日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年長審第21号
件名

遊漁船豊信丸遊漁船タイコウ衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月14日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:豊信丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:タイコウ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
豊信丸・・・船首外板に亀裂及び擦過傷,観光客及びガイド9人がそれぞれ頚部鞭打ち症,打撲傷などの負傷
タイコウ・・・船尾左舷側を大破,船尾マスト折損などの損傷,船長が頚椎捻挫,左膝打撲傷の負傷

原因
豊信丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
タイコウ・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,豊信丸が,見張り不十分で,停留中のタイコウを避けなかったことによって発生したが,タイコウが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月17日11時30分
 早崎瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船豊信丸 遊漁船タイコウ
総トン数 3.6トン  
登録長 9.34メートル 9.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 106キロワット 253キロワット

3 事実の経過
 豊信丸は,船体後部甲板上に船室と操舵室があって,船首楼と船室の間に前部甲板,操舵室の後方に船尾甲板を設け,魚群探知機を備えたFRP製遊漁船で,A受審人(昭和51年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,高校生の観光客7人及びガイド2人を乗せ,いるかウォッチングの目的で,船首0.41メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,平成16年11月17日10時30分長崎県口之津港を発して沖合の早崎瀬戸に向かった。そして,同時50分熊本県天草下島北岸にある二江漁港沖合の海域に到着し,機関を微速力前進としているかウォッチングを行ったのち,11時19分わずか過ぎ針路を口之津港沖合に向く053度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を全速力前進に増速して瀬詰埼灯台から216.5度2.4海里の地点を発進し,16.0ノットの速力で,帰途に就いた。
 ところで,豊信丸の前部甲板には,船体中央部上方に船首尾線方向の梁を渡して両舷船幅の範囲まで山形のオーニングを設け,その前部に風除けのビニールシートが取り付けられて操舵室中央の操舵位置から前方を見通すことができない状況であったので,A受審人は,平素,操舵室に置いたいすの上に立って同室の屋根に設けられた天窓から顔を出し,足で操舵するようにしていたものの,全速力で航行すると船首部が少し浮上してオーニングの中央部が水平線の上方に位置するようになり,船首方に死角を生じるので,時折,船首を左右に振って死角を補う見張りをしていた。
 発航したとき,A受審人は,前方の海域を見張ったところ,左右各舷前方にそれぞれ1隻の釣り船を視認したものの,船首方に他船が見当たらなかったので,前路には航行の支障となる他船はないと思って,その後,観光客3人を船首楼,4人を前部甲板及びガイド2人を船尾甲板でそれぞれ休息させ,自らは操舵室の天窓から顔を出して操舵操船に当たり,早崎瀬戸を口之津港に向けて進行した。
 11時26分少し過ぎA受審人は,瀬詰埼灯台から173度0.8海里の地点に達したとき,正船首方1.0海里のところに,船尾にスパンカを展帆し,右舷側を見せて停留するタイコウが存在したが,発航したとき船首方に他船が見当たらなかったこともあって,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,その後,船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,タイコウが存在することも,同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
 こうして,豊信丸は,A受審人が,右転するなど,タイコウを避けないで続航中,11時30分瀬詰埼灯台から104度0.9海里の地点において,原針路及び原速力のまま,その船首が,タイコウの船尾左舷側に,後方から27度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,タイコウは,船体中央部に操舵室を設け,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製遊漁船で,B受審人(平成10年11月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,翌日及び翌々日に予約を受けた遊漁に備えて試し釣りを行う目的で,船首0.34メートル船尾1.53メートルの喫水をもって,同日06時30分熊本県天草上島にある合津港の係船地を発し,同時50分瀬詰埼灯台から102度5.5海里の地点に到着して付近の海域で釣りを行ったのち,11時25分前示衝突地点に移動して船尾マストにスパンカを展帆し,マスト頂部に黄色回転灯を点灯して機関を中立運転とし,停留して釣りを始めた。
 11時26分少し過ぎB受審人は,折からの東風を受けて船首が080度を向いた状態で,操舵室後方にある船尾甲板右舷側に右舷方を向いて立ち,右舷側にさおを出して釣りをしていたとき,右舷船尾27度1.0海里のところに,自船に向首する態勢の豊信丸が存在したが,平素,停留して魚釣り中の自船を航行船が避けてくれていたこともあって,航行船が自船のスパンカと黄色回転灯を視認して避航してくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,豊信丸が存在することも,その後,同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
 こうして,B受審人は,機関を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないまま停留して魚釣り中,11時30分わずか前女性の叫び声を聞いて右舷船尾方を見たとき,自船に向首したまま至近に迫った豊信丸を認めて驚き,さおを手放してその場にしゃがみ込んだ直後,タイコウは,船首が080度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,豊信丸は,船首外板に亀裂及び擦過傷を生じ,タイコウは,船尾左舷側を大破して船尾マストに折損などを生じたほか,豊信丸の観光客及びガイド9人がそれぞれ頚部鞭打ち症,打撲傷などを,B受審人が頚椎捻挫,左膝打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は,早崎瀬戸において,いるかウォッチングを終えて長崎県口之津港に向けて帰航中の豊信丸が,見張り不十分で,前路で停留中のタイコウを避けなかったことによって発生したが,タイコウが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,早崎瀬戸において,いるかウォッチングを終えて長崎県口之津港に向けて帰航する場合,前部甲板に設けた山形のオーニングの中央部が水平線の上方に位置して船首方に死角を生じていたのだから,前路で停留中のタイコウを見落とすことのないよう,船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で停留中のタイコウに気付かず,右転するなど,同船を避けないまま進行して衝突を招き,豊信丸の船首外板に亀裂及び擦過傷を生じさせ,タイコウの船尾左舷側を大破して船尾マストに折損などを生じさせたほか,観光客及びガイド9人にそれぞれ頚部鞭打ち症,打撲傷などを,B受審人に頚椎捻挫,左膝打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,早崎瀬戸において,船尾マストにスパンカを展帆してマスト頂部に黄色回転灯を点灯し,停留して魚釣りを行う場合,自船に向首する態勢で接近して来る豊信丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,航行船が自船のスパンカと黄色回転灯を視認して避航してくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,豊信丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,機関を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせ,自身及び豊信丸の観光客などが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:17KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION