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平成17年門審第29号
件名

旅客船フェリーダイヤモンド漁船第二福徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,尾崎安則,片山哲三)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:フェリーダイヤモンド二等航海士 海技免許:二級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:第二福徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
フェリーダイヤモンド・・・右舷船首部及び船尾部外板に擦過傷
福徳丸・・・操舵室など上部構造物破損など,揚網補助員が右肩打撲傷の負傷

原因
フェリーダイヤモンド・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法不遵守

主文

 本件衝突は,フェリーダイヤモンドが,動静監視不十分で,漁ろうに従事中の第二福徳丸の進路を避けるための措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月22日10時37分
 大分県国東半島南東方沖合
 (北緯33度23.6分 東経131度46.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船フェリーダイヤモンド 漁船第二福徳丸
総トン数 9,023トン 4.9トン
全長 150.87メートル  
登録長   11.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17,652キロワット  
漁船法馬力数   70
(2)設備及び性能等
ア フェリーダイヤモンド
 フェリーダイヤモンド(以下「ダイヤモンド」という。)は,昭和61年8月に進水した,2機2軸の多層甲板型旅客フェリーで,航海船橋甲板の前部に船橋を,その後方に乗組員居住区を,同甲板の階下に2層の客室甲板を,更にその階下に車両甲板を有する構造で,船橋前面から船首端までの距離が24.3メートルであり,船首及び船尾にスラスト荷重15.4トンのサイドスラスターが備えられていた。
 船橋にはジャイロコンパス,ARPA機能付レーダーのほかレーダー2基,GPSプロッタ,測深機及び電磁式ログなどが装備されていた。そして,同船は,今治港及び松山港に寄港する神戸港と大分港との間の定期航路に就航していた。
イ 第二福徳丸
 第二福徳丸(以下「福徳丸」という。)は,昭和60年5月に大分県で進水した,全長12メートル以上の,ひき網漁業に従事するFRP製漁船で,操舵室にはマグネットコンパスが装備されていた。そして,同船は,別府湾東方の大分県海域を漁場とする,2そう船ひき網漁業に従事する網船の従船で,主船の網船1隻,魚群探知機とGPSを装備した運搬船1隻及び同じ装備を持つ探索船1隻と共に船団を組み,当時,長さ270メートルのワイヤーロープに,180メートルの袖網及び約40メートルの袋網からなるひき網を繋いで全長490メートルばかりとし,袋網の最後部に,同網の後端を示すオレンジ色で直径50センチメートル長さ1メートルばかりの俵型浮標を水深に合わせた長さのロープを介して結止し,同網を着底させ,主船の左舷側約180メートルのところに並んで主船と共に曳網(えいもう)していた。

