(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月27日17時46分
福島県四倉港東方沖合
(北緯37度06.2分 東経141度09.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船伸栄丸 |
油送船第二十三浅川丸 |
総トン数 |
682トン |
499トン |
全長 |
|
65.00メートル |
登録長 |
74.81メートル |
60.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 伸栄丸
伸栄丸は,平成9年10月に進水した航行区域を限定沿海区域とする,船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室には操舵装置のほか2台のレーダー,衛星航法装置及び測深儀などを備え,また,プロペラ翼4枚の固定ピッチプロペラを備えるほか,バウスラスターも装備していた。
海上公試運転成績表によれば,舵角35度で360度旋回するのに左旋回で2分50秒の時間を,右旋回で2分53秒の時間を要し,左旋回時の最大横距は198.83メートル(2.72×Lpp)で,同最大縦距は183.97メートル(2.52×Lpp)あり,右旋回時の最大横距は201.23メートル(2.76×Lpp)で,同最大縦距は199.42メートル(2.73×Lpp)であった。また,機関回転数毎分310の4/4連続出力の14.24ノットの速力で前進中,後進最大を発令したとき,船体停止までの所要時間は2分30秒を要し,その停止距離は574メートルで,その回頭角は右へ16度であった。
イ 第二十三浅川丸
第二十三浅川丸(以下「浅川丸」という。)は,平成4年7月に進水した航行区域を限定沿海区域とする,船尾船橋型の鋼製油送船で,操舵室には操舵装置のほか,2台のレーダー及び衛星航法装置などを備え,また,プロペラ翼3枚の固定ピッチプロペラを装備していた。
海上公試運転成績書によれば,舵角35度で360度旋回するのに左旋回で3分36.6秒の時間を,右旋回で3分29.9秒の時間を要し,左旋回時の最大横距は219メートル(3.65×Lpp)で,同最大縦距は259メートル(4.32×Lpp)であり,右旋回時の最大横距は211メートル(3.52×Lpp)で,同最大縦距は247メートル(4.12×Lpp)であった。また,機関回転数毎分340の4/4連続出力の11.08ノットの速力で前進中,後進を発令したとき,船体停止までの所要時間は2分10秒を要し,その停止距離は443メートルであった。
3 事実の経過
伸栄丸は,A受審人及びB受審人ほか5人が乗り組み,千葉県木更津港君津で水滓(すいさい)1,600トンを積載し,揚荷の目的で,船首3.53メートル船尾4.47メートルの喫水をもって,平成16年7月27日00時50分同港を発し,岩手県釜石港に向かった。
ところで,A受審人は,船橋当直を4時間交替の単独3直制とし,23時00分から03時00分及び11時00分から15時00分を二等航海士に,03時00分から07時00分及び15時00分から19時00分を一等航海士にそれぞれ行わせ,自らは07時00分から11時00分及び19時00分から23時00分の船橋当直に入るようにしていた。
A受審人は,11時過ぎ犬吠埼灯台の沖合を航過したころ二等航海士と船橋当直を交替する際,同人に対しては,霧のため視程が1海里以下の視界制限状態となれば知らせるように指示したが,一等航海士に対しては同人が乗船経歴も長く,経験も豊富であったので,改めて指示するまでもないものと思い,二等航海士に対し,自らの指示を一等航海士に申し送るよう伝えることなく,降橋して自室で休息した。
14時50分ごろB受審人は,伸栄丸が茨城県日立港の東方沖合20海里ばかりのところを北上中,昇橋して二等航海士と船橋当直を交替し,17時ごろ霧が発生して視程が500メートルばかりまで狭められる状況となったが,広い海域を航行していたので,その必要はないものと思い,速やかに安全な速力に減じることも,霧中信号を吹鳴することもしないまま航行を続けた。
17時11分少し前B受審人は,塩屋埼灯台から089度(真方位,以下同じ。)5.5海里の地点に達したとき,針路を021度に定め,機関を全速力前進にかけて12.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
17時32分半B受審人は,四倉港沖北防波堤灯台(以下「北灯台」という。)から115.5度6.2海里の地点に達したとき,左舷船首8度5.0海里のところに,浅川丸のレーダー映像を初めて認め,その後,その動向を監視するうち,同船が反航船であることを知り,引き続き同船を監視しながら続航した。
17時38分少し前B受審人は,北灯台から105度6.3海里の地点に達したとき,浅川丸のレーダー映像がその方位にほとんど変化のないまま,3.0海里まで接近したのを認め,互いに左舷を対して航過するつもりで,針路を030度に転じて進行した。
