(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月18日17時20分00秒
宮城県野蒜海岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイキャプテン・II |
水上オートバイベティ |
登録長 |
2.89メートル |
2.32メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
106キロワット |
95キロワット |
3 事実の経過
キャプテン・II(以下「キャプテン」という。)は,航行区域を限定沿海区域とする,FRP製の水上オートバイで,平成8年11月に取得した四級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み,遊走の目的で,船首尾とも0.25メートルの喫水をもって,平成16年7月18日17時16分00秒に鰯山33メートル頂(以下「鰯山」という。)から181度(真方位,以下同じ。)1,750メートルの宮城県東松島市野蒜海岸を発し,遊走を始めた。
17時19分30秒ごろA受審人は,右舷前方440メートルばかりのところに,北上中のベティを初認したが,まだ距離があるので大丈夫と思い,同船の動向を気にすることなく遊走を続けた。
A受審人は,宮戸島の入り江をいったん南下し,その後,同入り江を折り返して北上し,17時19分43秒鰯山から180.5度1,850メートルの地点に達したとき,針路を020度に定め,機関を前進にかけ,毎時60キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)として進行した。
定針したとき,A受審人は,右舷船首7.5度250メートルのところまで接近したベティを視認することができたが,左舷方の海岸でバーベキューをしている仲間のことに気をとられ,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航した。
こうして,キャプテンは,A受審人がベティに衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,針路を転じるなどして同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行中,17時20分わずか前右舷船首至近に迫った同船を再び視認し,右舵一杯としたが,及ばず,17時20分00秒鰯山から177.5度1,600メートルの地点で,キャプテンの船首部がベティの左舷船尾部に後方から43度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
また,ベティは,航行区域を限定沿海区域とする,FRP製の水上オートバイで,平成8年11月に取得した二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許及び特殊小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み,遊走に使用したベティを搬送用トレーラーに載せる目的で,船首尾とも0.2メートルの喫水をもって,同日17時16分37秒鰯山から186度1,640メートルの野蒜海岸を発し,いったん海上に出て同海岸沖合に向かった。
ところで,B受審人は,ベティの船体が重いので,搬送用トレーラーを海中に沈め,自らベティを運転して,海上からそのままトレーラーに載せることにしていた。
17時19分07秒B受審人は,鰯山から175.5度1,750メートルの地点に達したとき,針路を337度に定め,機関を前進にかけ,毎時10キロメートルの速力で進行した。
定針後,B受審人は,左舷後方が陸のため見通せない状況下,遊走を続け,17時19分30秒左舷船尾50.5度440メートルばかりのところに,北上するキャプテンを視認できる状況となっていたものの,既に夕刻となっており,遊走中の水上オートバイを認めなかったので,付近に水上オートバイはもういないものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,そのまま続航した。
17時19分43秒B受審人は,鰯山から176度1,660メートルの地点に達したとき,左舷船尾50.5度250メートルのところまで接近したキャプテンを視認することができ,その後,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,依然,同船に気付かずに進行した。
こうして,ベティは,B受審人が衝突のおそれがある態勢で接近するキャプテンに気付かず,針路を転じるなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,キャプテンは,船首部に裂傷及び曲損を,ベティは,左舷船尾部に裂傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,A受審人は,胸部打撲及び肋骨骨折を,B受審人は,左恥骨及び座骨の骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は,宮城県東松島市野蒜海岸において,遊走中のキャプテン・IIが,動静監視不十分で,遊走中のベティとの衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,遊走中のベティが,見張り不十分で,遊走中のキャプテン・IIとの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県東松島市野蒜海岸において,水上オートバイで遊走する場合,前路を遊走中のベティの動向を把握できるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海岸でバーベキューをしている仲間に気をとられ,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,ベティと衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,針路を転じるなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き,自船の船首部に裂傷及び曲損を,ベティの左舷船尾部に裂傷などを生じさせ,また,自らは胸部打撲及び肋骨骨折を,B受審人が左恥骨及び座骨の骨折などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,宮城県東松島市野蒜海岸において,水上オートバイで遊走する場合,後方から衝突のおそれがある態勢で接近するキャプテン・IIを見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,他の水上オートバイを認めなかったので,付近に水上オートバイはいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近するキャプテン・IIに気付かず,針路を転じるなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせるとともに前示負傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。