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平成16年広審第114号
件名

漁船いずみ丸モーターボートオケアノスII衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,吉川 進,道前洋志)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:いずみ丸船長
補佐人
a
受審人
B 職名:オケアノスII船長

損害
いずみ丸・・・右舷船首部外板に亀裂などの損傷
オケアノスII・・・船首部に圧壊などの損傷

原因
オケアノスII・・・見張り不十分,船員の常務(新たな危険,衝突回避措置)不遵守(主因)
いずみ丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,オケアノスIIが,見張り不十分で,無難に航過する態勢のいずみ丸に対し,新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,いずみ丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月10日07時20分
 愛媛県高畑漁港北方沖合
 (北緯32度58.2分 東経132度31.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船いずみ丸 モーターボートオケアノスII
総トン数 2.2トン  
全長   8.23メートル
登録長 9.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   128キロワット
漁船法馬力数 60  
(2)設備及び性能等
ア いずみ丸
 いずみ丸は,平成13年5月に進水したFRP製漁船で,船体中央から少し後方に操舵室が設置されてその前方に見張りの妨げとなる構造物はなかった。
 操舵室は,前面及び左右両面の三方をガラス窓に,上部を帆布製のオーニングに囲まれており,同室中央に舵輪を,その右舷側に機関操縦装置を,同室下の船室に魚群探知器をそれぞれ設置していたが,レーダー及びGPSプロッターを備えていなかった。
 港内航海速力は,機関を回転数毎分1,200とし,漁獲物を載せて航行すると4ないし5ノットであった。
イ オケアノスII
 オケアノスII(以下「オ号」という。)は,平成12年9月に進水したFRP製モーターボートで,船体中央から少し後方に操舵室が設置されてその前方に見張りの妨げとなる構造物はなかった。
 操舵室は,前面及び左右両面の三方をガラス窓に,上部をFRP製の屋根に囲まれ,同室右舷側に舵輪,GPSプロッター及び機関操縦装置をそれぞれ備えていたが,レーダーを備えていなかった。
 速力は,機関を回転数毎分3,000として約30ノット,同1,500として約12ノット,同800として約6ノットであった。

3 いずみ丸及びオ号の係留地等
 いずみ丸の係留地は,東西方向の距離が約3海里,南北方向の距離が約800メートルで北西部に開口を有した御荘湾の東部湾奥北岸に位置する愛媛県御荘漁港の平山地区で,同船は同湾西端に設置されたマブネ灯台の東側及び南側などの同湾内でかご漁に従事していた。また,オ号の係留地は,同湾南岸の中央から少し西寄りに位置する同県高畑漁港の高畑地区であった。