17時41分B受審人は,北灯台から099度6.5海里の地点に至り,浅川丸のレーダー映像が左舷船首16度1.8海里のところまで接近し,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,VHFで互いに左舷を対して航過する旨を伝えたので,同船から応答はなかったものの,承知しているものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを止めることもなく,更に針路を040度に転じて進行した。
伸栄丸は,17時43分B受審人が浅川丸のレーダー映像を左舷船首27度1.0海里に認め,その後,同船が自船に向けて直進するように接近する状況となったので,操舵を手動に切り替えて針路を055度に転じ,その後,機関を停止して左舵一杯としたが,及ばず,17時46分北灯台から092度7.0海里に地点において,原速力のまま,その船首が浅川丸の右舷船尾に後方から85度の角度をもって衝突した。
当時,天候は霧で風力1の南風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,視程は約120メートルであった。
また,浅川丸は,C受審人ほか4人が乗り組み,空倉のまま,船首1.5メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,同月27日10時45分宮城県石巻港を発し,京浜港に向かった。
ところで,C受審人は,船橋当直を一等航海士との2人で6時間交替の2直制とし,C受審人が04時00分から10時00分及び16時00分から22時00分の当直に入るようにしていた。
13時20分浅川丸は,鵜ノ尾埼灯台から053度11.5海里の地点で,針路を182度に定め,機関を全速力前進にかけて11.4ノットの速力とし,自動操舵により進行した。
16時16分半C受審人は,東電広野火力発電所専用港南防波堤灯台から035.5度10.5海里の地点に達したとき,昇橋して当直中の一等航海士と船橋当直を交替した際,折からの霧で視程が1海里以下と狭められる状況であったが,広い海域を航行していることでもあり,その必要はないものと思い,速やかに安全な速力に減じることも,霧中信号を吹鳴することもしないまま続航した。
17時28分C受審人は,北灯台から068度7.3海里の地点に達したとき,右舷船首10.5度6.0海里のところに,伸栄丸のレーダー映像を初認したころ,視程が約300メートルばかりと一層狭められる状況となったので,同時35分ごろ休息中の一等航海士に昇橋を求め,同人を手動操舵に当たらせ,自らはレーダーを監視することにより,周囲の見張りに専念しながら進行した。
17時38分少し前C受審人は,北灯台から079度6.9海里の地点に達したとき,伸栄丸のレーダー映像が右舷船首21度3.0海里まで接近したのを認め,右舷側に同航船がいたこともあり,互いに右舷を対して航過するつもりで,針路を172度に転じて続航した。
17時41分C受審人は,北灯台から084度6.9海里の地点に至り,伸栄丸のレーダー映像が右舷船首22度1.8海里のところまで接近し,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,同船とは互いに右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
浅川丸は,17時44分少し過ぎC受審人が伸栄丸の方位に変化がないまま接近するのを認め,針路を162度に転じたのち,更に152度に転じたが,及ばず,原速力のまま,船首が140度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,伸栄丸は,船首外板及び球状船首に破口を伴う凹損を,浅川丸は右舷船尾端外板に亀裂を伴う凹損及び端艇甲板に破損などを生じた。
(航法の適用)
本件は,霧のため視界が制限された福島県四倉港東方沖合において,北上中の伸栄丸と南下中の浅川丸とが衝突したものであり,両船は互いに視野の内になかったのであるから,海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法が適用される。
(本件発生に至る事由)
1 伸栄丸
(1)A受審人が,船橋当直者に当直を引き継ぐ際,次直者に対し,引継ぎ事項を申し次ぐように伝えなかったこと
(2)霧中信号を吹鳴していなかったこと
(3)安全な速力で航行しなかったこと
(4)B受審人が,視程が1海里以下となった際,その旨を船長に報告しなかったこと
(5)VHFでの呼びかけに応答がない浅川丸に対し,チャンネルを切り替えて応答を確認しなかったこと
(6)VHFでの応答はなかったが,左舷対左舷で航過する旨を伝えたので,左舷を対して航過できると思っていたこと
(7)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
2 浅川丸
(1)安全な速力で航行しなかったこと
(2)霧中信号を行わなかったこと
(3)右舷を対して航過できると思っていたこと
(4)小角度の変針を繰り返し行ったこと
(5)左転したこと
(5)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
(原因の考察)
