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平成17年函審第17号
件名

貨物船マリンオーサカ防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,弓田邦雄,堀川康基)

理事官
向山裕則

損害
左舷側後部外板に破口,のち沈没
船長,一等航海士,二等航海士,機関長,操機手,機関員及び司厨長が溺水により死亡,乗組員1人が4週間の加療を要する右腸骨骨折などの負傷,ほか8人が大腿打撲,左肩打撲,低体温症などの負傷

原因
錨泊方法不適切,守錨当直不十分

主文

 本件防波堤衝突は,荒天が予想される状況下,錨泊方法が適切でなかったばかりか,守錨当直が不十分で,走錨に気付くことが遅れ,揚錨後,強風と高起した波浪の影響を受けて圧流されたことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月13日01時49分
 北海道石狩湾港
 (北緯43度12.0分 東経141度15.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船マリンオーサカ
総トン数 5,565トン
全長 100.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,427キロワット
(2)設備及び性能等
 マリンオーサカ(以下「マ号」という。)は,1983年10月に進水し,上甲板下にフリーボード甲板を有する船尾船橋型鋼製貨物船で,上甲板上,船首部と船体中央部に荷役用のマスト及びデリックブーム,船橋前面に鳥居型マスト及びデリックブームを有し,上甲板とフリーボード甲板の間に,船首から順に甲板長倉庫,甲板倉庫,No.1貨物スペース,No.2貨物スペースが,フリーボード甲板下に,船首から順に船首水槽,深水槽,No.1貨物倉,No.2貨物倉,機関室,船尾水槽及び飲料水タンクがそれぞれ設置されていた。No.1貨物倉下の中央部にはNo.1燃料タンク,その左右両舷にNo.1バラストタンクが,No.2貨物倉下の中央部にはNo.2燃料タンク,その左右両舷にNo.2バラストタンクがそれぞれ設けられていた。当時,船体中央部での喫水線から上甲板までの高さが約9メートルであった。
 錨は,重量3,180キログラムのJIS型が船首両舷に各1個備えられ,錨鎖は,直径50ミリメートルで1節27.5メートルのものが両舷で18節備えられていた。

3 バラスト,燃料及び飲料水などの状態
 バラスト量は,深水槽,No.1バラストタンク及びNo.2バラストタンクに計964トン漲水されており,燃料のA重油が15トン,C重油が184トン,飲料水が88トン積載されていた。

4 錨泊地の地勢
 石狩湾港は,北海道石狩市と小樽市にまたがり,北方から西方の日本海に開けた石狩湾に面し,北側の島防波堤と同港北西方1,500メートルで北東から南西方にかけて長さ約4.5キロメートルの北防波堤が構築されていたが,北防波堤の沖合は外洋からの風や波浪に直接さらされており,錨泊地付近の底質は砂であった。

5 当時の気圧配置
 11月12日09時の地上天気図では,北緯40度東経115度付近の中国大陸に1036ヘクトパスカルの高気圧,北緯37度東経165度付近の北太平洋上に1034ヘクトパスカルの高気圧があってほとんど停滞し,その間の北海道東部に1004ヘクトパスカルの低気圧があって寒冷前線が四国沖合まで延び,同低気圧が発達しながら東方にゆっくりと移動している状況で,同日21時には北緯45度東経150度に至って998ヘクトパスカルとなり,更に発達しながらカムチャツカ半島南方沖合に移動し,北海道西部は北西風が強く吹く気圧配置となっていた。

