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平成17年長審第14号
件名

漁船第二かづ丸漁船鹿島丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第二かづ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:鹿島丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二かづ丸・・・左舷船首外板に小亀裂
鹿島丸・・・右舷船首防舷材損傷,右舷船首外板に亀裂,船長が頚椎捻挫の負傷

原因
第二かづ丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
鹿島丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第二かづ丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事している鹿島丸の進路を避けなかったことによって発生したが,鹿島丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月18日12時00分
 長崎県野母埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二かづ丸 漁船鹿島丸
総トン数 12トン 5.3トン
全長 19.30メートル 14.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 356キロワット 279キロワット

3 事実の経過
 第二かづ丸(以下「かづ丸」という。)は,船体中央部よりやや後方に操舵室を有するFRP製漁船で,A受審人(昭和56年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が同人の兄と2人で乗り組み,ふぐかご漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年9月18日02時30分熊本県牛深漁港を発し,長崎県野母埼南西方約12海里の漁場に向かった。
 A受審人は,04時30分漁場に到着して操業に従事し,ふぐ200キログラムを獲て操業を打ち切り,係船地に向けて帰航しようとしたものの,南寄りの強風で,海上が時化模様であったことから,一旦,東行して熊本県天草下島西岸沿いを南下することとし,11時30分樺島灯台から231度(真方位,以下同じ。)12.0海里の地点において,針路を082度に定め,機関を半速力前進にかけ,12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,舵輪の左舷側後方に置かれた椅子に腰を掛けて自動操舵により進行した。
 11時50分A受審人は,樺島灯台から217.5度8.8海里の地点に達して,右舷船首から時々波が甲板上に打ち上がり,操舵室の窓に右舷前方から波しぶきを受ける状況のもと,椅子から立ち上がって操舵室前面中央にある旋回窓から前方を一瞥したところ,他船が見当たらなかったので,左舷側を向いた姿勢で再び椅子に腰を掛けて続航した。
 11時55分少し過ぎA受審人は,左舷船首約3度1.0海里のところに,漁ろうに従事している船舶が表示する形象物(以下「鼓形形象物」という。)を掲げていない鹿島丸が存在したが,前路の見張りを十分に行っていなかったので,鹿島丸の存在にも,その後,同船のコンパス方位に明確な変化がなく互いに衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず進行した。
 11時57分少し過ぎA受審人は,樺島灯台から210.5度7.9海里の地点に達したとき,依然方位に変化なく約1,000メートルのところに接近した鹿島丸が,ゆっくりとした速力で南方に進行している状況や船体中央部に乗組員がいて何か作業に当たっている様子から鼓形形象物を掲げていないものの,同船が漁ろうに従事していることが分かる状況となったが,数分前に立ち上がって前方を見たとき,他船が見当たらなかったこともあって,前路に他船はないものと思い,依然として前路の見張りを十分に行うことなく,鹿島丸の存在に気付かず続航した。
 こうして,A受審人は,右転するなど,漁ろうに従事している鹿島丸の進路を避ける措置をとらないまま進行中,12時00分かづ丸は,樺島灯台から207度7.6海里の地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首が,鹿島丸の右舷船首に後方から76度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で,風力5の南南東風が吹き,視界は良好であった。
 また,鹿島丸は,船体中央部よりやや後方に操舵室を設け,有効な音響信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で,B受審人(昭和50年7月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み,鯛はえ縄漁の目的で,船首0.65メートル船尾1.30メートルの喫水をもって,同日01時00分長崎県茂木港を発し,野母埼南方5海里付近の漁場に向かった。
 ところで,鹿島丸の操業方法は,直径1ミリメートル長さ約3,000メートルの化学繊維製幹縄に450本の枝針を取り付けたものを1桶と称し,6桶を繋げて長さ約18キロメートルとしたはえ縄仕掛けを使用し,1桶ごとに浮きを取り付け,両端の浮きに標識を立てた漁具を約2時間30分かけて海底に投縄し,1桶を約1時間30分,全てを約9時間かけて揚縄するものであった。また,幹縄の揚収時は,縄が揚がってくる状況に合わせて船体を進めるので,揚がってくる縄の状況を監視しながら速力を調整してゆっくりと進行しなければならなかった。
 B受審人は,02時00分樺島灯台から207度4.9海里の地点に到着して南西方向に向かって投縄作業を開始し,04時30分樺島灯台から207度12.0海里の地点に達して同作業を終了したのち,06時15分から投縄開始地点に向けて揚縄作業を開始したところ,2桶目で幹縄が切れたので投網開始地点から揚縄することとし,09時00分前示投縄開始地点に戻り,揚縄作業を開始した。
 B受審人は,船体中央部右舷側に設置されているラインホーラーの後方で椅子に座って右舷船首方を向き,鼓形形象物を掲げないまま,船首を風上に向く158度とし,遠隔操縦装置により舵と機関を操作し,機関を毎分約700回転にしたり,停止回転にしたりして行きあしを調整しながら207度の方向に約0.9ノットの平均速力でゆっくりと進行した。
 11時55分少し過ぎB受審人は,右舷船尾約79度1.0海里のところに,東行する態勢で接近するかづ丸を視認でき,同船の存在と同船が航行中の動力船であることが分かる状況となったものの,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,かづ丸の存在にも,その後,同船のコンパス方位に明確な変化がなく互いに衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず続航した。
 11時57分少し過ぎB受審人は,樺島灯台から207度7.55海里の地点に達したとき,依然方位に変化なく約1,000メートルのところに接近したかづ丸が,自船にほぼ向首したまま接近してくるのを視認できる状況となったが,揚縄作業に気を取られ,依然として周囲の見張りを十分に行うことなく,かづ丸の存在にも,また,その後同船が自船の進路を避けないまま接近していることにも気付かず,幹縄の揚収を続けながら進行した。
 こうして,B受審人は,かづ丸が避航しないまま間近に接近したが,行きあしを止めるなど,かづ丸との衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中,12時00分わずか前右舷船尾方至近に迫った同船を初めて認め,機関を後進にかけたが及ばず,鹿島丸は,船首が158度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,かづ丸は,左舷船首外板に小亀裂を,鹿島丸は,右舷船首防舷材に損傷及び右舷船首外板に亀裂をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理され,B受審人が頚椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は,長崎県野母埼南方沖合において,漁場から帰航中のかづ丸が,見張り不十分で,前路で漁ろうに従事している鹿島丸の進路を避けなかったことによって発生したが,鹿島丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県野母埼南方沖合において,漁場から帰航する場合,前路で漁ろうに従事している鹿島丸を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,鹿島丸の存在と接近に気付かず,右転するなど,同船の進路を避ける措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,自船の左舷船首外板に小亀裂を,鹿島丸の右舷船首防舷材に損傷及び右舷船首外板に亀裂をそれぞれ生じさせ,B受審人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,長崎県野母埼南方沖合において,漁ろうに従事する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,揚縄作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,かづ丸が自船の進路を避けないまま接近していることに気付かず,行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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