(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月16日06時00分
青森県尻屋埼北方沖合
(北緯41度33.5分 東経141度32.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第8早取丸 |
漁船第8新宝丸 |
総トン数 |
14.98トン |
4.33トン |
全長 |
20.42メートル |
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登録長 |
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11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
(2)設備及び性能等
ア 第8早取丸
第8早取丸(以下「早取丸」という。)は,昭和53年11月に進水し,かけまわし式の小型機船底びき網漁業に従事する,ほぼ船体中央部に船橋がある鋼製漁船で,操舵室にはレーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機などが装備されていた。
イ 第8新宝丸
第8新宝丸(以下「新宝丸」という。)は,昭和55年11月に進水し,一本つり漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に長さ1.3メートル幅1.3メートル甲板上の高さ2.0メートルほどの操舵室があるFRP製漁船で,同室にはレーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機が装備されていた。操舵室外の同室後壁左舷寄り出入口付近に機関遠隔操縦装置が増設されており,操業時などに同付近甲板上に設置された踏み板に立ち,同装置を用いることによって操舵室外で操船することができるようになっていた。
3 事実の経過
早取丸は,A受審人,B指定海難関係人ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年3月16日04時30分青森県尻屋埼南東方沖合2海里ほどの錨地を発し,同埼北方沖合の漁場に向かった。
ところで,早取丸では,入出港操船及び漁場までの往復の船橋当直(以下「当直」という。)を主にA受審人が行い,漁場に至ってはB指定海難関係人が操業の指揮を執るとともに単独で当直を行っていた。
05時30分A受審人は,尻屋埼灯台北東8海里の漁場に至り,魚群探査を開始することとし,当直をB指定海難関係人に引き継ぐことにしたが,同人が甲板部航海当直部員の証印を受けた経験豊富な乗組員なので大丈夫と思い,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めたときは,直ちに停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示することなく,降橋して他の乗組員とともに操業時の甲板配置に就いた。
B指定海難関係人は,単独の当直に就き,05時54分尻屋埼灯台から027度(真方位,以下同じ。)8.5海里の地点に至り,1回目の操業を開始するため投たるを命じ,引綱を延出しながら,針路を300度に定め,折からの東南東の海潮流により2度右方に圧流され,6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,航行中の動力船が表示する灯火などのほか,トロールにより漁ろうに従事していることを示す形象物を表示し,遠隔操舵装置により進行した。
定針したとき,A受審人は,左舷船首68度1.0海里のところに北上中の新宝丸を視認し,その後自船の船体構造物などを利用して新宝丸の動静を監視していたところ,方位に明確な変化がなく,衝突のおそれがある態勢で接近していることを知り,後部甲板で同船に対する動静を監視し続けながら引綱の繰出し作業を行った。
05時58分B指定海難関係人は,尻屋埼灯台から024度8.5海里の地点に達し,5.0ノットの速力に減じて右方に2.5度圧流されるようになったとき,左舷船首73.5度0.3海里のところに新宝丸を視認し,その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近するので,同船に対して警告信号を行ったものの,漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近するのを認めたが,そのうち同信号に応えて自船の進路を避けてくれるものと思い,直ちに停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとらずに続航した。
A受審人は,自船の警告信号を聞くとともに,引き続き新宝丸の動静を監視していたところ,同船が自船の進路を避けず,また自船も衝突を避けるための協力動作をとらずに接近しているのを知ったが,そのうち新宝丸が同信号に応えて自船の進路を避けてくれるものと思い,依然としてB指定海難関係人に衝突を避けるための協力動作をとるよう指示することなく,後部甲板で引綱の繰出し作業を続けた。
06時00分少し前B指定海難関係人は,自船の進路を避けないまま間近に迫った新宝丸に衝突の危険を感じ,機関を停止とするとともに引綱の繰り出しを停止したが,及ばず,早取丸は,06時00分尻屋埼灯台から023度8.5海里の地点において,左転して280度を向首し,ほぼ行きあしがなくなったとき,その左舷後部に新宝丸の船首部が後方から88度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の西風が吹き,潮候はほぼ高潮時で,付近海域には1.5ノットの東南東流があり,日出時刻は05時44分で視界は良好であった。
また,新宝丸は,C受審人が1人で乗り組み,ます一本つり漁の目的で,船首0.7メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,同日04時48分青森県尻屋漁港を発し,尻屋埼北方10海里ばかりの漁場に向かった。
05時47分C受審人は,尻屋埼灯台から025度6.4海里の地点に達したとき,針路を008度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの東南東の海潮流により8.5度右方に圧流され,9.7ノットの速力で進行した。
定針後間もなく,C受審人は,前路に危険となる船舶を認めなかったことから,操舵室を離れ,同室後方の位置で遠隔操舵装置により操船するとともに漁具を取り出し,操業の準備作業を開始して続航した。
