(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月22日09時00分
福岡県苅田港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船幸成丸 |
漁船初美丸 |
総トン数 |
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4.41トン |
全長 |
15.10メートル |
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登録長 |
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11.31メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
3 事実の経過
幸成丸は,主として港湾土木作業に従事するFRP製作業船で,昭和50年6月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,作業員5人を乗せ,交換用電池約300キログラムを積載し,航路標識の電池交換をする目的で,船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成16年9月22日08時05分関門港を発し,福岡県宇島港に向かった。
ところで,A受審人は,平素,機関を全速力前進に掛けて約20ノットの速力で航走すると,船首が浮上し,操舵室右舷側のいすに座った姿勢では,船首方両舷にわたって約10度の範囲に水平線が見えなくなる死角を生じることから,船首を左右に振ったり,レーダーを活用するなどして同死角を補う見張りを行っていた。
A受審人は,発進後,機関と舵とを適宜使用して関門海峡を東航し,部埼沖に至って機関を全速力前進に掛け,21.0ノットの対地速力で,船首を左右に振ったり,0.5海里レンジとしたレーダー画面を監視したりしながら手動操舵によって南下し,08時54分苅田港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から064度(真方位,以下同じ。)3.3海里の地点で,針路を170度に定めて進行した。
08時57分A受審人は,北防波堤灯台から083度3.1海里の地点に達したとき,正船首方1.0海里のところに,船首を南西に向けた初美丸を視認でき,その後,同船がほとんど移動しないことから,漂泊中か停留中であることが分かり,同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,レーダー画面を一瞥して他船の映像を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首を左右に振ったり,レーダーのレンジを適宜切り替えるなどしてレーダーを有効に活用するなど,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かなかった。
A受審人は,初美丸に向かって衝突のおそれがある態勢で更に接近したが,依然として死角を補う見張りを十分に行わず,右転するなどして同船を避けないまま,同じ針路及び速力で続航中,幸成丸は,09時00分北防波堤灯台から100度3.4海里の地点において,その船首が初美丸の右舷中央部に後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
また,初美丸は,雑漁業に従事するFRP製漁船で,昭和50年6月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,かに籠漁を行う目的で,船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同日07時00分苅田港を発し,同港東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は,07時20分ごろ目的地に着いて操業を始めたものの,漁模様が芳しくなかったので,08時47分北防波堤灯台から099度3.4海里ばかりのところに移動し,機関を中立にして船首を南西方に向けて停留し,油圧ローラを使用してかに籠を巻き揚げ,かにを取り出す作業などに取り掛かった。
08時57分B受審人は,北防波堤灯台から100度3.4海里の地点で,船首を215度に向け,右舷前部甲板にしゃがんで船尾方を向き,前示作業を行っていたとき,右舷船尾45度1.0海里のところに,自船に向かって接近する幸成丸が存在していたが,同作業に夢中になり,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かなかった。
B受審人は,幸成丸が,衝突のおそれがある態勢で更に接近したが,依然,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに停留中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,幸成丸は船底外板に擦過傷を,初美丸は両舷外板及び機関室囲壁損壊をそれぞれ生じ,B受審人が左膝捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は,苅田港東方沖合において,宇島港に向けて南下する幸成丸が,見張り不十分で,前路でかに籠漁を操業して停留中の初美丸を避けなかったことによって発生したが,初美丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,苅田港東方沖合において,宇島港に向けて南下する場合,船首浮上により,船首方に死角を生じていたから,前路に存在する他船を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなり,作動中のレーダーのレンジを適宜切り替えるなどしてレーダーを有効に活用するなど,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,0.5海里レンジとしたレーダー画面を一瞥して他船の映像を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路でかに籠漁に従事して停留中の初美丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,幸成丸の船底外板に擦過傷を,初美丸の両舷外板及び機関室囲壁損壊をそれぞれ生じさせ,B受審人に左膝捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
B受審人は,苅田港東方沖合において,かに籠漁の操業で停留する場合,衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同漁に夢中になり,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する幸成丸に気付かず,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもせずに停留を続けて同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。