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平成17年門審第34号
件名

遊漁船第3広洋丸モーターボート琴風衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第3広洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:琴風船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第3広洋丸・・・プロペラ翼に曲損などの損傷
琴風・・・船体を両断,廃船,船長が腰部及び左膝関節打撲など,同乗者2人が打撲などの負傷

原因
第3広洋丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
琴風・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第3広洋丸が,見張り不十分で,錨泊中の琴風を避けなかったことによって発生したが,琴風が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月22日06時25分
 大分港東部

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第3広洋丸 モーターボート琴風
総トン数 3.5トン  
全長 11.90メートル 6.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 209キロワット 18キロワット

3 事実の経過
 第3広洋丸(以下「広洋丸」という。)は,操舵室を船体後部に備えたFRP製遊漁船で,平成4年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,釣客6人を乗せ,船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年11月22日06時15分大分港鶴崎泊地奥の係留地を法定灯火を表示して発し,同港東方の釣場に向かった。
 06時20分少し過ぎA受審人は,同泊地入口の鶴崎東防波堤を右舷側に航過し,機関を全速力前進にかけ,18.9ノットの対地速力で,同港九州石油1号桟橋沖を東行した。
 ところで,A受審人は,広洋丸が12ノットから20ノットの速力で航走すると船首が浮上し,操舵室の右舷側にあるいすに腰掛けた姿勢では,同位置における船首尾線に対し,船首方の左舷側に約11度,右舷側に約3度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じるので,平素,小型船が存在する海域では,いすの前に置いた踏台の上に立って天井にある開口部から顔を出し,同死角を補う見張りを行っていた。
 06時21分半少し過ぎA受審人は,大分港LNGシーバース灯(以下「LNGバース灯」という。)から286度(真方位,以下同じ。)1.23海里の地点に達したとき,右舷前方の大野川河口付近に多数の漁船や釣りを行っているプレジャーボートなどを認めるようになり,針路をこれらのわずか沖合に向く089度に定め,同踏台の上に立って天井開口部から顔を出した姿勢で見張りを行いながら,手動操舵によって進行した。
 06時22分少し前A受審人は,LNGバース灯から287度1.17海里の地点に達し,いすに腰掛けた姿勢で見張りをしていたとき,レーダーで1海里ばかり先の船首輝線のわずか右方及び左方にそれぞれ1隻の小型船と思われる映像を探知したものの,このとき,正船首方ほぼ同距離に琴風が存在したが,同船の映像が船首輝線に重なっていたものか,その存在に気付かず,探知している両映像の間を通航することとした。
 A受審人は,前方に他船が存在し,かつ,日出前の薄明時で,海上の障害物などが見えにくい時間帯であり,また,レーダーでは探知困難な小型船などが存在することも考慮して,目視による連続した前路の見張りが十分に行えるよう,12ノット以下の速力に減じるなどして船首死角をなくした状態で航行すべき状況であったが,同じ速力で続航した。
 06時23分少し過ぎA受審人は,LNGバース灯から296度1,450メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首方1,100メートルのところに白,緑2灯を表示した琴風を視認でき,その後,同船の方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近したが,前方にはレーダー映像で認めている2隻の小型船しかいないと思い,天井開口部から顔を出して死角を補うなど,前路の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かないまま進行した。
 06時24分A受審人は,LNGバース灯から309度1,030メートルの地点に達し,天井開口部から顔を出して前方を見たとき,左舷船首10度600メートルばかりのところに白1灯,右舷前方のほぼ同距離に白,緑2灯を表示した小型船をそれぞれ視認し,このとき,琴風をほぼ正船首方580メートルに視認できたものの,一瞥したのみで同船を見落としたまま,再びいすに腰掛け,その後,琴風が船首を風上に向けたまま移動しないことなどから,同船が停留しているか,あるいは舷灯を消灯するのを忘れたまま錨泊している船舶と推認できる状況となったが,依然として,速力を減じて船首死角をなくすなり,天井開口部から顔を出して死角を補うなど,前路の見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同船を避けないまま続航した。
