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平成16年函審第81号
件名

漁船第五十八利光丸モーターボートセンチュリー衝突事件
第二審請求者〔補佐人 a〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月25日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,弓田邦雄,堀川康基)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第五十八利光丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b
受審人
B 職名:センチュリー船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
c

損害
第五十八利光丸・・・ない
センチュリー・・・左舷船尾部を大破して転覆,船長が通院加療を要する左肋骨挫傷等,同乗者3人が通院加療を要する頚部捻挫,胸部打撲等の負傷,同乗者1人行方不明

原因
第五十八利光丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
センチュリー・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五十八利光丸が,見張り不十分で,漂泊中のセンチュリーを避けなかったことによって発生したが,センチュリーが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月18日14時30分
 北海道美国漁港北方沖合
 (北緯43度19.3分 東経140度36.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五十八利光丸 モーターボートセンチュリー
総トン数 19トン  
登録長 19.10メートル 6.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 529キロワット 58キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第五十八利光丸
 第五十八利光丸(以下「利光丸」という。)は,昭和59年3月に進水した,いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,操舵室中央に操舵スタンド,右舷側に主レーダー,左舷側に従レーダー各1基のほかGPSプロッター,魚群探知機,潮流計,汽笛などが装備されていた。
 また,利光丸は,操舵室中央の見張り位置から,両舷を除く前方の見通しが妨げられる状況だったので,同室天井が1段かさ上げされて見張り用の上部窓が前面及び側面に渡って増設されており,操船者は,普段から備えてある踏み台に上がって見張りを行っていた。
イ センチュリー
 センチュリー(以下「セ号」という。)は,平成10年4月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする最大搭載人員10人のFRP製プレジャーモーターボートで,船体中央部には操縦席が設置され,携帯用汽笛(エアーホーン)のほかGPSプロッター魚探などを装備していた。

3 事実の経過
 利光丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年7月18日14時10分北海道美国漁港を発し,同漁港北方沖合の漁場に向かった。
 14時25分A受審人は,美国港外防波堤灯台(以下「外防波堤灯台」という。)から351度(真方位,以下同じ。)850メートルの地点において,針路を同灯台の北方50海里ばかりの漁場である小樽堆近くに向く017度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行した。
 定針したとき,A受審人は,3海里レンジとしていた従レーダー及び目視により前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,間もなく床に座り込み,時折同レーダーに目配りしつつ,携帯電話で僚船と話をしながら続航した。
 14時27分A受審人は,外防波堤灯台から003度1,500メートルの地点に達したとき,左舷船首3度1,000メートルのところにセ号が存在し,やがて同船が漂泊していてこれに向首し,衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認め得る状況にあったが,瞥見していたレーダー画面上に他船の映像を認めないまま,依然,前路に他船はいないものと思い,踏み台に上がって上部窓から目視するなど,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,転舵するなどしてセ号を避けないまま進行した。
 こうして,A受審人は,14時30分外防波堤灯台から008度1.31海里の地点において,船首部に衝撃を感じ,利光丸は,原針路,原速力のまま,その船首がセ号の左舷船尾部に後方から72度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北西風が吹き,潮候は高潮時であった。
 また,セ号は,B受審人が1人で乗り組み,友人4人を同乗させ,かれい釣りの目的で,船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日08時20分係留地の美国漁港を発し,08時30分同漁港北東方1,500メートルばかりの釣場に至り,漂泊して釣りを始めた。
 発航に先立ち,同乗者3人が備え付けの救命胴衣を着用したが,B受審人と同乗者Cが着用しなかった。
 10時10分B受審人は,美国漁港北方1.7海里ばかりの釣場に移動し,風潮流によって南東方向に流されると潮上りをして釣りを続け,13時30分2回目の潮上りを終え,外防波堤灯台から353度1.7海里の地点で機関を停止し,船首から直径2.8メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入のうえ,トーイングロープ及び引揚げロープを船首クリートに係止し,同乗者を右舷船尾側に2人及び左舷船首側と船尾側に各1人をそれぞれ位置させ,自らは右舷船首側に位置し,各人がそれぞれ釣竿を振り出して3回目の漂泊を始めた。
 14時27分B受審人は,外防波堤灯台から007度1.33海里の地点で,折からの風潮流によって南東方向に約0.5ノットの速力で圧流されながら船首が315度に向いていたとき,左舷船尾59度1,000メートルのところに,北上中の利光丸を視認できる状況にあったが,かれいの釣果も良かったことから,竿先や手元に伝わる魚信に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,その後,利光丸が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま,注意喚起信号を行わず,さらに同船が接近しても,シーアンカーを解き放し,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないで漂泊を続けた。
 こうして,B受審人は,14時30分わずか前,船尾にいた友人からの知らせで後方を振り向き,船尾至近に迫った利光丸を初めて視認し,衝突の危険を感じて機関を後進にかけ右舵一杯としたが及ばず,船首が305度を向いたとき,セ号は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,利光丸には損傷がなかったが,セ号は左舷船尾部を大破して転覆した。
 また,B受審人が41日の通院加療を要する左肋骨挫傷等を,セ号同乗者D,同E及び同Fが通院加療を要する頚部捻挫,胸部打撲等をそれぞれ負い,C同乗者が行方不明となった。

