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平成16年長審第55号
件名

漁船第二共栄丸漁船第二ゑびす丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三,山本哲也,稲木秀邦)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第二共栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二ゑびす丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二共栄丸・・・船首部に擦過傷
第二ゑびす丸・・・左舷側後部及び船外機に損傷,同乗者1人が打撲傷

原因
第二ゑびす丸・・・灯火不表示,狭い水道等の航法(右側航行,衝突回避措置)不遵守(主因)
第二共栄丸・・・灯火表示不適切,見張り不十分,狭い水道等の航法(右側航行,衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二ゑびす丸が,法定灯火を表示しなかったばかりか,狭い水路の右側端に寄って航行せず,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,第二共栄丸が,見張りを妨げる灯火を表示したまま,狭い水路の右側端に寄って航行せず,かつ,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月25日05時55分
 熊本県四番漁港沖合
 (北緯32度45.1分 東経130度35.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二共栄丸 漁船第二ゑびす丸
総トン数 4.8トン 1.4トン
全長 13.28メートル 9.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30
(2)設備及び性能等
ア 第二共栄丸
 第二共栄丸(以下「共栄丸」という。)は,平成8年12月に進水した採介藻漁業に従事するFRP製漁船で,船体前部に主甲板を設け,その後部が船尾楼甲板となっており,同甲板上中央部に操舵室があって同室前部両舷にそれぞれ主甲板から舷側を照らす作業灯2個を備え,操舵室の後方にオーニングが設けられた船尾甲板があり,オーニングの後部上方には白色全周灯が備え付けられていた。
 操舵室は,前部ガラス窓にワイパーが取り付けられ,その手前の棚には,右舷側にレーダー,左舷側にGPS及び中央に機関操縦装置を備え,棚の下右舷側に舵輪があってその後方にいすを備え付け,同室右舷側囲壁には,舵とプロペラシャフト昇降用の各油圧操作ボタンが取り付けられていた。
 操舵室の天井には,中央部右舷側に天窓があって,前部両舷にサーチライトの向きを手動で操作するレバーが取り付けられ,同室の屋根には,前部両舷にサーチライト,中央部に両色灯及び後部中央にレーダースキャナーが備え付けられていた。
イ 第二ゑびす丸
 第二ゑびす丸(以下「ゑびす丸」という。)は,昭和63年7月に進水した主として採介藻漁業に従事する,法定灯火設備のない和船型FRP製漁船で,甲板の周囲にブルワークを巡らせ,船尾部にステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)が付いた船外機を装備し,その前部両舷甲板下にさぶたをかぶせた物入れが設けられ,物入れの前部には,両舷に板を渡したベンチが取り付けられてその右舷側前部ブルワークに機関回転数操作レバーが備え付けられていた。

3 熊本県四番漁港の状況等
(1)四番漁港
 四番漁港は,熊本市を東西に流れる除川の河口に設けられ,主として海苔養殖漁業に従事する漁船を対象とした熊本港南部に位置する漁港で,同漁港西方沖合の島原湾に面した出入口の北側に北護岸防波堤,南側に南護岸防波堤を設けて両防波堤の先端部にそれぞれ夜間,緑灯及び紅灯が点滅する航路標識が設置されていた。
(2)出入航水路
 四番漁港沖合は,低潮時には約1海里にわたって干出するものの,除川の河川流によって防波堤出入口から247度(真方位,以下同じ。)方向に約470メートルの地点及び同地点から262度方向沖合にまで,幅約50メートル,最深部の水深が最低水面下約50センチメートル(以下「センチ」という。)の川筋が延び,四番漁港に出入航する各種漁船が航行する狭い水路となっていた。
(3)潜堤
 水路の北側には,上げ潮時,付近の海域をほぼ東方に流れる潮流によって土砂が水路に堆積するのを防ぐため,北護岸防波堤の南端から水路に沿って247度方向に約470メートルの地点まで,その後徐々に北方に屈曲して同地点から271度方向約130メートルの地点にまで石が積まれ,潮高が約1メートルを越えると沖合部分が水没する潜堤が構築され,潜堤上には,その西端から北護岸防波堤付近までほぼ等間隔に電柱が11本立てられ,夜間,同防波堤から2,4,6及び8本目の電柱には白色照明灯が,西端部の電柱には黄色照明灯が点灯するようになっていた。
