった。また,良征丸を認めたときには距離的にも時間的にも注意喚起信号を行うことも同船を避けるための措置もとる余裕がなかったのであり,すべての原因は良征丸にある。」旨を主張するので,このことについて検討する。
 三友二号が法定の形象物を表示していなかったものの,良征丸にとっては三友二号が錨泊していることが分かる状況にあったことから,良征丸が錨泊していた三友二号を避けるべきことは,補佐人が主張するとおりである。
 しかしながら,B受審人が,「自船の北側数百メートルのところに5ないし6隻の遊漁船が錨泊していた。船の上では事故が怖いので周囲をできるだけ見るようにしていた。」旨を供述し,「釣り場に到着した当初には流し釣りをしている5ないし6隻の船がおり,潮の関係から自船の周囲を移動しながら操業していた。自船の南方遠距離のところにも船が見えた。発航後,小型船が多数おり,自船と同様に魚群探知機で魚影を求めて移動していた。釣りの間に何かあれば声を出し合って互いに知らせるようにしていた。」旨を当廷で述べているとおり,同人は錨泊地点付近が多数の船舶が往来する海域であることを承知しており,接近する船舶に対する注意が必要であることを認識していたのである。また,B受審人は,「船外機はキーを回すだけで直ちに始動できた。機関をかけて少し前進すれば回避できたが,良征丸が避けると思った。」旨を供述し,「自船を前に出そうと錨索に手を掛けたとき衝突した。錨索は引っ張れば簡単に解けるようにしていた。錨泊時に笛の付いた救命胴衣を脱ぎ,船首部の物入れに入れた。金物の赤いバケツがあるが,どこに納めているのか把握してなかった。」旨を当廷で述べているとおり,同人が見張りを十分に行っていたなら,相当の余裕をもって良征丸の接近を知ることができ,これに十分に対応できたと認められるところであり,注意喚起信号を行うことも,同船を避けるための措置もとる余裕がなかったという補佐人の主張を是とする理由はない。

(海難の原因)
 本件衝突は,三重県神島西方沖合において,北上中の良征丸が,見張り不十分で,錨泊中の三友二号を避けなかったことによって発生したが,三友二号が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,三重県神島南方沖合から同島西方沖合に向け釣り場を移動するため北上する場合,船首が浮上して船首方に死角を生じていたから,前路で錨泊中の三友二号を見落とさないよう,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,多数の釣り船の中を縫航し終えて付近に他船を見掛けなくなったので,前路に支障となる他船はいないと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中の三友二号に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,良征丸の船首材に損傷及び左舷船首部外板に破口を伴う擦過傷を生じさせ,三友二号の左舷後部外板及び風防ガラスを破損させたほか,同船の同乗者1人が海中に転落し,出血性ショックで死亡する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,三重県神島西方沖合において,釣りのため錨泊する場合,自船に向首接近する良征丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,錨泊している自船を航行中の他船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,良征丸の存在と接近に気付くのが遅れ,注意喚起信号を行うことも,船外機を始動するなど前進して衝突を避けるための措置もとらないまま錨泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,三友二号の同乗者1人が死亡する事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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