 06時24分半少し前A受審人は,いすに腰掛けた姿勢で前方を見ていたとき,船首死角外側の両舷方にそれぞれ1隻の小型船を視認できるようになり,右舷前方の小型船が船首を南方に向けて船尾側に釣り糸を流していることを知り,同船から少し離すこととし,同時25分わずか前小舵角の左舵をとったところ,06時25分LNGバース灯から342度700メートルの地点において,広洋丸は,原速力のまま,船首が084度を向いたとき,その船首が琴風の右舷中央部に前方から59度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,日出時刻は06時50分ごろであった。
 また,琴風は,船外機を推進機関とし,箱形の操舵スタンドを船体中央部の右舷側に設けた和船型のFRP製モーターボートで,平成4年8月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,魚釣りの目的で,兄と友人の2人を同乗させ,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日06時00分大分港九州電力新大分発電所の西側にある新舞子橋たもとの係留地を発し,LNGバース灯沖合の釣場に向かった。
 ところで,B受審人は,琴風に有効な音響による信号を行うことができる手段を講じておらず,甲板上の高さ約80センチメートルの操舵スタンドの中央頂部に立てた高さ約1.0メートルのマスト頂部に白色全周灯を,同スタンド頂部の,同マスト付け根の船首側寄りに両色灯をそれぞれ取り付けていた。なお,機関を換装した際に同スタンドに備えられていた遠隔操縦装置を取り外し,同スタンドをマストや灯火などの架台として使用していた。
 06時20分B受審人は,水深約35メートルの,前示衝突地点付近に至って機関を停止し,直径20ミリメートルの合成繊維製錨索に繋いだ重量約20キログラムの錨を船首から投入し,錨索を60メートル延出して同索の端を船首部に係止し,マスト頂部の白色全周灯を点灯し,同灯のすぐ下方にゴム製の球形形象物を掲げ,両色灯を消灯しないまま,船首を南南西方に向けて錨泊し,魚釣りを開始した。
 06時23分少し過ぎB受審人は,兄及び友人が船首部及び船体中央部に腰掛け,自らは船尾端右舷側に腰掛けて右舷方を向いて竿釣りを行い,船首が205度を向いていたとき,右舷船首64度1,100メートルのところに広洋丸が表示する白,紅,緑3灯を視認でき,その後,同船の方位が明確に変化せず,衝突のおそれがある態勢で接近したが,航行中の他船が錨泊中の自船を避けて行くものと思い,釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船が衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かなかった。
 B受審人は,避航の気配を示さないまま接近する広洋丸に対して注意喚起信号を行わず,更に接近しても機関を始動して前進するなど,同船との衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続け,06時25分少し前右舷方に機関音を聞いて顔を上げたとき,至近に迫った広洋丸を認め,立ち上がって大声を出しながら手を振ったものの,効なく,琴風は,前示のとおり,衝突した。
 衝突の結果,広洋丸はプロペラ翼に曲損などを生じ,琴風は船体を両断され,のち広洋丸は修理されたが,琴風は廃船とされ,B受審人が腰部及び左膝関節打撲など,琴風同乗者Cが低体温,同Dが左上腕及び左胸腹部打撲などの傷を負い,それぞれ数日間の安静加療を要した。

(原因)
 本件衝突は,日出前の薄明時,大分港東部において,釣場に向けて東行中の広洋丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の琴風を避けなかったことによって発生したが,琴風が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,日出前の薄明時,大分港東部を釣場に向けて東行する場合,海上の障害物が見えにくい時間帯であり,船首浮上により前方に死角を生じていたから,前路の他船を見落とさないよう,速力を減じて死角をなくすなり,天井開口部から顔を出して死角を補うなど,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方にはレーダー映像で認めている2隻の小型船しかいないと思い,減速して船首浮上による死角をなくすなり,同死角を補うなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊する琴風に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,広洋丸のプロペラ翼に曲損を,琴風の船体を両断する事態を生じさせ,B受審人に腰部及び左膝関節打撲などの,琴風同乗者Cに低体温の,同Dに左上腕及び左胸腹部打撲などのそれぞれ数日間の安静加療を要する傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,日出前の薄明時,大分港東部において,釣りを行いながら錨泊する場合,船舶が通航する海域であったから,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行中の他船が錨泊中の自船を避けて行くものと思い,釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,広洋丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を,自身と琴風同乗者に前示の傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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