6 事実の経過
 マ号は,船長A,二等航海士Bほか大韓民国人6人及びミャンマー人8人が乗り組み,空倉のまま,船首2.25メートル船尾4.70メートルの喫水をもって,平成16年11月10日福井県敦賀港を発し,スクラップ積の目的で,石狩湾港に向かった。
 ところで,同月12日11時46分及び18時20分に札幌管区気象台から,石狩北部では,12日夜から13日昼前まで北西の風が海上で風速毎秒(以下,毎秒を略す。)18メートル,波の高さ3メートルで突風や高波に注意との強風,波浪及び雷注意報が発表されており,A船長は,地上天気図やナブテックスなどで気象情報を入手していた。
 A船長は,12日20時10分石狩湾港港外に到着し,積荷役待ちのため錨泊することとしたが,荒天が予想される状況の下,錨鎖を十分に延出するなり,振れ止め錨を投じるなど,適切な錨泊方法をとることなく,石狩湾港北防波堤北灯台(以下「石狩湾港北灯台」という。)から300度(真方位,以下同じ。)1,800メートルの,底質が砂で水深約22メートルの地点において,右舷錨を投じ,錨鎖を甲板上6節に延出して錨泊を開始した。
 マ号の停泊当直は,航海当直と同様の各航海士に甲板手が1人付き,4時間交代の3直制とし,00時から04時と12時から16時が二等航海士,04時から08時と16時から20時が一等航海士,08時から12時と20時から24時が三等航海士となっていた。
 A船長は,錨泊中,当直航海士に守錨当直を兼ねた停泊当直を行わせることにしたが,風速が15メートルになったとき報告すること,また,早期に走錨を認知できるよう頻繁に船位の確認を行うなど,守錨当直を十分に行うよう申し送りの指示をすることなく,降橋して自室で休息した。
 錨泊後,三等航海士は,甲板手とともに停泊当直に就き,そのころ北西風で風速6メートルばかりであったが,当直を交代するころには風速が増し時折20メートルを超す突風が吹いていたが,23時40分ごろB二等航海士に同当直を引き継いで降橋した。
 B二等航海士は,停泊当直を交代して間もなく,風速20メートルの北北西風が連吹するようになり,時折25メートル以上の突風も吹き,波高が3メートルばかりの荒天状況となったのを認めたが,このことを船長に報告しなかったばかりか,早期に走錨を認知することができるよう,レーダーなどで船位を頻繁に確認するなど,守錨当直を十分に行わなかったので,翌13日00時08分ごろ,マ号が船首を振れ回りながら,風下に向けて約0.8ノットの速力で走錨を始めたことに気付かず,00時35分レーダーで船位を確認したところ,走錨していることを初めて認め,A船長に報告した。
 00時38分A船長は,昇橋してレーダーにより船位を確かめたところ,錨泊地点から南東方に船位が移動しており,走錨中であることを認め,00時43分緊急時の警報を鳴らすとともに総員配置を船内に発令し,揚錨して避難することに決め,船首部に一等航海士ほか甲板部員,船橋にB二等航海士及び三等航海士を就け,甲板手を手動操舵に当たらせ,機関用意を令した。
 ところで,機関部では,北海道が冬季のため,機関を直ぐに使用できるよう,暖機状態としていたので,10分もかからないで機関の運転が可能となった。
 00時50分A船長は,揚錨を開始したものの,錨鎖が強く張っていて巻き込みができなかったことから,機関を極微速力前進とし,そのころ,突風を伴う風速20メートルの北西風が連吹し,錨鎖がなかなか巻けなかったので,01時05分機関を全速力前進まで上げ,01時15分石狩湾港北灯台から271度950メートルの地点で,船首を270度ばかりに向いてようやく揚錨を終了した。
 A船長は,右舷正横方からの強風により船首が風下に落とされるため,右舵一杯としたまま,機関を全速力前進にかけて進行したものの,強風及び高起した波浪の影響と,浅喫水による風圧面積が大きく,プロペラの空転作用も引き起こして船体の前進力がほとんど得られず,船首が240度に向いたまま201度方向に圧流されながら,北防波堤に次第に接近する状況で続航した。
 やがて,A船長は,北防波堤と衝突の危険を感じ,投錨するため一等航海士ほか甲板部員を船首部の配置に付かせたが,マ号は,01時49分石狩湾港北灯台から215度2.07海里の地点において,その船首が240度に向いて3.2ノットの速力で,左舷後部が同防波堤の消波ブロックに衝突した。
 当時,天候は雨で風力8の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期に当たり,有義波高は約3メートル,最大波高が約4.3メートルで,付近海域に強風,波浪及び雷注意報が発表されていた。
 衝突の結果,マ号は,左舷側後部外板に破口を生じて機関室に浸水し,その後,消波ブロックに何回も激突して船体が三つに分断されたのち沈没した。
 船上及び海上に投げ出された乗組員の救助作業が,海上保安部の巡視船艇及び航空自衛隊のヘリコプターなどにより行われたが,A船長,一等航海士C,B二等航海士,機関長D,操機手E,機関員F及び司厨長Gが溺水により死亡し,乗組員1人が4週間の加療を要する右腸骨骨折などを負い,ほか8人が大腿打撲,左肩打撲,低体温症などを負った。
 衝突後,付近海域に燃料油が流出したが,油回収及び油防除作業により油汚染が収まり,また,船体は撤去作業中である。

