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平成17年門審第15号
件名

漁船三笠丸貨物船ワイドポス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,尾崎安則,上田英夫)

理事官
中谷啓二

指定海難関係人
A 職名:ワイドポス二等航海士

損害
ワイドポス・・・右舷前部から同中央部にかけて擦過傷
三笠丸・・・デリック等が倒壊,右舷後部及び船尾ブルワーク等の欠損,船長が多発性外傷及び脳出血,溺死

原因
ワイドポス・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
三笠丸・・・警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ワイドポスが,見張り不十分で,漁ろうに従事している三笠丸の進路を避けなかったことによって発生したが,三笠丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月15日12時45分
 周防灘中央部
 (北緯33度48.4分 東経131度26.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船三笠丸 貨物船ワイドポス
総トン数 4.96トン  
国際総トン数   2,509トン
全長 14.55メートル  
登録長   88.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,691キロワット
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 三笠丸
 三笠丸は,昭和50年2月に進水した全通一層甲板の木製漁船で,船体中央に機関室が,その後方に船尾側が開口された操舵室がそれぞれ配置され,機関室囲壁の前部両舷にロープリールが各1個,後部甲板のほぼ中央に長さ5.5メートルの揚網用デリック(以下「デリック」という。)が1基それぞれ備えられていた。
 後部甲板からの周囲の見通しは,甲板上の高さ1.95メートルの操舵室により正船首方から左右にそれぞれ約17度の範囲で死角を生じていたものの,立って操舵室の窓越しに見ることなどで,これを補うことができた。
 操舵室内は,前面下部が機関室囲壁になっており,その右舷側に機関室への出入口が設けられ,同囲壁上面を計器台代わりとし,同上面の中央やや右舷側にマグネットコンパスが,その右側にGPSプロッターが,同プロッター上方の天井部に自動操舵装置及び音響測深機が,その左側に主機遠隔操縦装置及び同計器盤がそれぞれ備えられており,操舵輪はなく,操船は自動操舵装置に取り付けられた切換えスイッチにより遠隔手動操舵又は自動操舵で行われていた。
イ 三笠丸の操業模様
 三笠丸は,周防灘の許可海域にて,車えび,しゃこ及びはも等を漁獲対象とした小型底びき網漁業に従事し,各ロープリールから伸出した直径10ミリメートル長さ200メートルのワイヤロープ製曳索に,直径26ミリメートル長さ10メートルの合成繊維製ロープの先端に長さ10メートルのチェーン等を連結した手綱,長さ10メートルの袖網及び13メートルの袋網をそれぞれ順に繋ぎ,全長約250メートルとした漁具を船尾から投入し,約40分曳網したのち,行きあしを止めて左右の曳索をロープリールで巻き取り,船尾に寄せた袋網をデリックで吊り上げ,その袋尻を解いて漁獲物を後部甲板に取り込んでは,再び投網して曳網中に漁獲物の選別を行っており,この一連の作業を07時ころから16時ころまでの間に6回ないし7回繰り返していた。
ウ ワイドポス
 ワイドポス(以下「ワ号」という。)は,1992年2月に大韓民国で建造された球状船首を有する船尾船橋型の鋼製貨物船で,船首楼及び船尾楼を有し,前部甲板下に2個の貨物倉が配置され,船尾楼甲板の上部は3層をなし,その最上層で本件当時の喫水線上8.8メートルのところに航海船橋甲板があり,操舵室が同甲板船首側に配置され,船首端から同室前面までの距離が70メートルで,同室からの前方の見通しは,船首方にこれを遮る構造物がなく,船首端から前方約80メートルのところまでが船首部により死角を生ずるものの,左右に移動することで,これを補うことができた。
 操舵室内には,前部中央にジャイロコンパスのレピータが,その船尾方に操舵スタンドがそれぞれ備えられ,同スタンドの右側に主機遠隔操縦装置が,同スタンドの左側にレーダーがそれぞれ備えられていた。