(4)水路の状況
 水路の最深部は,潜堤の南側約20メートルのところにあって中央より少し北側に偏しており,潮高約110センチのときには,共栄丸程度の大きさの船舶は,推進力と舵効が得られる深さまでプロペラ軸及び舵を上方に上げた状態で,潜堤からの距離が約5ないし30メートルの幅約25メートルの海域のみが航行可能であったが,ゑびす丸は,船外機のプロペラを上方に上げた状態で潜堤からの距離が約50メートルの海域まで航行可能であった。
(5)海苔養殖棚の設置状況
 水路の南北両側及び西方沖合には,有区第18ないし22号と称する海苔養殖区画が設定され,各区画には,長辺及び短辺がそれぞれ42及び21メートルの海苔養殖棚が南北及び東西にそれぞれ28及び21メートルの間隔を置いて隣接した状態で多数設置され,各養殖棚間の海域は,作業船などが東西及び南北方向に航行可能な通称「船通し」となっていた。
 水路の南側に設けられた有区19号には,北護岸防波堤南端から230度約1,300メートルの地点をほぼ中心とする東西約1,800メートル南北約900メートルの範囲に約350個の養殖棚が8区域に分割されて設置されていた。

4 事実の経過
 共栄丸は,A受審人が甲板員2人と乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成15年11月25日05時40分四番漁港の係船地を発し,沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,白色全周灯を点灯しないまま,両色灯を掲げ,作業灯2個及び右舷サーチライトを点灯し,折から大潮の上げ潮の初期であったので,プロペラ及び舵の下端がそれぞれ船尾船底から30センチの深さになるまで引き上げた状態で離岸し,甲板員を前部及び船尾甲板でそれぞれ待機させ,自らは舵輪後方のいすに腰を掛けて単独で操舵操船に当たり,防波堤出入口に向けて進行した。
 05時45分半A受審人は,四番漁港三角点(4.8メートル)(以下「三角点」という。)から212度280メートルの地点に達して北護岸防波堤の南端を右舷側に約20メートル離して通過したとき,針路を潜堤に沿う247度に定め,機関を回転数600の極微速力前進にかけ,2.8キロメートル(毎時キロメートル,以下同じ。)の対地速力(以下,速力については対地速力を示す。)で,狭い水路の右側端に寄ることなく,平素のように,東行して来る他船があれば水路の右側に寄ることにして,水路のほぼ中央に当たる最深部を沖合に向けて西行した。
 定針したのち,A受審人は,夜間,法定灯火設備のない作業船などが水路を航行することがあることを知っていたものの,他船が自船を視認しやすいと思って,見張りの妨げとなる操舵室前部両舷の作業灯を点灯したまま,プロペラが海底に接触するようであれば直ちに引き上げることにしてその回転状況を感知することに気を奪われ,その後,作動中のレーダーで前方の見張りを十分に行わないで,サーチライトを右舷側に向けて潜堤との距離を一定に保ちながら,折から前方を先航する僚船(以下「第三船」という。)の約20メートル後方を進行した。
 05時49分半A受審人は,三角点から227度460メートルの地点に達したとき,左舷船首7.5度600メートルのところに,法定灯火を表示しないで,携帯電灯のみを点灯して北上するゑびす丸が存在したが,同電灯が自船に向けられていなかったことから,これに気付かないまま水路のほぼ中央を続航した。
 05時54分A受審人は,三角点から233度650メートルの地点に達したとき,船首方110メートルのところで,ゑびす丸の携帯電灯が自船に向けられたが,前路には先航する第三船のほかに他船はないものと思い,作業灯を消灯して前方の見張りを十分に行うことなく,明るい同灯火に見張りを妨げられてゑびす丸の存在に気付かないまま進行中,同時55分少し前第三船が針路を右に転じたのを認めて同船と並航することにし,左舵をとって機関回転数を少し上げた直後,突然衝撃を感じ,05時55分共栄丸は,三角点から234度700メートルの地点において,ほぼ原速力のまま,232度を向いたその左舷船首部が,ゑびす丸の左舷側後部に前方から15度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,付近の潮高は約110センチであった。
 また,ゑびす丸は,B受審人が1人で乗り組み,友人5人を同乗させ,貝採取の目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,船尾に長さ,幅及び深さがそれぞれ約2,1及び0.5メートルの箱舟を引き,同日00時30分四番漁港の係船地を発して沖合に向かった。
 B受審人は,法定灯火設備のないゑびす丸を,夜間,運航することができないことを承知していたものの,友人から有区第19号の区画内で貝採取をしようと誘われ,潮高が最低水面以下となる大潮の低潮時が夜間であったことから,貝採取時の照明に使用するガスランプなどの明かりを点灯すれば大丈夫と思い,出航したものであった。