4 事実の経過
 いずみ丸は,A受審人が単独で乗り組み,かご漁の目的で,船首0.2メートル船尾0.1メートルの喫水をもって,平成15年12月10日06時20分御荘漁港平山地区の係留地を発し,C組合に寄って餌を積み込んだのち,御荘湾西部の漁場に向かい,06時45分目的の漁場に至って操業を始め,ぐれ40キログラムを漁獲し,漁獲物の選別作業などを行って操業を終えたのち,07時15分マブネ灯台から119度(真方位,以下同じ。)300メートルの地点を発進して帰途についた。
 発進したとき,A受審人は,針路を御荘漁港南方沖合の大島に向く100度に定め,機関を回転数毎分1,200にかけて4.7ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 A受審人は,折から大島の右上方に昇った朝日とその海面反射とで右舷船首方がまぶしい状況下,舵輪後方に立った姿勢で,時折操舵室の右舷後部から身を乗り出し,サングラスを所持していなかったので,手を目の上にかざすなどして見張りを行いながら続航した。
 07時18分A受審人は,マブネ灯台から109度750メートルの,高畑漁港北方沖合に達したとき,右舷船首33度760メートルのところに同漁港を出航して北上するオ号を視認できる状況であったが,それまで同漁港から出航する船舶は自船の右舷方を御荘湾南岸に沿って航行することが多かったことから,同漁港を出航して前路を北上する他船はいないものと思い,右舷方の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在にも,その方位が次第に左方に変わり,自船の前路を無難に航過する態勢で接近することにも気付かず,朝日とその海面反射とを避けて主に左舷方を見ながら進行した。
 A受審人は,07時19分オ号が右舷船首29度470メートルとなったとき,同船が針路を左に転じるとともに増速し,新たな衝突のおそれを生じさせたが,依然右舷方の見張り不十分で,このことに気付かず,機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとることなく続航し,07時20分マブネ灯台から106度1,030メートルの地点において,いずみ丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首部に,オ号の船首が前方から40度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,オ号は,B受審人が単独で乗り組み,たい釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日07時15分高畑漁港高畑地区の係留地を発し,高茂埼西方沖合約1海里の釣り場に向かった。
 B受審人は,舵輪後方に置いた床面からの高さ75センチメートルのいすに腰を掛けて操舵と見張りにあたり,機関を暖機しながらゆっくりとした速力で北上し,07時17分わずか前マブネ灯台から127度1,680メートルの地点で,針路を345度に定め,機関を回転数毎分800の6.6ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 07時18分B受審人は,左舷船首32度760メートルのところに東行するいずみ丸を視認できる状況であったが,そのころ右舷方に認めた出航船の動静に気を奪われ,左舷方の見張りを十分に行わなかったので,いずみ丸の存在にも,そのまま同じ針路及び速力で続航すると,同船の前方130メートルを無難に航過することにも気付かなかった。
 B受審人は,07時19分いずみ丸が左舷船首36度470メートルとなったとき,針路を御荘湾口に向く320度に転じるとともに,舵輪前方に設置された機関の暖機中を示す表示灯の明かりが消えたので,機関を回転数毎分1,500にかけ,11.3ノットの速力にしたところ,同船に対し,新たな衝突のおそれを生じさせたが,依然左舷方の見張り不十分で,このことに気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく進行中,オ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,いずみ丸は,右舷船首部外板に亀裂などを,オ号は,船首部に圧壊などをそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,愛媛県高畑漁港北方沖合において,いずみ丸とオ号とが無難に航過する態勢で進行中,オ号が衝突の1分前に左転するとともに増速し,いずみ丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したもので,同海域に港則法の適用はなく,海上衝突予防法第38及び同39条の船員の常務によって律することが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 いずみ丸
(1)サングラスなどを所持していなかったこと
(2)右舷船首方が朝日によってまぶしかったこと
(3)高畑漁港を出航して前路を北上する他船はいないものと思い,見張りを十分に行っていなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 オ号
(1)右舷方に認めた出航船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行っていなかったこと
(2)衝突の1分前に左転するとともに増速し,新たな衝突のおそれを生じさせたこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,いずみ丸が,見張りを十分に行っていれば,オ号が衝突の1分前に左転するとともに増速したことによって,無難に航過する態勢の自船に対し新たな衝突のおそれを生じさせたことに容易に気付き,運航模様,操縦性能及び周囲の状況から,機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,高畑漁港を出航して前路を北上する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 いずみ丸の右舷船首方が朝日によってまぶしかったことは,見張りを行ううえで妨げとなったものの,当時の朝日の方位から,いずみ丸からの朝日の方向とオ号の方向とが一致しておらず,いずみ丸からオ号が認めることができなかったとは必ずしも言えないので,本件発生の原因とはならない。
 B受審人が,サングラスなどを所持していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,船橋当直者が周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断するため,常時適切な見張りが行えるよう,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,オ号が,左舷方の見張りを十分に行っていれば,いずみ丸の存在を認めることができ,新たな衝突のおそれを生じさせることはなく,また,オ号の運航模様及び周囲の状況から,衝突を避けるための措置をとれたものと認められる。
 したがって,B受審人が,右舷方に認めた出航船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行わなかったこと,衝突の1分前に左転するとともに増速して新たな衝突のおそれを生じさせたこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,愛媛県高畑漁港北方沖合において,釣り場に向け同漁港の係留地を出航して北上するオ号が,見張り不十分で,無難に航過する態勢のいずみ丸に対し,左転するとともに増速して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,操業を終えて係留地に向け帰航するいずみ丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,愛媛県高畑漁港北方沖合において,同県高茂埼西方沖合の釣り場に向け同漁港の係留地を出航して北上する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷方に認めた出航船の動静に気を奪われ,左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失より,いずみ丸の存在に気付かず,無難に航過する態勢の同船に対し,左転するとともに増速して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらないで進行して同船との衝突を招き,いずみ丸の右舷船首部外板に亀裂などを,オ号の船首部に圧壊などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,愛媛県高畑漁港北方沖合において,操業を終えて係留地に向け帰航する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,それまで同漁港から出航する船舶は自船の右舷方を御荘湾南岸に沿って航行することが多かったことから,高畑漁港を出航して前路を北上する他船はいないものと思い,右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,オ号の存在にも,同船が左転するとともに増速して新たな衝突のおそれを生じさせたことにも気付かず,機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとらないで進行してオ号との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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