(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月30日15時05分
香川県小豆島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八宝祥丸 |
漁船稲荷丸 |
総トン数 |
465トン |
4.4トン |
全長 |
65.52メートル |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
280キロワット |
3 事実の経過
第八宝祥丸(以下「宝祥丸」という。)は,主として瀬戸内海を航行する船尾船橋型の貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,コークス積載の目的で,船首1.0メートル船尾2.9メートルの喫水をもって,平成16年6月30日13時20分兵庫県家島港外の錨地を発し,広島県福山港に向かった。
13時30分A受審人は,尾崎鼻灯台から064度(真方位,以下同じ。)600メートルの地点で,船首配置を終えて昇橋し,出港操船に当たっていた船長と船橋当直を交替し,針路を246度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で進行した。
15時02分A受審人は,備前黄島灯台から200度1.8海里の地点に達したとき,ほぼ正船首0.6海里ばかりのところに稲荷丸を視認することも,同船が漂泊して船首から網を揚げていることも容易に判断でき,その後稲荷丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,左舷前方で底びき網中の漁船群に気をとられ,船首方の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,稲荷丸を避けないまま続航した。
15時05分少し前A受審人は,正船首至近に稲荷丸の黄色点滅灯を視認したが,何をする間もなく,15時05分備前黄島灯台から211度2.3海里の地点において,宝祥丸は,原針路,原速力のまま,その船首が稲荷丸の右舷船首部に後方から78度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,付近には微弱な西流があり,視界は良好であった。
また,稲荷丸は,船体後部に操舵室,同室前部甲板にいけす,同甲板右舷側に揚網機及びモーターホーンを備えたFRP製漁船で,B受審人(昭和61年10月四級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,流し網漁の目的で,船首0.35メートル船尾0.95メートルの喫水をもって,同日12時30分岡山市朝日漁港を発し,同港南東方沖合の漁場に至って操業を開始した。
ところで,稲荷丸の流し網漁は,長さ500メートルの網を,約40個の浮標をつけて海中に浮設して回遊する魚を漁獲するもので,投網に15分,潮待ちに20分及び揚網に30分ばかりを要し,投網及び揚網は船首甲板で行うようになっていた。
14時05分B受審人は,衝突地点のやや東方において,トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶の形象物を表示することなく,黄色点滅灯を点灯して2回目の操業を開始し,南北に投網して潮待ちし,14時40分船首から揚網を開始した。
15時02分B受審人は,衝突地点付近で船首が324度に向いているとき,右舷正横後12度0.6海里ばかりのところに宝祥丸を視認することができ,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,揚網機を操作しながら網についている浮標を外す作業に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わなかった。
15時05分少し前B受審人は,右舷後方至近のところに宝祥丸を初認したが,何をする間もなく,稲荷丸は,同じ船首方向のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,宝祥丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ,稲荷丸は,右舷船尾部外板に亀裂及びオーニング支柱に曲損を生じ,漁網が切断されたが,のち修理された。
(原因)
本件衝突は,香川県小豆島北方沖合において,西行する宝祥丸が,見張り不十分で,前路で漂泊して揚網中の稲荷丸を避けなかったことによって発生したが,稲荷丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,香川県小豆島北方沖合において,単独で船橋当直に当たって西行する場合,前路で漂泊して揚網中の稲荷丸を見落とさないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方の漁船群に気をとられて船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊して揚網中の稲荷丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,宝祥丸の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ,稲荷丸の右舷船尾部外板に亀裂及びオーニング支柱に曲損を生じさせ,漁網を切断するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,香川県小豆島北方沖合において,漂泊して揚網する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,揚網作業に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する宝祥丸に気付かず,警告信号を行わないで同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。