 B受審人は,00時40分三角点から225度1,260メートルの地点に当たる有区第19号の区画内に到着して干潮時を待ったのち,03時から04時半ごろまで海苔養殖棚間の船通しで貝採取を行い,貝約60キログラムを獲て,これを箱舟に載せて上げ潮を待ち,やがて,潮が上げて水深約50センチの航行可能な状況となったので,05時45分前示貝採取地点を発し,船外機のプロペラを船底近くまで上げた状態で箱舟を引き,係船地に向けて帰途に就いた。
 発航するとき,B受審人は,自身や同乗者4人が持参したガスランプの燃料を使い切ってしまっていたものの,他の同乗者が持っていた携帯電灯が点灯可能な状態であったので,同人を船首に配置して前方を照らすように指示し,自らは船尾右舷側に置いたプラスチック製の箱に腰をかけて左手で船外機のハンドルを握り,右手で機関を操作しながら船通しを北上したのち,05時47分半三角点から231.5度1,160メートルの地点に達して海苔養殖棚の北側に出たとき,針路を潜堤西端の黄色照明灯に向首するよう030度に定め,機関を極微速力前進にかけ,3.9キロメートルの速力で進行した。
 ところで,同乗者が持参した携帯電灯は,単一乾電池6個を電源とする局所照明用の器具であることから,光線が直接向けられているときは視認距離2海里の白色全周灯と同程度以上の明るさがあるが,光線から外れるにつれて照度が著しく低下して見え難くなるものであった。
 05時49分半B受審人は,三角点から234度1,050メートルの地点に達したとき,右舷船首29.5度600メートルのところに,狭い水路を西行して来る共栄丸と第三船が存在したが,このことに気付かないまま続航した。
 05時51分少し過ぎB受審人は,三角点から237度930メートルの地点に当たる狭い水路の南側に達したとき,防波堤出入口の緑,紅両標識灯間に向首するよう針路を067度に転じ,狭い水路の右側端に寄ることなく,平素のように,最深部を航行して西行して来る他船があれば右側に寄ることにし,同乗者に携帯電灯を左舷側の潜堤の方向に向けるよう指示して水路のほぼ中央を東行した。
 05時54分B受審人は,三角点から235度760メートルの地点に達したとき,船首方110メートルのところに,明るい灯火を点灯した共栄丸と第三船を初認したが,一見したのみで両船と互いに左舷を対して航過できるものと思い,衝突を回避できるよう,狭い水路の右側端に寄ることなく,同乗者に携帯電灯を両船の方向に向けて振るように指示して進行した。
 こうして,B受審人は,狭い水路のほぼ中央を続航中,05時55分少し前船首方間近に接近した第三船が,突然,サーチライトを自船に向けて照射しながら右転したその後方に,自船に向首する態勢で至近に迫った共栄丸を認めたが,何をする間もなく,ゑびす丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,共栄丸は,船首部に擦過傷を生じ,ゑびす丸は,左舷側後部及び船外機にそれぞれ損傷を生じ,ゑびす丸の同乗者1人が打撲傷を負った。

(航法の適用)
 四番漁港は,港則法が適用される熊本港の港域内にあるが,同港には「命令の定める航路」が設けられていないことから,同法における航路及び航法規定の適用はない。
 一方,出入航水路は,幅が約50メートルであることから,海上衝突予防法第9条に規定される狭い水道に該当する。よって,当該水道をこれに沿って航行する船舶は,安全であり,かつ,実行に適する限り,狭い水道の右側端に寄って航行しなければならない。
 また,四番漁港防波堤出入口には,夜間,緑灯及び紅灯が点滅する航路標識が設置され,出入航水路の北側に構築された潜堤上には,ほぼ一定の間隔で電柱が設けられて夜間には白色照明灯及び黄色照明灯が点灯していることから,夜間,共栄丸及びゑびす丸の両船が,それぞれ右側端航行の義務を果たすことが可能であったものと認められる。
 したがって,本件は,海上衝突予防法第9条によって律するのが相当である。
 また,海上衝突予防法第20条の法定灯火表示義務及び見張りを妨げる灯火の不表示義務は,それぞれ常に遵守されなければならず,さらに,同法第38条に規定される切迫した危険がある特殊な状況においては,この危険を回避する措置をとる必要があり,これらを怠れば,同法第39条の規定により責任を免れることはできない。

(本件発生に至る事由)
1 共栄丸
(1)平素から,夜間,白色全周灯を表示せず,作業灯を点灯して航行していたこと
(2)平素から,水路のほぼ中央を航行していたこと
(3)レーダーによる見張りを行っていなかったこと
(4)作業灯の明るい灯火が見張りの妨げとなっていたこと
(5)狭い水路の右側端に寄って航行しなかったこと
(6)前路には第三船のほかに他船はないものと思って,作業灯を消灯して前方の見張りを十分に行わなかったこと
(7)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 ゑびす丸
(1)法定灯火設備がなかったこと
(2)当時,大潮で,潮高が最低水面以下となる低潮時が夜間であったこと
