日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年広審第105号
件名

押船第三玉龍丸被押バージ(船名なし)漁船万吉丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,黒田 均)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第三玉龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:万吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三玉龍丸被押バージ・・・バージの左舷船首部に擦過傷
万吉丸・・・船尾ローラーに曲損及び漁網引索切断などの損傷

原因
第三玉龍丸被押バージ・・・見張り不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
万吉丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,万吉丸を追い越す第三玉龍丸被押バージ(船名なし)が,見張り不十分で,万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,万吉丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月17日16時30分
 広島県布刈瀬戸
 (北緯34度19.8分 東経133度14.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第三玉龍丸 バージ(船名なし)
総トン数 19トン  
全長 16.92メートル 55.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 963キロワット  
船種船名 漁船万吉丸  
総トン数 4.4トン  
全長 13.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 47キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第三玉龍丸
 第三玉龍丸(以下「玉龍丸」という。)は,平成12年12月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする船首船橋型押船で,4層構造の船橋楼を有し,最上階が操舵室甲板で,2機2軸を装備し,自動操舵装置は設置していなかった。
イ バージ(船名なし)
 バージ(船名なし)(以下「バージ」という。)は,船首から順に,船首楼,ジブクレーンの運転席付き機械室(以下「機械室」という。),船倉,居住区及び船尾甲板となっており,また,クレーンのジブの長さは27.50メートルであるが,航行中は船倉上に倒すようになっていた。
ウ 万吉丸
 万吉丸は,昭和58年4月に進水した底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室を備え,同室後部にロープリール2台及び鋼管製やぐらを装備し,モーターサイレンを設置していた。

3 万吉丸の操業模様
 万吉丸が行う底びき網漁は,2台のロープリールからそれぞれ400メートルの引き索を延出して同索先端に取り付けた袋網を引くもので,1回の操業には約1時間半を要するものであった。

4 事実の経過
 玉龍丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,船首1.0メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,空倉で船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水となったバージの船尾凹部にその船首部を嵌合し,両舷に各2本の連結索をとり,全長約71メートルの押船列(以下「玉龍丸押船列」という。)を形成し,バージ回航の目的で,平成15年11月16日06時00分広島港を発し,神戸港に向かう航行の途,広島県瀬戸田港に寄航してレーダー及びGPSを新設した。
 ところで,A受審人の操舵中の眼高は海面から7.40メートルであり,操舵位置から船首方49.84メートルのバージ前部に,海面からの高さ9.50メートル及び幅4.30メートルの機械室が設置されていたので,正船首方に約5度の範囲で死角が生じていた。
 また,瀬戸田港で新設したレーダーは漁船用の小型のもので,バージの構造物の反射などによって小型船は映りにくかった。
 翌17日14時30分A受審人は,瀬戸田港を発航し,出港操船に引き続いて当直に就き,バージの右舷船首に甲板員を配置して見張りに当たらせ,佐木島西方及び北方を経由して布刈瀬戸に向けて南下した。
 16時02分A受審人は,大浜埼灯台から106度(真方位,以下同じ。)500メートルの因島大橋下に達したとき,針路を117度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの1ノットばかりの南東流に乗じて7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行し,16時06分バージの右舷船首の甲板員の見張り配置を解除して夕食の準備に当たらせた。
 16時22分半A受審人は,大浜埼灯台から116度2.4海里の地点で,正船首やや左方2海里ばかりのところに漁船2隻を視認したので,同船が船首死角に入ることを防ぐために針路を126度に転じた。
 16時25分A受審人は,大浜埼灯台から117度2.9海里の地点に達したとき,右舷船首7度800メートルのところに万吉丸を視認することができ,その後同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,左舷船首方の漁船に気をとられて右舷船首方の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま続航し,16時30分大浜埼灯台から118度3.5海里の地点において,玉龍丸押船列は,原針路,原速力で,バージの左舷船首が万吉丸の船尾に後方から14度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,万吉丸は,B受審人が妻の甲板員と乗り組み,操業の目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日04時00分広島県尾道糸崎港第5区の吉和漁港を発し,布刈瀬戸南方の漁場に至って操業を6回繰り返した。
 15時30分B受審人は,大浜埼灯台から127度1.5海里の地点で,トロールにより漁ろうに従事している船舶であることを示す鼓形の形象物を操舵室上方に表示し,針路を112度に定め,機関を回転数毎分1,950にかけて折からの1ノットばかりの南東流に乗じて2.0ノットの速力で,手動操舵により7回目の引網を開始した。
 16時02分B受審人は,正船尾やや左方2.5海里の因島大橋下付近に玉龍丸押船列を初認したが,同押船列は南東進して自船の左舷側を無難に替わるものと思い,その後その動静監視を十分に行うことなく進行した。
 16時25分B受審人は,大浜埼灯台から119度3.3海里の地点に達したとき,左舷船尾21度800メートルのところに玉龍丸押船列を視認することができ,その後同押船列が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,依然としてその動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近したとき右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 16時30分少し前B受審人は,左舷至近のところに玉龍丸押船列を認め,衝突の危険を感じて汽笛を吹鳴したが,万吉丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,玉龍丸押船列は,バージの左舷船首部に擦過傷を生じ,万吉丸は,船尾ローラーに曲損及び漁網引索切断などを生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,衝突5分前に,A受審人が,右舷船首7度800メートルのところに万吉丸を,B受審人が,左舷船尾21度800メートルのところに玉龍丸押船列をそれぞれ視認することができる状況であり,両船は衝突まで同一の針路及び速力で航行して衝突しており,また,玉龍丸押船列が万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けること,及び万吉丸が衝突を避けるための協力動作をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったから,海上衝突予防法第13条の追越し船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 玉龍丸押船列
(1)レーダーが不調であったこと
(2)バージの右舷船首で見張りに当たらせていた甲板員の配置を解除したこと
(3)左舷船首方の漁船に気をとられて右舷船首方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったこと

2 万吉丸
(1)玉龍丸押船列は左舷側を無難に替わるものと思ってその動静監視を十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 玉龍丸押船列は,海上衝突予防法第13条により,避航船の立場にあったから,見張りを十分に行っておれば,万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることができ,本件発生は回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,左舷船首方の漁船に気をとられて右舷船首方の見張りを十分に行わず,万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 レーダーが不調であったこと及びA受審人がバージの右舷船首で見張りに当たらせていた甲板員の配置を解除したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同受審人が見張りを十分に行っていれば万吉丸を認めることができたので,本件発生の原因とならない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,万吉丸は,海上衝突予防法第13条により,保持船の立場にあったから,動静監視を十分に行っておれば,玉龍丸押船列に対して警告信号を行い,更に接近したときに衝突を避けるための協力動作をとっていれば本件発生は回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,玉龍丸押船列は左舷側を無難に替わるものと思ってその動静監視を十分に行わず,警告信号を行わず,更に接近したときに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,広島県布刈瀬戸において,万吉丸を追い越す玉龍丸押船列が,見張り不十分で,万吉丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,万吉丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,単独で船橋当直に当たって広島県布刈瀬戸を南東進する場合,右舷船首方の万吉丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷船首方の漁船に気をとられて見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,万吉丸に気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して万吉丸との衝突を招き,バージの左舷船首部に擦過傷を,万吉丸の船尾ローラーに曲損及び漁網引索切断などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,広島県布刈瀬戸を南東進中,左舷船尾方に南東進する玉龍丸押船列を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同押船列は自船の左舷側を無難に替わるものと思い,その後玉龍丸押船列の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同押船列が自船を追い越す態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近したときに衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して玉龍丸押船列との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:15KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION