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平成17年函審第7号
件名

貨物船第十八明悦丸漁船第55末広丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志,西山烝一,堀川康基)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第十八明悦丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第十八明悦丸二等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
補佐人
a
指定海難関係人
C社 代表者:取締役 D 業種名:内航貨物運送業
E 職名:第55末広丸甲板員
補佐人
b,c,d,e
指定海難関係人
F 職名:第55末広丸甲板員

損害
第十八明悦丸・・・船首部に擦過傷
第55末広丸 ・・・左舷後部に破口を生じ浸水,沈没,船長死亡,甲板員3人が行方不明,甲板員1人が腰部打撲傷などの負傷

原因
第十八明悦丸・・・居眠り運航防止措置不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第55末広丸 ・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十八明悦丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切る第55末広丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第55末広丸が,船橋当直の維持が不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月6日00時38分
 北海道苫前港西方沖合
 (北緯44度20.0分 東経141度27.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十八明悦丸 漁船第55末広丸
総トン数 612トン 19トン
全長 77.30メートル  
登録長   18.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   190
(2)設備及び性能等
ア 第十八明悦丸(以下「明悦丸」という。)は,平成5年5月に進水し,船首にジブクレーンを備えた船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で,船橋楼の操舵室中央に操舵スタンド,左舷側にレーダー2台及びGPSプロッタ,右舷側に主機遠隔操縦装置が装備されていたが,レーダー1台は故障中であった。
イ 第55末広丸(以下「末広丸」という。)は,昭和59年11月に進水し,ほぼ船体中央部に船橋がある,えびかごはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で,船橋楼の操舵室中央に操舵スタンド,左舷側に主機遠隔操縦装置,右舷側にレーダー1台が装備され,同室後方に船長用寝台,無線機及びGPSプロッタなどが設置されていた。

3 北海道苫前港沖合海域の船舶交通状況
 苫前港と天売島及び焼尻島との間の海域は,野寒布岬沖合から北海道小樽港及び同留萌港に至る船舶の通航路となっており,また,付近海域が良い漁場となっていることから,苫前港周辺の漁港から沖合に出漁する漁船と前示船舶とが交差することとなるが,船舶交通量は少ない状況にあった。

