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平成17年那審第9号
件名

漁船海生丸引船セドナVI引船列衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平,杉崎忠志,平野研一)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:海生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:セドナVI船長
C 職名:セドナVI一等航海士

損害
海生丸・・・球状船首部に亀裂,左舷船首部外板に破口を伴う亀裂
アレナIII・・・右舷船首部外板に擦過傷

原因
セドナVI引船列・・・注意喚起信号不履行,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
海生丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,セドナVI引船列が,前路を左方に横切る海生丸の進路を避けなかったばかりか,注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが,海生丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日04時40分
 鹿児島県与論島西北西方沖合
 (北緯27度09.0分 東経128度14.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船海生丸  
総トン数 7.31トン  
登録長 11.07メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 257キロワット  
船種船名 引船セドナVI 引船アレナIII
総トン数 199.00トン 47.00トン
登録長 34.00メートル 21.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット 397キロワット
(2)設備及び性能等
ア 海生丸
 海生丸は,昭和51年10月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室を配し,その船尾方に同室に接して機関室囲壁を設け,前部甲板下に魚倉を配置していた。
 操舵室には,前面及び左右両舷に窓を,各舷の窓の下に引き戸式の出入口を設け,同室前部に設けた棚の中央部に舵輪,左舷側にGPSプロッター及びコンパス,右舷側に主機遠隔操縦用ハンドルを装備し,同棚上方の天井には,左舷側にレーダー,中央部に自動操舵装置,右舷側に漁業無線機を備え,同室後部に床面から約50センチメートルの高さでベッドを設けていた。
イ セドナVI
 セドナVI(以下「セ号」という。)は,D社に海外売船された,E社及びF法人が共有していた旧船名I丸で,関門港からシンガポール共和国までの回航を目的として,平成16年5月にH国籍を取得し,関門港からシンガポール港までの航海の許可を得たものであった。
 同船は,平成3年10月に進水した2機2軸を有する鋼製引船で,船体ほぼ中央部に操舵室,船員室及び機関室囲壁を配し,船尾甲板に,直径80ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約50メートルの合成繊維索を接続した,直径50ミリのワイヤロープを巻き取ったえい航用ロープリール及び同リール駆動用ウインチを設置し,操舵室上方には,信号用の照射灯を備えていた。
ウ アレナIII
 アレナIII(以下「ア号」という。)は,セ号と同じくD社に海外売船された,G社が所有していた旧船名J丸で,関門港からシンガポール共和国までの回航を目的として,平成16年5月にH国籍を取得し,えい航されることを条件として関門港からシンガポール港までの航海の許可を得たものであった。
 同船は,昭和61年4月に進水した2機2軸を有する鋼製引船で,船体ほぼ中央部に船室及び機関室囲壁を,その上部に操舵室を配し,船首甲板には,揚錨機及び両舷にボラードを備えていた。
 また,回航に当たっては,同船を無人としてえい航するので,設備されていた航海灯に代えて灯火を表示する目的で,操舵室上方に設置されたハンドレールの前面に白色,同右舷側に緑色,同左舷側に紅色の,操舵室上方のマスト後部に黄色及び船尾に白色の各点滅灯を取り付け,いずれも乾電池を電源として夜間自動的に点灯するものであった。

3 事実の経過
 海生丸は,A受審人が1人で乗り組み,そでいか旗流し漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年5月15日12時30分鹿児島県与論島茶花漁港を発し,同島西北西方80海里ばかりの漁場に向かい,翌16日及び17日の両日前示漁場で操業し,そでいか約300キログラムを獲たのち,17日16時ごろ,同漁場を発して帰航の途についた。
 A受審人は,航行中の動力船の表示する所定の灯火と操舵室上方のマストに設置した黄色回転灯を点じて帰航中,眠気を感じたことから,18日03時50分伊平屋島灯台から069度(真方位,以下同じ。)11.8海里の地点で,機関を停止し,漂泊して仮眠をとることとし,前示灯火を表示したまま,操舵室後部のベッドで横になった。
 04時27分半A受審人は,仮眠を終えて起き出し,ベッドに腰をかけた姿勢で,針路を茶花漁港に向かう120度に定め,07時の魚市場の開始時刻に合わせ,機関を回転数毎分600にかけて4.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,レーダー及びGPSプロッターを作動させて前示停止地点を発進した。
