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平成17年門審第23号
件名

漁船第八多賀丸モーターボートバディ ウインズ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,織戸孝治,片山哲三)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:第八多賀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a
受審人
B 職名:バディ ウインズ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八多賀丸・・・船首部に擦過傷
バディ ウインズ・・・左舷船首外板に破口

原因
第八多賀丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
バディ ウインズ・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第八多賀丸が,見張り不十分で,漂泊中のバディ ウインズを避けなかったことによって発生したが,バディ ウインズが,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月23日13時25分
 山口県蓋井島北西方沖合
 (北緯34度07.6分 東経130度44.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八多賀丸 モーターボートバディ ウインズ
総トン数 19トン  
全長 23.50メートル 9.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 147キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八多賀丸
 第八多賀丸(以下「多賀丸」という。)は,平成元年2月に進水したいか一本釣り漁に使用されるFRP製漁船で,船体の中央部に配置された操舵室には,前面中央に操舵スタンドがあり,同スタンドの右舷側に機関操縦レバー,レーダー及びGPSプロッタなどの計器類が装備されていた。
 同船は,10ノットばかりで航走すると,船首浮上により,操船者が舵輪の後方に立った姿勢では,船首両舷にわたって30度ばかりの範囲で水平線が見えなくなる死角を生じる状況であったものの,操舵室の両舷側壁の外側にそれぞれ設置された梯子の,甲板上高さ約40センチメートルとなる2段目に立って見張りを行うことで,同死角を補うことができた。
イ バディ ウインズ
 バディ ウインズ(以下「バディ号」という。)は,平成6年7月に第1回定期検査を受けたFRP製モーターボートで,主機関として船内外機を装備し,船体の中央部に配置された操縦室には,舵輪,遠隔操舵装置,機関操縦レバー及び魚群探知機の受信表示機能を有するGPSプロッタなどの計器が,また,音響信号設備として電気式ホーンが備えられていた。