4 事実の経過
 明悦丸は,A及びB両受審人並びに一等航海士としてD取締役ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首1.2メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,平成16年11月5日19時05分北海道石狩湾港を発し,同天塩港に向かった。
 ところで,明悦丸の運航形態は,主な航路が天塩港と石狩湾港との間で,専ら天塩港で砂の積荷役を1時間半ほど行い,9時間ばかりの航海を経て石狩湾港に入港し,揚荷役を2時間ほど行う運航を1箇月に18回か19回行うものであった。
 A受審人は,航海時間が9時間ほどであったことから,船橋当直(以下「当直」という。)を,機関長を除く4人のうち3人による単独3時間交替で行うこととし,19時30分石狩湾港北防波堤灯台を左舷に見て出航した地点で,昇橋してきた甲板員に当直を引き継いだが,その際,当直に就く乗組員に過労や体調不良などがなかったので大丈夫と思い,眠気を覚えた際はその旨を報告するなど,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示することなく降橋した。
 B受審人は,22時55分苫前埼灯台から215.5度(真方位,以下同じ。)24.1海里の地点で,昇橋して甲板員から単独の当直を引き継ぎ,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,針路を015度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.7ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,自動操舵により進行した。
 これより先,B受審人は,同月4日当直に就くことがなく,翌5日午前北海道羽幌港から同岩内港間及び同日午後岩内港から石狩湾港間の各航海にそれぞれ3時間の当直に就き,朝昼晩の食事準備に各30分ないし40分間ばかり従事したほか,岩内港及び石狩湾港の入出港作業に従事しており,本件当直前の24時間の労務が約10時間で,休息は14時間ほどあったことから,本件当直に就いたとき,さして疲労を覚える状態でなかった。
 D取締役は,C社の業務に関し,B受審人に司厨業務を担当させるとともに,同人の前示労務状況を知っていた。
 翌6日00時18分B受審人は,苫前埼灯台から254.5度9.8海里の地点に達したとき,右舷船首38.5度6.3海里に末広丸の掲げる白,紅2灯を初認したものの,一瞥して漁場向け西行中の速力の遅い漁船なので自船船尾方を替わるものと思って安堵し,このころ操舵室右舷側前部にあるいすに腰を下ろした姿勢で見張りに就いているうち,眠気を覚えるようになったが,眠気覚ましとなるようコーヒーを飲み,また左舷側のドアを開けて外気を入れ,更にラジオをかけていたので,しばらくしたら眠気が消えて覚醒するものと思い,いすから立ち上がるとともに,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航した。
 こうしてB受審人は,間もなく居眠りに陥り,00時31分半わずか過ぎ苫前埼灯台から271度8.7海里の地点に至り,末広丸が同方位2.0海里となり,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,居眠りに陥っていたので,このことに気付かず,右転するなど,末広丸の進路を避けずに進行した。
 明悦丸は,B受審人が居眠りに陥ったまま続航中,00時38分苫前埼灯台から280度8.5海里の地点において,原針路原速力のまま,その船首部が末広丸の左舷後部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南東風が吹き,潮候は高潮時にあたり,視界は良好であった。
 また,末広丸は,Gが船長として,E及びF両指定海難関係人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首0.75メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,同月5日23時53分苫前港を発し,同港西方30海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,この時期の末広丸の操業形態は,苫前港を04時ごろ出漁し,3時間ほどで漁場に到着して操業を行い,19時から20時ごろ入港して水揚げすることを繰り返すものであった。
 発航に当たり,G船長は,時化が予想されたので早めに出漁することとし,また漁場への往復の当直を,乗船したばかりで海事知識に乏しく,船舶運航の技量もない無資格のF指定海難関係人の能力などを考慮し,同人を除く甲板員による単独3時間の輪番制で行い,発航後の当直をE指定海難関係人に指名していた。
 離岸後,E指定海難関係人は,当直に就くためF指定海難関係人を伴って昇橋した。
 23時55分半G船長は,苫前埼灯台から007.5度0.7海里の地点で,苫前港北防波堤先端を航過して針路を275度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力で,航行中の動力船が表示する灯火を掲げ,レーダーを6海里レンジとして作動させ,自動操舵により進行した。
 翌6日00時05分G船長は,苫前埼灯台から295.5度2.0海里の地点に至り,当直をE指定海難関係人に引き継いだが,その際,同人が自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行うよう厳重に指示することなく,間もなく操舵室後方の寝台で休息した。
 E指定海難関係人は,当直を引き継いだが,周囲に他船を認めなかった及び何かあったら直ぐに報告を得ることができることから,漁場までの航程を二分し,前半を当直に指名されていないF指定海難関係人を単独の見張りに当たらせることとし,同人にその旨を申し出て,自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行うことなく,操舵室右舷側の配電盤に背をもたれた姿勢で床に腰を下ろし,間もなく居眠りを始めた。
 F指定海難関係人は,船に慣れるためE指定海難関係人に付いて昇橋し,左舷側のいすに腰を下ろしていたところ,E指定海難関係人から当直を二分し,前半を単独の見張りに当たるよう申し出があったが,船長から当直に指名されていなかったものの,当直者による当直の維持が十分に行われないことになる同申し出を断ることなく,いすに腰を下ろしたまま単独の見張りに当たり,自動操舵のまま続航した。
 00時25分F指定海難関係人は,苫前埼灯台から282度5.9海里の地点に達したとき,左舷船首41.5度4.1海里のところに明悦丸の掲げる白灯2個を認めたが,他の甲板員から左舷側を航行している船舶に対しては避航の必要がない旨を教えられていたので,そのことを当直者及び船長に報告することも,その後明悦丸に注意を払うこともなく進行した。
 00時31分半わずか過ぎF指定海難関係人は,苫前埼灯台から281度7.2海里の地点に至り,明悦丸が同方位2.0海里となり,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然として当直者及び船長に報告しないまま続航した。
 こうして末広丸は,G船長がE及びF両指定海難関係人から報告を受けないまま明悦丸に対する動静監視を行うことができず,同船に対して警告信号を行うことも,更に接近しても機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中,00時38分わずか前F指定海難関係人が左舷間近に迫った明悦丸に衝突の危険を感じ,いすから立ち上がってE指定海難関係人を起こすとともに自動操舵の針路設定つまみを右に押し回したが,効なく,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,明悦丸は,船首部に擦過傷を生じ,末広丸は,左舷後部に破口を生じて浸水し,間もなく浮力を喪失して沈没した。またG船長,甲板員H,同I及び同Jが行方不明となり,のちG船長は船内から遺体で発見され,海上に投げ出されたE及びF両指定海難関係人ほか2人が救助され,F指定海難関係人が腰部打撲傷などを負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,北海道苫前港西方沖合において,互いに他の船舶の視野の内にある,北上中の明悦丸と,西行中の末広丸とが,互いに針路を横切り衝突するおそれがある態勢であったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 明悦丸
(1)レーダー1台が故障していたこと
(2)A受審人が,当直者に対し,眠気を覚えた際はその旨を報告するなど,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示しなかったこと
(3)B受審人が,眠気を覚えた際,いすから立ち上がるとともに,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
(4)末広丸の進路を避けなかったこと