 04時31分A受審人は,伊平屋島灯台から071度11.9海里の地点に達したとき,左舷船首51度1.2海里のところに,セ号の掲げる連掲した白灯3個及び緑灯1個を視認でき,同船が引船列を構成し(以下「セドナVI引船列」という。),前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢となって接近するのを認めることのできる状況であったが,ベッドに腰をかけた姿勢で前方を一瞥しただけで,他船の灯火を認めなかったことから,付近に他船はいないものと思い,操舵室前部左舷側に設置されたレーダー及びGPSプロッターなどにより,同方向が見えにくくなっていたものの,その後もベッドに腰をかけた姿勢のままで,身体を移動するなりして周囲を見回したり,レーダー画面の表示を確認するなどして,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,同一針路,速力で進行した。
 A受審人は,セドナVI引船列と衝突のおそれがある態勢のまま,同引船列と間近に接近し,セ号の船尾方にア号の表示する白,緑の点滅灯を視認できる状況となったものの,依然,ベッドに腰をかけた姿勢のまま,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもせず続航中,04時40分伊平屋島灯台から073度12.3海里の地点において,原針路,原速力のまま,海生丸の左舷船首部にア号の右舷船首部が前方から88度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の東北東風が吹き,視界は良好であった。
 また,セ号は,B指定海難関係人及びC指定海難関係人ほか5人が乗り組み,船首2.9メートル船尾3.2メートルの喫水で,船尾甲板のえい航用ロープリールからワイヤロープを約150メートル延出し,接続した合成繊維索との合計長さを約200メートルとし,その先端に取り付けた長さ約1メートルのチェーンを,無人で船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水となったア号船首部の各舷ボラードにそれぞれ2周ずつ回してストラップ状にした直径15ミリのワイヤロープにシャックルで接続し,セ号船尾端からア号船尾端までの長さ約210メートルの引船列とし,5月15日05時30分関門港を発し,シンガポール港に向かった。
 ところで,B指定海難関係人は,船橋当直を,自らとC指定海難関係人及び甲板部員2人の計4人の輪番で行うこととし,各当直者には,見張りを十分に行い,必要があれば,いつでも船長に知らせるよう指示していた。
 5月18日04時30分C指定海難関係人は,伊平屋島灯台から070度13.2海里の地点で,前直者と船橋当直を交代し,針路を222度に定め,機関を全速力前進にかけて7.2ノットの速力とし,セ号にはえい航作業に従事していることを示す,3個連掲のマスト灯,各舷灯,船尾灯,引船灯を表示し,船尾甲板を照らす作業灯を点じ,ア号には,操舵室上方に設置されたハンドレールの前面に白色,同右舷側に緑色,同左舷側に紅色の,操舵室上方のマスト後部に黄色及び船尾に白色の点滅灯をそれぞれ表示し,自動操舵により進行した。
 04時31分C指定海難関係人は,伊平屋島灯台から070.5度13.1海里の地点に達したとき,右舷船首27度1.2海里のところに,海生丸の黄色回転灯を初認し,動静監視を行っていたところ,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,自船は,えい航作業に従事していることを示す灯火を表示しているので,いずれ相手船が避けてくれるものと思い,針路を大きく右に転じるなどして海生丸の進路を避けることなく進行した。
 04時32分半C指定海難関係人は,伊平屋島灯台から071度12.9海里の地点に至り,海生丸まで1.0海里となったとき,同船を避けるつもりで,10度左転して針路を212度に転じたところ,転針後も,海生丸の方位に明確な変化がなく,同船と衝突のおそれがある態勢のまま接近するのを認めたものの,依然として,相手船が避けてくれるものと思い,さらに接近しても,電気ホーンや照射灯等による注意喚起信号を行うことなく,同一針路,速力で進行した。
 04時39分C指定海難関係人は,海生丸が,ほぼ右舷正横150メートルとなり,その後も針路を変更することなく,後方のア号に接近するので衝突の危険を感じ,04時40分わずか前,手動操舵に切り替えて左舵15度をとり,電気ホーンを吹鳴したものの,効なく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,海生丸は,球状船首部に亀裂を,左舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じ,ア号は,右舷船首部外板に擦過傷を生じた。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,与論島西北西方沖合において,両船が互いに進路を横切る態勢で衝突したもので,適用航法について検討する。
 海生丸が航行中の動力船の,セドナVI引船列がえい航作業に従事する船舶の所定の灯火をそれぞれ表示し,周囲に操船の障害となるものがなかったことから,避航船の立場となるセドナVI引船列において,海生丸との衝突のおそれを認めたのち,避航動作をとることを妨げる状況でなかったと認められる。
 従って,本件においては,海上衝突予防法第15条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 海生丸
(1)操舵室前部左舷側にレーダー及びGPSプロッターが設置されていたこと
(2)発進後,ベッドに腰をかけた姿勢のまま,身体を移動するなりして周囲の見張りを行わなかったこと
