(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月10日08時55分
関門港六連島区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二さゆり丸 |
漁船鶯丸 |
総トン数 |
698トン |
16.98トン |
全長 |
74.25メートル |
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登録長 |
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14.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
360キロワット |
3 事実の経過
第二さゆり丸(以下「さゆり丸」という。)は,船首尾楼付一層甲板船尾船橋型鋼製液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで,A受審人ほか5人が乗り組み,コールタール1,203トンを積載し,船首3.6メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,平成16年11月7日12時15分木更津港を発し,関門港若松区に向かう航行の途,同月9日10時50分揚荷役待機のため,六連島灯台の南東方1海里ばかりの地点で右舷錨を投下し,錨鎖4節を繰り出し,船首マストに黒色球形形象物を掲げて錨泊を開始した。
翌10日07時00分A受審人は,昇橋して自船の船位を確認するとともに灯火を消灯したのち朝食を済ませ,08時00分に再び昇橋して10時45分予定の着岸準備も兼ねて船橋当直を行っていたところ,08時50分ごろ尿意を催し,二層下の船尾楼甲板にある便所に向かうことにした。
A受審人は,自船が通航船舶の多い関門港六連島区に錨泊しており,昇橋中に自船の近距離のところを航過する他船を認めていたものの,形象物を表示して錨泊しているので接近する他船が避航するだろうし,また,少しの間だから大丈夫と思い,他の乗組員を昇橋させて交替するなど,船橋当直を維持する措置をとることなく,降橋して船橋を無人とした。
08時53分A受審人は,船首が090度(真方位,以下同じ。)を向いていたとき,左舷船尾54度650メートルのところに南東進する鶯丸が存在し,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたが,船橋を無人としていてこのことに気付かず,注意喚起信号を行うことなく,錨泊を続けた。
こうして,さゆり丸は,08時55分六連島灯台から124度1,900メートルの地点において,船首が090度を向いていたとき,その左舷中央部に鶯丸の船首が後方から54度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力3の東風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,視界は良好であった。
A受審人は,小用を終えて昇橋中,船体に衝撃を感じ,鶯丸と衝突したことを知り事後の措置に当たった。
また,鶯丸は,いか釣り漁業に従事し,船体中央やや後部に操舵室を設備した一層甲板型FRP製漁船で,平成14年2月交付の一級小型船舶操縦士の操縦免許を所有するB受審人と甲板員1人が乗り組み,船首0.55メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,同16年11月9日12時30分山口県特牛港を発し,同港北西方35海里ばかりの漁場で操業したのち,翌10日04時ごろ水揚げのため同県下関漁港に向かった。
B受審人は,操業中の漁労作業を主に甲板員に任せていたことから,同人に操業の後片付けをさせたのち船尾の船員室で休息をとらせ,自らは漁場発進時から単独で操船に当たり,針路を144度に定め,機関を全速力前進にかけ10.5ノットの対地速力で,自動操舵によって進行した。
08時49分半B受審人は,六連島灯台から054度1,150メートルの地点で,正船首方約1海里のところに,船首を東方に向けて停止状態のさゆり丸を初認し,同時53分同灯台から114度1,300メートルに達し,同船を正船首方650メートルのところに認めるようになったとき,同船が錨泊中と分かり,同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近していたが,尿意を覚えて我慢できなくなり,小用を終えてから避航しても大丈夫と思い,速やかに転舵するなどして同船を避けることなく,同室の左舷側出入口から甲板上に降り,前方が見通せない状況のもとで左舷側を向いて放尿中,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,さゆり丸は,船体中央部から前部にかけてハンドレール曲損,外板に凹損等を生じ,鶯丸は,船首部に破口などを生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,関門港六連島区において,鶯丸が,下関漁港に向け航行中,前路で錨泊中のさゆり丸を避けなかったことによって発生したが,さゆり丸が,船橋を無人とし,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,関門港において,単独の船橋当直に就いて,下関漁港に向け航行中,船首方に錨泊中のさゆり丸を認めた場合,転舵するなどして同船を避けるべき注意義務があった。ところが,同人は,小用を済ませてから避航しても大丈夫と思い,速やかに転舵するなどして同船を避けなかった職務上の過失により,さゆり丸との衝突を招き,同船の外板に凹損等を,自船の船首部に破口などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,関門港において,単独で船橋当直中,小用のため降橋する場合,接近する他船に対応できるよう,乗組員を昇橋させて交替するなど,船橋当直を維持する措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,自船は形象物を表示して錨泊しているので,接近する他船が避航するだろうし,また,少しの間だから大丈夫と思い,当直を交替するなど,船橋当直を維持する措置をとらなかった職務上の過失により,船橋を無人として鶯丸の接近に気付かず,同船に対し注意喚起信号を行うことなく,錨泊を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。