2 末広丸
(1)G船長が,当直者が自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行うよう厳重に指示しなかったこと
(2)E指定海難関係人が,自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行わなかったこと
(3)F指定海難関係人が,海事知識に乏しく,船舶運航の技量もない無資格の者であったこと
(4)F指定海難関係人が,当直者による当直の維持が十分に行われないことになるE指定海難関係人から単独の見張りに当たるよう申し出があった際,同申し出を断らなかったこと
(5)F指定海難関係人が,接近する明悦丸を認めた際,その旨を当直者及び船長に報告しなかったこと
(6)明悦丸に対して警告信号を行わなかったこと
(7)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,明悦丸が,居眠り運航の防止措置を十分にとっていたなら,末広丸に対する動静監視を行うことができ,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのが分かり,同船の進路を避けることにより,回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,当直者に対し,眠気を覚えた際はその旨を報告するなど,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示しなかったこと,B受審人が,眠気を覚えた際,いすから立ち上がるとともに,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと及び末広丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 明悦丸のレーダー1台が故障中であったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,他の1台が正常に使用できる状況にあったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から,整備担当者が故障したレーダーを早期に修理すべきである。
 他方,末広丸が,当直者による当直の維持を十分に行っていたなら,当直者が接近する明悦丸を認めることができ,その旨の報告を船長が受け,同船に対する動静監視を行うことも,警告信号を行い,また衝突を避けるための協力動作をとることも可能であり,本件衝突は回避できたものと認められる。
 したがって,G船長が,当直者が自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行うよう厳重に指示しなかったこと,E指定海難関係人が,自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行わなかったこと及びF指定海難関係人が,当直者による当直の維持が十分に行われないことになる同人から単独の見張りに当たるよう申し出があった際,同申し出を断らなかったこと並びに明悦丸に対して警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人が,海事知識に乏しく,船舶運航の技量もない無資格の者であったこと及び同人が接近する明悦丸を認めた際,その旨を当直者及び船長に報告しなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,G船長はF指定海難関係人の能力などを考慮し,同人に当直者が当直中に行うべき事項の実施を期待できず,あらかじめ同指定海難関係人を除く甲板員による単独の当直体制としていたのであるから,これらのことは,原因とならない。

(主張に対する判断)
 明悦丸において,当直中に居眠りに陥るような労務をB受審人に行わせたまま,本件時の当直に就かせたものであるから,A受審人が労務管理を適切に行わなかったこと,またC社が同人に対し,労務管理を適切に行うよう助言しなかったことも原因となるとの主張があるので,これらのことについて検討する。
 先ず,B受審人が当直に就く直前の休息状況は,乗組員の乗船のため石狩湾港に1時間ばかり寄港したことで,休息が中断され,連続した休息時間は3時間ないし4時間ばかりとなったが,本件当直前の24時間におけるB受審人の労務時間及び休息時間をみると,5日01時から04時及び13時から16時の各当直にそれぞれ3時間,食事の準備作業に朝昼晩各30分ないし40分間,岩内港及び石狩湾港への入出港時作業に各30分間ほど従事したとしても,労務時間が合計9時間30分ないし10時間ばかりであったことになり,休息時間は14時間ほどあったことになる。また,同人の当廷における,「食事の準備を担当していたが,本件時,そのことが過労となったわけでもない。4日は当直に入っていない。」旨の供述もあり,B受審人の労務が強いて過労であったとまでは言えない。
 したがって,A受審人が労務管理を適切に行わなかった,またC社が同人に対し,労務管理を適切に行うよう助言しなかったとした前述の主張をとることはできない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,北海道苫前港西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する明悦丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切る末広丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する末広丸が,当直の維持が不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 明悦丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対し,眠気を覚えた際は報告するなど,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示しなかったことと,当直者が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。
 末広丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対し,当直者が自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行うよう厳重に指示しなかったことと,当直者が,自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行わなかったことと,船長から当直に指名されていない無資格の者が,当直者による当直の維持が十分に行われないことになる同人から単独の見張りに当たるよう申し出があった際,同申し出を断らなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 B受審人は,夜間,北海道苫前港西方沖合において,北上中,いすに腰を下ろした姿勢で単独の当直に就き,眠気を覚えた場合,いすから立ち上がるとともにその旨を船長に報告し,2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,眠気覚ましとなるようコーヒーを飲み,また左舷側のドアを開けて外気を入れ,更にラジオをかけていたので,しばらくしたら眠気が消えて覚醒するものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いすに腰を下ろしたまま居眠りに陥り,末広丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して末広丸との衝突を招き,明悦丸の船首部に擦過傷を生じさせ,末広丸の左舷後部に破口を生じさせて浸水により沈没させ,G船長を溺死させたほか,甲板員3人を行方不明とし,F指定海難関係人に腰部打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 A受審人は,夜間,北海道石狩湾港を出航したのち,甲板員に当直を引き継ぐ場合,眠気を覚えた際は報告するなど,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示すべき注意義務があった。しかし,同受審人は,当直に就く乗組員に過労や体調不良などがなかったので大丈夫と思い,居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示しなかった職務上の過失により,当直者が居眠りに陥り,末広丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して末広丸との衝突を招き,前示の損傷及び死傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 E指定海難関係人が,夜間,当直に当たって漁場向け西行する際,船長から当直に指名されていない無資格の者を見張りに当たらせ,自ら見張りに就いて当直の維持を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 E指定海難関係人に対しては,その後反省している点に徴し,勧告しない。
 F指定海難関係人が,夜間,漁場向け西行中,当直者による当直の維持が十分に行われないことになる同人から単独の見張りに当たるよう申し出があった際,同申し出を断らなかったことは,本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人に対しては,その後反省している点に徴し,勧告しない。
 C社の所為は,原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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