(航法の適用)
 本件は,北海道美国漁港北方沖合において,漁場に向け北上中の利光丸とシーアンカーを投入して漂泊中のセ号とが衝突したもので,北上する利光丸は,船首方の見張りを十分に行っておれば,セ号が,南東方に圧流されながら漂泊中であることが分かる状況にあり,漂泊船と航行中の動力船との関係であるので,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務によって律することになる。

(本件発生に至る事由)
1 利光丸
(1)前路に他船はいないものと思ったこと
(2)床に座り込んで携帯電話で僚船と通話し,前路の見張りを十分に行わなかったこと
(3)漂泊中のセ号を避けなかったこと

2 セ号
(1)シーアンカーを投入していたこと
(2)竿先や手元に伝わる魚信に気をとられ,船尾方の見張りを十分に行わなかったこと
(3)注意喚起信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,漁場に向けて北上中の利光丸が,前路の他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行っていたなら,漂泊しているセ号を認識してこれを避航することが可能であり,本件は回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路に他船はいないものと思い,床に座り込んで携帯電話で僚船と通話し,前路の見張りを十分に行わず,漂泊中のセ号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 他方,漂泊中のセ号が,見張りを十分に行っておれば,自船に向首して避航する様子もなく接近する利光丸を認識し,注意喚起信号や衝突を避けるための措置をとり,本件は回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,竿先や手元に伝わる魚信に気を取られ,船尾方の見張りを十分に行わず,注意喚起信号も衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 セ号がシーアンカーを投入していたことは,避航動作を妨げることとなるが,固縛してあるロープを解き放つことも,切り放つこともできたのであるから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,北海道美国漁港北方沖合において,北上中の利光丸が,見張り不十分で,前路でシーアンカーを投入して漂泊中のセ号を避けなかったことによって発生したが,セ号が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,北海道美国漁港北方沖合を漁場に向け北上する場合,前路で漂泊中のセ号を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,床に座り込んでレーダーを瞥見しながら携帯電話で僚船と通話し,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中のセ号に気付かず,これを避けないまま進行して衝突を招き,セ号の左舷船尾部を大破して転覆させ,B受審人及びセ号同乗者3人を負傷させ,同1人を行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は,北海道美国漁港北方沖合において,漂泊して釣りをする場合,左舷後方から接近する利光丸を見落とすことのないよう,船尾方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,竿先や手元に伝わる魚信に気をとられ,船尾方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,利光丸の接近に気付かず,シーアンカーを解き放し,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷,負傷及び行方不明を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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