05時54分C受審人は,尻屋埼灯台から024度7.5海里の地点に至り,右舷船首44度1.0海里のところの早取丸を認め得ることができ,その後方位に明確な変化がなく,同船がトロールにより漁ろうに従事していることを示す形象物を表示し,船尾方海面のたるの存在や同船甲板上の作業の様子などから漁ろうに従事している船舶であることが分かる状況となり,早取丸と衝突のおそれがある態勢で接近したが,操業の準備作業に気を取られ,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,右転するなど,同船の進路を避けずに進行した。
05時58分C受審人は,尻屋埼灯台から023.5度8.2海里の地点に達し,早取丸が右舷船首38.5度560メートルまで接近したとき,同船が行った警告信号にも気付かず,早取丸の進路を避けずに続航中,新宝丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,早取丸は,左舷後部に擦過傷を生じ,新宝丸は,船首部を圧壊した。
(航法の適用)
本件衝突は,青森県尻屋埼北方沖合において,互いに他の船舶の視野の内にある,西行する早取丸と,北上する新宝丸とが,互いに針路を横切り衝突するおそれがある態勢で接近して衝突したものあるが,早取丸が漁ろうに従事する船舶が掲げる形象物を表示して底びき網漁を行っていたことから,海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 早取丸
(1)A受審人が,当直をB指定海難関係人に引き継ぐ際,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めたときは,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する新宝丸を認めたが,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 新宝丸
(1)C受審人が,操舵室を離れて同室後方の位置で操船に当たったこと
(2)操業の準備作業に気を取られ,見張りを十分に行わなかったこと
(3)早取丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は,早取丸が,衝突を避けるための協力動作をとっていれば,回避できたものと認められる。
したがってA受審人が,当直をB指定海難関係人に引き継ぐ際,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めたときは,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示しなかったこと及び同人が,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する新宝丸を認めた際,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
他方,新宝丸が,周囲の見張りを十分に行っていたなら,右舷船首方に早取丸がおり,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているとともに,漁ろうに従事している船舶であることが分かり,早取丸の進路を避けることができ,本件衝突は,回避できたものと認められる。
したがってC受審人が,操業の準備作業に気を取られ,見張りを十分に行っていなかったこと及び早取丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
C受審人が,新宝丸の操舵室を離れて同室後方の位置で操船に当たったことは,新宝丸の船体構造上,同位置において見張り及び操船が可能であったことから,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,青森県尻屋埼北方沖合において,漁場向け北上中の新宝丸が,見張り不十分で,前路で漁ろうに従事している早取丸の進路を避けなかったことによって発生したが,早取丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
早取丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直を甲板部航海当直部員の証印を受けた乗組員に引き継ぐ際,同人に対し,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めたときは,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示しなかったことと,甲板部航海当直部員の証印を受けた乗組員が,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めた際,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
1 懲戒
C受審人は,青森県尻屋埼北方沖合において,単独の航海当直に就き漁場向け北上する場合,前路の早取丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,操業の準備作業に気を取られ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漁ろうに従事している同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,早取丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き,早取丸の左舷後部に擦過傷を生じさせ,新宝丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,青森県尻屋埼北方沖合において,当直をB指定海難関係人に引き継ぐ場合,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する他船を認めたときは,直ちに停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示すべき注意義務があった。しかし,同受審人は,同指定海難関係人が甲板部航海当直部員の証印を受けた経験豊富な乗組員なので大丈夫と思い,衝突を避けるための協力動作をとるよう指示しなかった職務上の過失により,新宝丸との衝突を避けるための協力動作がとられずに進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
B指定海難関係人が,青森県尻屋埼北方沖合において,単独の当直に就き操業中,警告信号を行っても漁ろうに従事している自船の進路を避けずに衝突のおそれがある態勢のまま更に接近する新宝丸を認めた際,直ちに停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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