(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月20日03時43分
徳島県椿泊浦
(北緯33度50.3分 東経134度42.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船和丸 |
漁船住吉丸 |
総トン数 |
3.3トン |
0.48トン |
全長 |
11.00メートル |
5.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
30 |
(2)設備及び性能等
ア 和丸
和丸は,平成11年3月に進水した採介藻漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部船尾寄りの甲板上に設けられた操舵室屋根船首側に白色全周灯1個及び同屋根両舷に舷灯1対がそれぞれ備えられ,操舵室後部外側には汽笛が,操舵室内には操舵装置,主機遠隔操縦装置とともにGPSプロッターがそれぞれ装備されていたもののレーダーは装備されていなかった。また,操舵室右舷側天井には開口部が設けられ,操舵室内で見張りに当たると窓越しで視界が悪くなるので,狭隘(きょうあい)な海域においては操舵室右舷側の床上に置いた高さ78センチメートルのいすの上に立つことによって,同開口部から上半身を出して周囲の見張りと操船が行われていた。
イ 住吉丸
住吉丸は,昭和50年4月に進水した船外機付きの和船型FRP製漁船で,航行中の最大速力が7ノットを超えるものであったが,航行中の長さ12メートル未満の動力船が表示すべき法定灯火の設備を備えていなかった。
3 椿泊浦の状況
椿泊浦は,東に開口した長さ約3海里幅約600メートルの東西に細長い湾で,南側に点在するはまち養殖施設の小割と北側に錨泊している十数隻の無灯火の大型漁船との間が東西に航行する船舶の水路となっていた。
4 事実の経過
和丸は,A受審人が船長として妻の甲板員と2人で乗り組み,前日に仕掛けておいた伊勢えび刺し網を揚収する目的で,船首0.25メートル船尾0.80メートルの喫水をもって,平成16年9月20日03時38分徳島県椿泊漁港大深原地区を発し,同県蒲生田岬西南西方2.4海里にある漁場に向かった。
発航後,A受審人は,操舵室右舷側に置いたいすの上に立ち,同室天井の開口部を開け,上半身を出して見張りに当たり,操舵と機関兼用のリモコン装置を使用して操船し,舷灯1対は表示したものの,白色全周灯は,ほぼ目の高さとなり,船首方の見張りの妨げになるので表示しないまま,係留地付近に錨泊している無灯火の大型漁船を避けながら水路中央付近に向かった。
03時39分半A受審人は,刈又埼灯台から246度(真方位,以下同じ。)1,870メートルの地点に達したとき,針路を平素から船首目標としていた椿泊漁港蒲生田地区の水銀灯に向く086度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
03時41分A受審人は,刈又埼灯台から241度1,500メートルの地点に至り,左舷船首37度610メートルのところに南下する住吉丸が存在し,その後,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,同船が法定灯火を表示していなかったので,その存在を知ることができなかった。
こうして,A受審人は,住吉丸の存在を知ることができないまま続航中,03時43分刈又埼灯台から229度1,050メートルの地点において,和丸は,原針路,原速力で,その船首が,住吉丸の右舷後部に後方から84度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期にあたり,月没は前19日20時44分で,暗夜であった。
また,住吉丸は,船長B及び甲板員Cが2人で乗り組み,前日に仕掛けておいた伊勢えび刺し網を揚収する目的で,揚網機の備えがある親船(2.27トン)に移乗するため,船首尾とも0.20メートルの喫水をもって,同日03時40分半少し前椿泊漁港泊東地区を発し,対岸沖合の係留地点に向かった。
B船長は,法定灯火を表示せず,無灯火状態のままで,右舷側船尾に腰をかけ,船外機のスロットルレバーを操作して操舵に当たり,03時40分半刈又埼灯台から254度900メートルの地点において,針路を170度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.0ノットの速力で進行した。
03時41分B船長は,刈又埼灯台から249度920メートルの地点に達したとき,右舷船首59度610メートルのところに和丸が表示する紅灯1個を視認することができ,その後,方位の変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
住吉丸は,その後も無灯火状態のまま原針路,原速力で進行中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,和丸は船首下部及び船底に擦過傷,プロペラ及びプロペラ軸の保護パイプに曲損を生じ,住吉丸は両舷後部ブルワーク及び外板に破口を生じて転覆し,のち廃船とされ,B船長(二級小型船舶操縦士免状受有)及びC甲板員が海中に転落し,間もなく和丸に揚収されて病院に搬送されたが,溺水により死亡した。
(本件発生に至る事由)
1 和丸
(1)白色全周灯を表示しなかったこと
(2)レーダーを装備していなかったこと
2 住吉丸
(1)法定灯火を表示する設備がなったこと
(2)法定灯火を表示しなかったこと
(3)和丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこと
3 その他
海上保安庁刊行の平成16年天測歴記載の月出没時により,月明かりのない暗夜であったこと
(原因の考察)
本件衝突は,住吉丸に法定灯火を表示する設備があり,同船が法定灯火を表示しておれば,和丸が住吉丸を視認でき,前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する同船に対し,警告信号を行い,更に間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることができたものと認められる。また,住吉丸が右転するなど衝突を避けるための措置をとっておれば,衝突を避けることができたと認められる。したがって,住吉丸が法定灯火を表示しなかったばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
和丸が白色全周灯を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,住吉丸は,和丸が表示していた紅灯1個を視認でき,その接近状況から同船が自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢であることを判断できたものと認められることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,白色全周灯を表示しておれば,舷灯だけのときに比べ,和丸の存在及びその航行状態など,より明確に認識しやすくなると認められるので,夜間,白色全周灯を表示できるよう,同灯を見張りの妨げとならない位置に移設する措置をとることは,海難防止の観点から,必要である。
和丸がレーダーを装備していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,住吉丸が法定灯火を表示しておれば視認できたものと認められることから,原因とならない。
月明かりのない暗夜であったことについては,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,住吉丸が法定灯火を表示しておれば視認できたものと認められることから,原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,徳島県椿泊浦において,航行中の住吉丸が,法定灯火を表示しなかったばかりか,和丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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