3 事実の経過
 ダイヤモンドは,A受審人ほか31人が乗り組み,旅客128名を乗せ,車両72台を積載し,船首4.50メートル船尾5.33メートルの喫水をもって,平成16年7月22日07時50分松山港を発し,大分港に向かった。
 A受審人は,08時15分松山港の西方4海里ばかりの地点で船橋当直を引き継ぎ,甲板員1人と共に同当直に就き,機関を全速力前進に掛けて自動操舵で進行し,10時15分臼石鼻灯台から069度(真方位,以下同じ。)10.3海里の地点で,針路を230度に定め,折からの北流により右方に2度圧流されながら,20.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航した。
 10時25分A受審人は,臼石鼻灯台から077度7.0海里の地点に達したとき,右舷船首6度4.0海里のところに福徳丸と,同船を先頭にゆっくり南下する十数隻の漁船群とを初めて双眼鏡で視認し,しばらく様子を見ることとしてそのまま進行した。
 10時31分A受審人は,臼石鼻灯台から087度5.1海里の地点に至り,福徳丸が右舷船首7度2.0海里のところに接近したとき,同船とその北側の漁船群との間に500メートルばかりの間隙があることを知り,1そうびきの底びき網漁の操業中で,2ノットから3ノットの速力であろうから,接近すれば同間隙を通航しようと考えながら続航した。
 その後,A受審人は,福徳丸に接近するにつれ,同船が黒色球形形象物を掲げていたものの,一定の針路及び速力で南下を続けることや,この海域で見かけている底びき網漁船の船型をしていることから,同船がトロールにより漁ろうに従事中であることを認めたが,同船の方位変化や操業形態を双眼鏡を使用して観察したり,レーダーを活用するなどして,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,同船が思ったより遅い速力で,右舷側にもう1隻の漁船を並べて2隻によるひき網漁に従事していることに気付かないまま,1そうびきの底びき網漁船であるから,接近したら同船の船尾方を航過しようと思い,当直中の甲板員と雑談を交わしながら,漠然と前方をながめて同じ針路及び速力で続航した。
 10時34分A受審人は,臼石鼻灯台から094度4.3海里の地点に達したとき,福徳丸が右舷船首9度1.0海里のところに接近したのを認め,同船の進路を避けることとしたが,依然,動静監視不十分で,直進すれば同船の前方150メートルのところを航過する態勢となっていたことや,同船が船尾方にオレンジ色の浮体を引いていることにも気付かず,針路を左に転じて航過距離をより大きくとるなど,同船の進路を避けるための措置を適切にとることなく,同船の船尾方を航過しようと思い,手動操舵に切り替えて針路を235度に転じ,同じ速力で進行した。
 A受審人は,10時36分半少し前右舷船首20度500メートルばかりのところに,自船に向かって高速力で接近する探索船に気付き,双眼鏡で見たところ,同船の船尾方にオレンジ色の浮体を認め,福徳丸が2隻によるひき網漁に従事中で,自船がその網の上を航過する態勢であることを知り,福徳丸の左舷側を航過しようと考え,同時36分半左舵一杯を令するとともに左舷機を全速力後進とし,左回頭中,10時37分臼石鼻灯台から104度3.6海里の地点において,ダイヤモンドは,208度を向首したとき,約20ノットの速力で,その右舷船首が福徳丸の左舷船尾部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には1.0ノットの北流があった。
 また,福徳丸は,B受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.40メートル船尾1.74メートルの喫水をもって,同日06時40分船団の僚船と共に大分県加貫漁港を発し,杵築湾東方沖合の漁場に向かった。
 ところで,B受審人は,発航するにあたって,汽笛が故障していることを知っていたが,修理を行っていなかった。
 B受審人は,07時20分ごろ目的地に着いて魚群の探索を待ち,同時45分ごろ漁ろうに従事している船舶が掲げる鼓形形象物を掲げずに,直径50センチメートルの黒色球形形象物を掲げ,主船の左舷側約180メートルのところに並び,北方に向かって曳網を開始し,09時37分臼石鼻灯台から088度3.2海里の地点で,反転して針路を178度に定め,機関を全速力前進に掛け,折からの北流に抗して1.0ノットの速力で,操舵室右舷側のいすに腰を掛け手動操舵で進行した。そして,10時25分ごろ,間もなく揚網作業に掛かることとし,運搬船から揚網補助員を移乗させて同じ針路及び速力で続航した。
 10時27分B受審人は,臼石鼻灯台から102度3.5海里の地点に達したとき,左舷船尾58度3.5海里のところに,自船の前路に向けて接近するダイヤモンドを初めて認め,運搬船と探索船に同船の存在と同船に対する警戒業務を行うよう無線で知らせるとともに,自船の前方を無難に通過するものと判断し,2人の甲板員にダイアモンドの動静監視を委ね,前方の見張りと主船の動向を見ながら南下した。
 10時31分B受審人は,臼石鼻灯台から104度3.6海里の地点に達したとき,ダイヤモンドが左舷船尾59度2.0海里まで接近し,同船の方位がわずかに右方に変わり,自船の前路を航過する態勢であったので,主船の動向を見ながら同じ針路及び速力で進行した。
 10時34分B受審人は,左舷船尾61度1.0海里まで接近したダイヤモンドが針路を右に転じ,ひき網の上を通過する態勢となったことを甲板員から知らされたものの,自船が当時着底したひき網漁に従事中であったことから,網の上を無難に航過するものと判断し,探索船に行き過ぎた警戒行動をとらないよう無線で指示を与え,同じ針路及び速力で続航中,同甲板員から,ダイヤモンドが船尾至近のところで大きく左転し,自船に向かって左回頭しながら接近する旨の報告を受けたものの,何する間もなく,福徳丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ダイヤモンドは右舷船首部及び船尾部外板に擦過傷を,福徳丸は操舵室など上部構造物破損などをそれぞれ生じ,福徳丸の揚網補助員が右肩打撲傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,国東半島南東方沖合において,松山港から大分港に向けて航行中のダイヤモンドと2そう船ひき網漁業による漁ろうに従事中の福徳丸とが衝突したもので,福徳丸が鼓形形象物を掲げずに黒色球形形象物を掲げていたものの,ダイヤモンドが福徳丸を視認したのち,同船が,一定の針路及び速力で南下を続けることや,この海域で平素から見かけている底びき網漁船の船型をしていることから,同船が底びき網漁に従事中であること,すなわち,同船が,海上衝突予防法に規定のトロールにより漁ろうに従事中の船舶であると認識したのであるから,漁ろうに従事中の船舶と航行中の動力船との衝突であり,同法第18条の規定が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 ダイヤモンド
(1)1.0ノットの北流があったこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)1そうの底びき網漁船だと思ったこと
(4)福徳丸の速力を2ノットから3ノットと思ったこと
(5)当直甲板員と雑談をしていたこと
(6)針路を福徳丸の後方に向けて右に転じたこと
(7)左舵一杯をとったこと