(本件発生に至る事由)
1 バラスト状態の浅喫水により,風圧面積が大きかったこと
2 錨鎖6節の単錨泊であったこと
3 守錨当直者に対し,報告するべき具体的な風速値及び船位の十分な確認の指示がなかったこと
4 守錨当直者が船位の確認を十分に行っていなかったこと
5 13日00時前ごろから風及び波浪が増勢したこと

(原因の考察)
 本件は,荒天が予想される状況であったが,適切な錨泊方法をとり,かつ,早期に走錨を認知できるよう,守錨当直を十分に行っていれば,発生しなかったものと認められる。
 したがって,A船長が,6節で単錨泊したことは,当時の気象・海象状況とマ号の船型及び船体状態から,適切な錨泊方法といえず,また,船橋当直者に対し,荒天の目安である風速が15メートルとなったとき報告すること及び走錨を早期に認知できるよう船位の確認を頻繁に行うなど,守錨当直を十分に行うよう申し送りの指示をしなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 当直中のB二等航海士が,荒天状況となって走錨したことに気付くのが遅れたのは,船位の確認を十分に行わなかったことであり,本件発生の原因となる。
 風圧面積が大きかったことは,マ号の船型及びバラスト状態であることからやむを得ず,それに十分留意し,適切な錨泊方法をとるか,または,一層の荒天状況となった場合,早期に避難の措置をとっていれば,本件が発生しなかったと認められるので,原因とならない。
 13日00時前ごろから風及び波浪が増勢したことについては,走錨発生の要因と認められるが,台風などの暴風でなく,適切な措置をとっていれば本件発生を回避できる気象・海象状況であったから,原因とするのは相当でない。
 なお,走錨を引き起こす限界風速を,下記計算式及び設定条件から求めると,20.7メートルとなったが,沖合からの波高が3メートルあり,そのほか底質などの条件を考慮すると限界風速値を下回る風速で走錨したと推認できる。
(1)最大把駐力は12.4トン
 Pm=Waλa+WcλcL
 L=Lc−S   
   
Pm 最大把駐力
Tx 水平圧力,Pm=Txとする
Wa 錨の重量3,180Kg
λa 錨の把駐係数3.5(砂),1.5(走錨中)
Wc 錨鎖の重量54.75Kg/m
λc 錨鎖の把駐係数0.75(砂)
L 海底に横たわった錨鎖の長さ
Lc 錨鎖の長さ162m(ベルマウスから錨まで)
S 錨鎖の海中でのカテナリ部分
Y 海底からベルマウスまでの長さ30.55m
Wc'  錨鎖の水中重量47.63kg/m
(2)限界風速は20.7メートル
 F=1/2PCrVa2(Acos2θ+Bsin2θ)
F 風圧力=最大把駐力とする
P 空気密度0.125kg・sec2/m4
Cr 風圧合力係数0.984
A 当時の喫水による正面投影面積366.0m2
B 当時の喫水による側面投影面積1,242.9m2
θ 船首尾線と風向のなす角度20度
Va  風速m/s

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,荒天が予想される状況下,石狩湾港港外に錨泊する際,錨泊方法が適切でなかったばかりか,錨泊後,守錨当直が不十分で,走錨に気付くことが遅れ,避難のため揚錨後,強風と高起した波浪の影響を受け,船体の前進力をほとんど得られないまま,北防波堤南西端に向けて圧流されたことによって発生したものである。
 守錨当直が十分でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,風速の具体的な数値を明示し,それを超えたら報告すること及び船位の確認を十分に行うことの申し送りの指示を行わなかったことと,船橋当直者が,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。

 よって主文のとおり裁決する。





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