本件は,伸栄丸が,霧のため視界制限状態となった福島県四倉港東方沖合を北上中,霧中信号を行い,安全な速力とし,レーダーで前路に認めた浅川丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを止めていれば衝突を避けることができたものと認められる。
したがって,伸栄丸が,霧中信号を行わなかったこと,安全な速力で航行しなかったこと,及びB受審人が,レーダーで前路に認めた浅川丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,VHFで互いに左舷を対して航過する旨を伝えたので,同船から応答がなかったものの,承知しているものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
また,A受審人が,船橋当直を引き継ぐ際,次直者に対し,引継ぎ事項を申し次ぐよう伝えなかったこと,及びB受審人が,視程が1海里以下になったことを報告しなかったこと,VHFで浅川丸と連絡をとった際,応答がない同船に対し,チャンネルを切り替えてその旨を確認しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方,浅川丸が,霧のため視界制限状態となった福島県四倉港東方沖合を南下中,霧中信号を行い,安全な速力とし,レーダーで前路に認めた伸栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを止めていれば衝突を避けることができたものと認められる。
したがって,浅川丸が,霧中信号を吹鳴しなかったこと,安全な速力としなかったこと,及びC受審人が,伸栄丸とは互いに右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
C受審人が,互いに右舷を対して航過できると思ったこと,左転したこと,及び小角度の変針を繰り返したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,霧のため視界が制限された福島県四倉港東方沖合において,北上中の伸栄丸が,レーダーにより前路に探知した第二十三浅川丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,第二十三浅川丸が,レーダーにより前路に探知した伸栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
伸栄丸の運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったことと,船橋当直者が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は,霧のため視界が制限された福島県四倉港東方沖合を北上中,レーダーにより正横より前方に南下中の第二十三浅川丸の映像を探知し,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合,速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに,同人は,VHFで互いに左舷を対して航過する旨を伝えたので,同船から応答がなかったものの,承知しているものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により,第二十三浅川丸との衝突を招き,伸栄丸の船首外板及び球状船首に破口を伴う凹損を,第二十三浅川丸の右舷船尾端外板に亀裂を伴う凹損及び端艇甲板に破損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は,霧のため視界が制限された福島県四倉港東方沖合を南下中,レーダーにより正横より前方に北上中の伸栄丸の映像を探知し,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合,速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船とは互いに右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により,伸栄丸との衝突を招き,両船に前示損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は,霧模様の犬吠埼灯台の東方沖合を航行中,船橋当直を二等航海士と交替する際,視程が1海里以下となったら,報告するよう指示して降橋する場合,視界制限時には自ら操船の指揮が執れるよう,次直の一等航海士に対しても指示を伝えるよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,一等航海士は乗船経歴も長く,経験も豊富であるので,改めて指示するまでもないものと思い,指示しなかった職務上の過失により,自ら操船の指揮が執れないまま,第二十三浅川丸との衝突を招き,両船に前示損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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