2 福徳丸
(1)汽笛の故障を放置していたこと
(2)黒色の鼓形形象物を掲げずに黒色球形形象物を掲げていたこと

(原因の考察)
 ダイヤモンドが,福徳丸に対して動静監視を十分行っていたなら,その前方を十分とはいえないまでも約150メートル離して航過できた。そして,同船の前方には避航操船をするのに十分な水域があり,左転して航過距離をより大きくとることができたと認められる。従って,福徳丸に対する動静監視を十分に行わなかったことと,同船の進路を避けるために船尾方に向けて右転し,その後,網を避けるために同船に向けて大きく左転せざるを得なかったこと,すなわち,同船の進路を避けるための措置が適切でなかったことは,いずれも原因となる。
 A受審人が,福徳丸を一瞥(いちべつ)して1そうの底びき網漁船だと思ったこと及び同船の速力を2ノットから3ノットと思ったことはいずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同船に対する動静監視を十分に行っていれば,前方を航過できることが分かり,同船の進路を避けるために不適切な措置をとることはなかったと認められる。従って,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。
 当直甲板員と雑談をしていたことについては,本件に至る過程で関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,海難防止の観点から,是正すべき事項である。
 1.0ノットの北流があったことは,本件に至る過程で関与した事実であるが,原因とならない。
 福徳丸が,汽笛の故障を放置していた点及び黒色球形形象物を掲げていた点については,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件の直前において,ダイヤモンドが船尾方を無難に航過する態勢であり,同態勢から同船が大きく左転するのを認めて衝突の危険に気付き警告信号を発したとしても時間的,距離的な余裕がなく,衝突を回避できたとは認められないこと及び同船が福徳丸を視認して漁ろう中の漁船と認めていたことから,これらのことはいずれも本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,海難防止の観点から,是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,国東半島南東方沖合において,ダイヤモンドが,大分港に向けて航行中,前路で漁ろうに従事中の福徳丸を認めた際,動静監視不十分で,同船の進路を避けるための措置が適切でなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,国東半島南東方沖合において,大分港に向けて航行中,前路で漁ろうに従事中の福徳丸を認めた場合,同船の動向が十分に分かるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥して同船が2ノットから3ノットの速力で南下する1そうびきの底びき網漁に従事中であるから,船尾方を航過できるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船の船首方を航過する態勢となっていることに気付かず,針路を左に転じて航過距離をより大きくとるなど,同船の進路を避けるための措置を適切にとらず,同船の船尾方に向けて進行し,直前になって左舵一杯をとって福徳丸との衝突を招き,ダイヤモンドの右舷船首部及び船尾部外板に擦過傷を,福徳丸の操舵室など上部構造物破損などをそれぞれ生じさせ,福徳丸の揚網補助員に右肩打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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