3 事実の経過
 多賀丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年10月23日11時55分山口県下関漁港を発し,福岡県沖ノ島北方の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,自らが往復航の操船を担当し,甲板員には専ら操業中のいかの箱詰め作業などを担当させており,平素,船首死角を補うため,港内では甲板員を前部甲板に配置し,港外では船首を左右に振ったり,操舵室から出て梯子の2段目に立つなどして,操船していた。
 A受審人は,甲板員を前部甲板に配置して前方の見張りに当たらせ,六連島東方の検疫錨地を通過したのち,関門航路内をこれに沿って北上し,12時20分少し前関門港港界の,六連島灯台から035度(真方位,以下同じ。)1.3海里の地点に至り,針路を目的の漁場に向く317度に定め,機関を半速力前進にかけ,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 定針後,A受審人は,操業に備えて甲板員に船室で休息をとらせ,レーダーを1.5海里のレンジとして使用し,時折,自動操舵に切り替えては,梯子に立って前方の見張りを行い,蓋井島南方に点在していた十数隻の釣り船の動向を見ながら続航した。
 13時15分A受審人は,蓋井島灯台から290度1.3海里の地点に差し掛かり,北東風による白波が立ち始めたことから,レーダーの海面反射の調整をしていたものの,海面反射と釣り船などのレーダー映像の識別が困難な状況となり,梯子に立って前方を見たところ,他船を見かけず,時化模様となってきたので,蓋井島から北方の海域には,釣り船などの小さな船はいないと思い,その後,船首を左右に振るなり,梯子に立つなどして,死角を補う見張りを十分に行うことなく進行した。
 13時24分A受審人は,蓋井島灯台から305度2.8海里の地点に達したとき,正船首300メートルのところに,南西方に向いたバディ号を視認でき,その後,同船が漂泊していることが分かり,同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然,船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在も,同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
 こうして,A受審人は,漂泊中のバディ号を避けずに続航し,13時25分蓋井島灯台から305度3.0海里の地点において,多賀丸は,原針路,原速力のまま,その船首がバディ号の左舷船首部にほぼ90度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力5の北東風が吹き,波高は1.5メートルで,潮候は低潮時にあたり,視界は良好であった。
 また,バディ号は,B受審人が1人で乗り組み,知人2人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同日08時30分福岡県芦屋港を発し,蓋井島西方の釣り場に向かった。
 09時20分B受審人は,蓋井島灯台から297度2.8海里の地点に至り,機関をアイドリング運転とし,直径5メートルのパラシュート型シーアンカー(以下,シーアンカーという。)を投入して漂泊状態として釣りを始めたが,釣果が芳しくなかったことから,シーアンカーを揚収したのち,12時10分機関を使用して北方に向かい,同時15分前示衝突地点付近で機関をアイドリング運転として漂泊を開始し,船尾からシーアンカーを投入して直径16ミリメートルの合成繊維製の錨索を20メートル繰り出し,直径12ミリメートルの合成繊維製のシーアンカー取込索とともに左舷船尾端のクリートに係止し,同時25分船尾左舷側に座って釣りを再開した。
 13時24分B受審人は,船首が227度に向いているとき,たい釣りに適した底質かどうかを確認するため,操縦室でGPSプロッタの魚群探知表示画面を見ていたところ,同乗者から船が接近してくることを知らされ,左舷正横300メートルのところに多賀丸の船首部を初認し,その後,同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め,電気式ホーンにより同船に対して避航を促す音響信号を行ったものの,航行船が漂泊している自船を避けて行くものと思い,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
 13時25分少し前B受審人は,多賀丸が自船に向首したまま80メートルとなり,衝突の危険を感じ,両手を振って大声で叫び,同乗者が機関の操縦レバーを操作して後進にかけたが及ばず,船首がわずかに左転したところで,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,多賀丸は,船首部に擦過傷を,バディ号は,左舷船首外板に破口をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 多賀丸
(1)船首方に死角が生じる状況にあったこと
(2)海面反射と釣り船などのレーダー映像を識別することが困難な状況であったこと
(3)時化模様となってきたので,前路に釣り船などの小さな船はいないと思ったこと
(4)船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(5)漂泊中のバディ号を避けなかったこと

2 バディ号
(1)航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思ったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,航行中の多賀丸が,見張りを十分に行っていれば,前路で漂泊中のバディ号を視認することができ,余裕を持って同船を避けることができ,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,時化模様となってきたので,前路に釣り船などの小さな船はいないと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わず,漂泊中のバディ号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 多賀丸の船首方に死角が生じる状況にあったことは,通常の操舵位置からの船首方の見張りを妨げることとなるものの,船首を左右に振るなり,梯子に立つなどの手段をとることにより,その死角を解消することができたのであるから,本件発生の原因とはならない。
 また,多賀丸のレーダー映像が,海面反射と釣り船などの映像を識別することが困難な状況であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるものの,死角を補う見張りを行うことにより,漂泊中のバディ号を視認できる状況であったから,本件発生の原因とならない。
 一方,バディ号は,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する多賀丸を認めたのであるから,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとっていれば,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,航行船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,山口県蓋井島北西方沖合において,漁場に向け北上中の多賀丸が,見張り不十分で,漂泊中のバディ号を避けなかったことによって発生したが,バディ号が,衝突を避けるための措置をとらなかったも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山口県蓋井島北西方沖合において,漁場に向け北上する場合,船首方に死角を生じていたから,前路で漂泊中のバディ号を見落とさないよう,船首を左右に振るなり,操舵室外側の梯子に立つなどして,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,時化模様となってきたので,前路に釣り船などの小さな船はいないものと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中のバディ号に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,多賀丸の船首部に擦過傷を,バディ号の左舷船首外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,山口県蓋井島北西方沖合において,釣りをしながら漂泊中,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する多賀丸を認めた場合,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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