(3)ガスランプなどの明かりを点灯すれば大丈夫と思って,法定灯火を表示しないまま,夜間,出航したこと
(4)平素から,水路のほぼ中央を航行していたこと
(5)狭い水路の右側端に寄って航行しなかったこと
(6)共栄丸及び第三船と互いに左舷を対して航過できるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,夜間,四番漁港沖合の狭い水路において,ほぼ中央を西行中の共栄丸と,同じく,ほぼ中央を東行中のゑびす丸とが衝突した事件であり,両船がそれぞれ同水路の右側端に寄って航行していれば,互いに左舷を対して無難に航過することが可能であったと認められる。
 共栄丸が,見張りを妨げる灯火を点灯したまま航行したことは,運航上の危険に配慮した見張りが不十分となった事実と密接な関係があり,また,法定灯火設備のないゑびす丸が,夜間,携帯電灯を掲げたのみで航行したことは,他船が,通常の注意をもってゑびす丸の存在及び態勢を認識することが困難であったことは明らかである。
 さらに,共栄丸の船長が,作業灯を消灯して前方の見張りを十分に行い,自船に向けられたゑびす丸の携帯電灯を視認して同船の存在を知り,水路の右側端に寄る措置をとることによって,また,ゑびす丸の船長が,船首方から西行して来る明るい灯火を点灯した共栄丸と第三船を視認した際,水路の右側端に寄る措置をとることによって,それぞれ,本件の発生を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りの妨げとなる灯火を点灯したまま航行したこと,水路の右側端に寄って航行しなかったこと,前路には第三船のほかに他船はないものと思って,前方の見張りを十分に行わなかったこと,衝突を避けるための措置をとらなかったこと,B受審人が,夜間,ガスランプなどの明かりを点灯すれば大丈夫と思って,ゑびす丸に法定灯火を表示しないまま出航したこと,水路の右側端に寄って航行しなかったこと,共栄丸及び第三船と互いに左舷を対して航過できるものと思って,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,白色全周灯を表示していなかったこと,平素,水路のほぼ中央を航行していたこと,レーダーによる見張りを行っていなかったこと,B受審人が,平素,水路のほぼ中央を航行していたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件結果と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 当時,大潮で,潮高が最低水面以下となる低潮時が夜間であったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,熊本県四番漁港沖合の狭い水路において,係船地に向けて東行中のゑびす丸が,法定灯火を表示しなかったばかりか,狭い水路の右側端に寄って航行せず,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,沖合の漁場に向けて西行中の共栄丸が,見張りを妨げる灯火を表示したまま,狭い水路の右側端に寄って航行せず,かつ,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,法定灯火不表示のまま携帯電灯のみを掲げ,熊本県四番漁港沖合の狭い水路を係船地に向けて東行中,西行して来る他船を認めた場合,他船が自船の存在に気付かないおそれがあったのだから,衝突を回避できるよう,狭い水路の右側端に寄るべき注意義務があった。しかしながら,同人は,他船と互いに左舷を対して無難に航過できるものと思い,右側端に寄らなかった職務上の過失により,そのまま進行して共栄丸との衝突を招き,共栄丸の船首部に擦過傷を生じさせ,ゑびす丸の左舷側後部及び船外機にそれぞれ損傷を生じさせ,ゑびす丸の同乗者1人に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,熊本県四番漁港沖合の狭い水路を沖合の漁場に向けて西行する場合,法定灯火設備のない船舶が同水路を航行することがあることを知っていたのだから,他船を見落とすことのないよう,見張りの妨げとなる操舵室前部の作業灯を消灯して前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路には先航する第三船のほかに他船はないものと思い,作業灯を点灯したまま航行して前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ゑびす丸の存在に気付かず,狭い水路の右側端に寄って衝突を回避する措置をとらないまま進行してゑびす丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,ゑびす丸の同乗者1人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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