3 事実の経過
 三笠丸は,船長Bが1人で乗り組み,操業の目的で,船首約0.4メートル船尾約0.6メートルの喫水をもって,平成16年9月15日05時00分大分県小祝漁港を実弟の漁船とともに発した。
 ところで,B船長は,三笠丸の全長が12メートル以上であったが,法定の汽笛を備えていなかった。
 07時00分B船長は,周防灘航路第2号灯浮標(以下「周防灘航路」を冠する灯浮標はこれを省略する。)と第3号灯浮標との間の漁場に至り,黒色の鼓形形象物を機関室囲壁前方の甲板上の高さ3.47メートルのマスト頂部と,同マスト上部からデリック頂部に渡したロープとの間に表示し,E組合から支給された縦50センチメートル横60センチメートルの桃色の旗をデリック上部に掲げて操業を開始した。
 B船長は,漁場を適宜移動して操業を続けたのち,12時10分ないし20分ころ香々地灯台から北北西方9海里ばかりの地点で,機関を全速力前進にかけ,当日4回目の曳網を開始し,コード付きの遠隔操舵装置を用いて舵中央とし,後部甲板に取り込んだ漁獲物を中腰になって選別しながら進行した。
 12時30分B船長は,香々地灯台から334度(真方位,以下同じ。)8.8海里の地点に差しかかり,実弟の漁船に接近したとき,針路を226度に定め,折からの東流の影響を受け,左方に18度圧流されながら,2.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で曳網を続けた。
 12時41分少し前B船長は,香々地灯台から331度8.6海里の地点に達したとき,右舷船首42度1.0海里のところに東行するワ号が存在し,その後,同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,汽笛不装備で警告信号を行わず,さらに間近に接近したとき,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行した。
 12時45分少し前B船長は,ワ号の船首方を100メートルばかりで航過したが,12時45分香々地灯台から330度8.5海里の地点において,三笠丸は,原針路,原速力のまま,その船尾方至近の曳索にワ号の船首が前方から48度の角度で衝突したことで,同索によって船体が瞬時にワ号側に引き寄せられ,その右舷後部とワ号の右舷前部とが衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の北東風が吹き,視界は良好であり,潮候は下げ潮の中央期で,付近には約1ノットの東流があった。
 また,ワ号は,韓国人船長C及びA指定海難関係人ほか韓国人9人が乗り組み,スチールコイル3,091.214トンを積載し,同月14日15時05分大韓民国クァンヤン港を発し,関門海峡経由で香川県詫間港に向かった。
 C船長は,船橋当直体制を,00時から04時及び12時から16時までをA指定海難関係人と甲板手D,04時から08時及び16時から20時までを一等航海士と甲板員,08時から12時及び20時から24時までを自らと甲板長とでそれぞれ当たる,各直2人の4時間3直制とし,船内の習慣によりそれぞれ定時の30分前に当直交代を行っていた。
 翌15日11時30分A指定海難関係人は,本山灯標から272度5.0海里の地点で,D甲板手とともに入直したが,間もなく,同甲板手に清水タンクの測深を命じて降橋させ,その後,レーダーを作動させないまま,操舵室左舷前部に立って見張りに当たり,103度の針路で周防灘の推薦航路南側を自動操舵によって航行した。
 12時02分A指定海難関係人は,本山灯標から161度2.3海里の地点に差しかかったとき,左舷船首方約4海里のところに漁船群を認めたので,それらから離そうと考え,針路を106度に定め,折からの東流に乗じて12.6ノットの速力で進行した。
 A指定海難関係人は,漁船が推薦航路の北側寄りに集中し,その南側寄りでは次第に少なくなってきたので,原針路に復することとし,12時41分少し前香々地灯台から326度9.0海里の地点で,針路を第3号灯浮標に向く094度に転じたとき,左舷船首9度1.0海里のところに,黒色の鼓形形象物を表示し南西方に向いた三笠丸を視認でき,その後,漁ろうに従事している同船と方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かる状況であったが,漁船群を左舷側に0.5海里ばかり離して航過していたことから,それらの動向に気を取られて左舷方を注視し,前方の見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,右転するなどして三笠丸の進路を避けないまま続航した。
 12時45分少し前A指定海難関係人は,ふと前方を見たとき,正船首わずか左方100メートルのところに,三笠丸を初めて認め,急ぎ手動操舵に切換え,左舵一杯としたものの効なく,ワ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 C船長は,A指定海難関係人から衝突の報告を受けて昇橋し,事後の措置に当たった。
 衝突の結果,ワ号は,右舷前部から同中央部にかけて擦過傷を生じ,三笠丸は,デリック及び操舵室後方のオーニングが左舷側に倒壊したほか,右舷後部及び船尾ブルワーク等の欠損,両舷曳索の切損による漁網の海没を生じ,漁網は後日回収されたものの,B船長(二級小型船舶操縦士免状受有)が衝撃で海中に投げ出され,間もなく僚船によって救助されたが,多発性外傷及び脳出血による溺水で死亡した。

(航法の適用)
 本件は,周防灘中央部で,法定の形象物を表示して漁ろうに従事中の三笠丸の曳索に東行中のワ号が衝突したことにより,両船が衝突したものであり,海上交通安全法の適用海域であるが,同法に適用すべき規定がないので,海上衝突予防法によって律することとなり,同法第18条の各種船舶間の航法規定を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 三笠丸
(1)汽笛を備えておらず,警告信号を行わなかったこと
(2)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ワ号
(1)2人当直体制を維持せず,単独で見張りに当たっていたこと
(2)レーダーを使用していなかったこと
(3)自動操舵装置を使用して航行したこと
(4)左方の漁船群の動向に気を取られていたこと
(5)前方の見張りを十分に行わなかったこと
(6)漁ろうに従事している三笠丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 ワ号が,前方の見張りを十分に行っていたなら,三笠丸の存在を認め,同船が漁ろうに従事していることが分かり,同船の進路を避けることができたと認められる。したがって,左舷方の漁船群の動向に気を取られ,前方の見張りを十分に行わず,漁ろうに従事している三笠丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人が,2人当直体制を維持せず,単独で見張りに当たっていたこと及びレーダーを使用していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 ワ号が自動操舵装置を使用して航行したことは,A指定海難関係人の見張りにも衝突直前の回避動作にも支障をきたしていないので,本件発生の原因とならない。
 一方,三笠丸が,ワ号に避航の気配が見えないとき,警告信号を行い,さらに間近に接近したとき,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,衝突を回避できたと認められる。したがって,B船長が,汽笛を備えず,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,周防灘中央部において,東行中のワ号が,見張り不十分で,漁ろうに従事している三笠丸の進路を避けなかったことによって発生したが,三笠丸が,汽笛不装備で警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,周防灘中央部を東行する際,左舷方の漁船群の動向に気を取られ,前方の見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,見張りを十分に行わず,B船長を死亡させるに至ったことを悔いて深く反省している点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:15KB)

参考図2
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