(3)レーダー画面の監視を行わなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 セドナVI引船列
(1)セ号船尾端からア号船尾端までの長さが,約210メートルとなっていたこと
(2)ア号に所定の灯火を表示せず,同色の点滅灯を表示していたこと
(3)針路を大きく右に転じるなどして海生丸の進路を避けなかったこと
(4)電気ホーンや照射灯等による注意喚起信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 海生丸において,A受審人が,ベッドに腰をかけた姿勢のまま,身体を移動するなりして周囲の見張りを行わなかったこと,及びレーダー画面の監視を行わなかったことは,見張りを十分に行わなかったことの態様であり,見張りが十分に行われていれば,セドナVI引船列の存在及び同引船列と衝突のおそれがある態勢で接近することを認識し,警告信号を行うことにより,同引船列に避航動作をとらせることができ,また,衝突のおそれがある態勢のまま間近に接近したとき,自船が,衝突を避けるための協力動作をとれば,衝突は避けられたものと認められる。
 したがって,ベッドに腰をかけた姿勢のまま,身体を移動するなりして周囲の見張りを行わなかったこと,レーダー画面の監視を行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 操舵室前部左舷側にレーダー及びGPSプロッターが設置されていたことは,身体を移動するなりして周囲の見張りを行うことはできたのだから,原因とはならない。
 一方,セドナVI引船列において,相手船の方位に明確な変化がなく接近することを認めた際,同船の船首方を横切る動作となる10度の左転を行い,その後も,衝突のおそれがある態勢のまま続航して発生したものであり,早期に,針路を大きく右に転じるなどして海生丸の進路を避けていれば,本件は発生しなかったと認められ,針路を大きく右に転じるなどして海生丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,その後,さらに接近した海生丸に対して,電気ホーン及び照射灯等による注意喚起信号を行わなかったことは,これらの信号を行っていれば,海生丸にセドナVI引船列の存在を認識させ,同船が衝突を避けるための協力動作をとることができたと認められるから,本件発生の原因となる。
 ア号が,所定の不動光の灯火を表示せず,同色の点滅灯を表示していたことは,約200メートル前方でア号をえい航するセ号から同点滅灯を十分視認できたのだから,海生丸において,それ以上の距離で,セドナVI引船列の表示する灯火を視認し,同引船列との衝突を避けるための協力動作をとる時間的,距離的余裕があったものと認められ,あえて原因とするまでもないが,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 セ号船尾端からア号船尾端までの長さが,約210メートルとなっていたことは,セドナVI引船列が,海生丸と衝突のおそれがあることを認めたのち,回避動作をとるのに,十分な時間的,距離的余裕があったと認められることから,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,鹿児島県与論島西北西方沖合において,南下中のセドナVI引船列が,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する海生丸の進路を避けなかったばかりか,さらに接近しても,注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが,東行中の海生丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,夜間,鹿児島県与論島西北西方沖合において,茶花漁港に向けて帰航する場合,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するセドナVI引船列を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,ベッドに腰をかけた姿勢のまま前方を一瞥しただけで,他船の灯火を認めなかったことから,付近に他船はいないものと思い,操舵室前部左舷側に設置されたレーダー及びGPSプロッターなどにより,同方向が見えにくくなっていたものの,その後もベッドに腰をかけた姿勢のままで,身体を移動するなりして周囲を見回したり,レーダー画面の表示を確認するなどして,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近するセドナVI引船列に気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,自船の球状船首に亀裂を,左舷船首部外板に破口を伴う亀裂を生じ,セ号のえい航するア号の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 C指定海難関係人が,夜間,与論島西北西方沖合を南下中,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢の海生丸を認めた際,同船の進路を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対して勧告しないが,えい航作業に従事中,衝突のおそれがある態勢で接近する他船を避航するにあたっては,できる限り早期に,かつ,大幅に動作をとるなど,海上衝突予防法に定める航法を遵守して,事故の再発防止に努めなければならない。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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