(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月16日18時10分
法花津湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八白王丸 |
漁船一丸 |
総トン数 |
1.8トン |
0.6トン |
登録長 |
6.51メートル |
6.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
114キロワット |
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漁船法馬力数 |
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30 |
3 事実の経過
第八白王丸(以下「白王丸」という。)は,船体後部に操舵輪を有するすくい網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.30メートル船尾0.93メートルの喫水をもって,平成16年8月16日17時55分愛媛県玉津港の係船地を発し,同港西方の漁場に向かった。
A受審人は,魚群探知器でいわしの稚魚を探しながら4ないし5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で西進していたところ,18時05分伊予水越島灯台(以下「水越島灯台」という。)から074度(真方位,以下同じ。)2,830メートルの地点において,魚影を認めたので日没まで待つこととし,針路を305度に定め,機関を極低速力前進にかけ0.4ノットの速力とし,操舵輪後方に立ち,魚影を確認しながら手動操舵により進行した。
18時08分A受審人は,水越島灯台から073度2,800メートルの地点に達したとき,左舷船首78度1,130メートルのところに,自船の後方200メートルを無難に航過する態勢の一丸を視認することができる状況となったが,探知した魚影を確認することに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,一丸の存在に気付かなかった。
A受審人は,18時09分半少し前一丸が左転して新たな衝突のおそれを生じさせたが,右転するなど,衝突を避けるための措置をとらずに続航し,18時10分少し前至近に迫った同船を初めて認め,衝突の危険を感じて機関を後進にかけたが及ばず,18時10分水越島灯台から073度2,780メートルの地点において,白王丸は,原針路原速力のまま,その左舷船首部に,一丸の右舷船首部が,後方から80度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
また,一丸は,船外機を備えた一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.15メートル船尾0.55メートルの喫水をもって,同日16時00分玉津港の係船地を発し,法花津湾で釣りをしたのち,帰途に就いた。
18時04分B受審人は,水越島灯台から185度1,350メートルの地点において,針路を055度に定め,機関を全速力前進より少し遅い19.3ノットの速力とし,同乗者を前部に腰掛けさせ,自らは右舷後部に腰掛け,左手で船外機を操作しながら,手動操舵により進行した。
ところで,B受審人は,一丸の機関を全速力前進より少し遅い速力にかけると,船首部が約40センチメートル浮上し,船首方に死角が生じることを知っていたので,普段は立って操舵に当たったり,船首部を左右に振ったりして,船首方の死角を補う見張りを行っていた。
18時08分B受審人は,水越島灯台から090度1.0海里の地点に達したとき,左舷船首8度1,130メートルのところに,前路を無難に左方に航過した白王丸を視認することができる状況となったが,前路を一瞥しただけで他船を見かけなかったことから,付近に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,白王丸の存在に気付かなかった。
18時09分半少し前B受審人は,水越島灯台から080度1.4海里の地点に達したとき,係船地に向け左転して針路を025度としたところ,白王丸に対し新たな衝突のおそれを生じさせたが,右転するなど,衝突を避けるための措置をとらずに続航し,18時10分少し前至近に迫った白王丸を初めて視認し,とっさに左舵一杯としたが及ばず,一丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,白王丸に損傷を生じなかったものの,一丸の右舷側外板に亀裂を伴う損傷を生じ,同乗者が腰椎圧迫骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は,法花津湾において,係船地に向け帰航中の一丸が,見張り不十分で,無難に航過する態勢の白王丸に対し,左転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,低速力で操業中の白王丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,法花津湾において,単独で操舵と見張りに当たり,係船地に向け帰航する場合,左舷前方の白王丸を見落とさないよう,船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前路を一瞥しただけで他船を見かけなかったことから,付近に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,白王丸の存在に気付かず,無難に航過する態勢の同船に対し,左転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き,白王丸に損傷を生じなかったものの,一丸の右舷側外板に亀裂を伴う損傷を生じさせ,同乗者に腰椎圧迫骨折などを負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,法花津湾において,単独で操舵と見張りに当たり,すくい網漁に従事する場合,左舷方の一丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,探知した魚影を確認することに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,一丸の存在に気付かず,左転した同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き,前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。