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平成16年神審第118号
件名

油送船第八十七東洋丸漁船万栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史,佐和 明,横須賀勇一)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第八十七東洋丸甲板手 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a,b
受審人
B 職名:万栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八十七東洋丸・・・球状船首ペイント剥離
万栄丸・・・右舷後部外板等が大破して転覆,のち廃船,甲板員溺死,船長が通院加療を要する頚部捻挫及び腰部捻挫の負傷

原因
第八十七東洋丸・・・動静監視不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
万栄丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,万栄丸を追い越す第八十七東洋丸が,動静監視不十分で,万栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,万栄丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月25日08時40分
 友ケ島水道
 (北緯34度15.3分 東経134度58.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第八十七東洋丸 漁船万栄丸
総トン数 3,699トン 4.97トン
全長 104.45メートル 14.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 第八十七東洋丸
 第八十七東洋丸(以下「東洋丸」という。)は,平成15年10月に進水した近海区域を航行区域とし,不定期で石油製品の輸送に従事する一層甲板船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで,レーダーが2台,衝突予防援助装置,GPSが2台及びチャートプロッターが装備されていた。
 東洋丸の航海当直体制については,船長と三等航海士,一等航海士と甲板長及び二等航海士と甲板手による2人4時間輪番制で,出港後,入港前に船橋当直に当たっていた2人の次の組が昇橋して,そこから4時間交替で当直に当たるように定めていた。
イ 万栄丸
 万栄丸は,昭和56年5月に進水した小型機船底びき網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央部よりわずか船首側に操舵室を設け,GPSプロッターを装備していたが,全長12メートルを超える船舶が備えなければならない法定の汽笛を装備していなかった。
 万栄丸の底びき網漁は,投網に約5分,曳網に40分から60分,揚網に約10分かかり,1回の操業時間は55分から75分を要するものであった。

3 事実の経過
 東洋丸は,船長C及びA受審人ほか8人が乗り組み,ガソリン3,250キロリットル及び軽油2,400キロリットルを積載し,船首5.9メートル船尾6.4メートルの喫水をもって,平成16年2月24日17時45分名古屋港を発し,神戸港に向かった。
 C船長は,出港操船を終え,船橋当直を18時から22時及び06時から10時を二等航海士とA受審人,22時から02時及び10時から14時を自らと三等航海士,02時から06時及び14時から18時を一等航海士と甲板手の4時間3直制に定めて降橋した。
 A受審人は,翌25日06時00分和歌山県田辺港沖合において,二等航海士とともに船橋当直に就き,08時10分ころ,相当直の二等航海士が荷役制御室で神戸港の揚げ荷役の準備をするために降橋したので,単独で当直に当たった。
 08時30分A受審人は,友ケ島灯台から192度(真方位,以下同じ。)4.3海里の地点において,針路を自動操舵で358度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの潮流により1度ばかり右方に圧流されながら,順流に乗じて15.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 定針したとき,A受審人は,左舷船首17度1.6海里のところに万栄丸を初めて視認したが,一瞥しただけで,同船が横切り船で,自船を避航してくれるものと思い,その後動静監視を十分に行わず,自船が追越し船であることに気付かなかった。
 08時35分A受審人は,友ケ島灯台から197度3.0海里の地点に達したとき,万栄丸が同方位1,440メートルのところになり,同船を追い越す態勢で接近したが,依然,万栄丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航した。
 08時39分半A受審人は,万栄丸が左舷船首至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ,直ちに手動操舵に切り換えて左舵一杯をとったが効なく,08時40分友ケ島灯台から210度1.8海里の地点において,東洋丸は,348度に向首したとき,原速力のまま,万栄丸の右舷後部にその船首が後方から34度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北北西風が吹き,視界は良好で,付近海域には1ノット弱の北北東流があった。
 また,万栄丸は,B受審人及びD甲板員が2人で乗り組み,船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,底びき網漁の目的で,同月25日06時15分兵庫県由良港を発し,06時30分同港南方沖合の漁場に至って操業を始めた。
 B受審人は,2回目の操業を終え,漁場を移動することとし,08時30分友ケ島灯台から207度3.1海里の地点で,針路をGPSプロッターに登録した和歌山県沖ノ島鯉突ノ鼻南西沖合の3回目の投網予定地点に向け,022度に定めて手動操舵とし,機関を半速力前進にかけ,7.5ノットの速力で山立てにより進行した。
 定針したとき,B受審人は,周囲を見渡して右舷船尾41度1.6海里のところに東洋丸を認めたが,まだ遠方なので航行の妨げになることはないと思い,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その後動静監視を十分に行わなかった。
 B受審人は,操舵室右舷側で立って操舵に当たり,08時35分友ケ島灯台から208度2.4海里の地点に達したとき,東洋丸が同方位1,440メートルになり,自船を追い越す態勢で接近したが,山立てで次の投網予定地点に向ける操船に専念し,依然,同船に対する動静監視を十分に行わなかったのでこのことに気付かず,その後,東洋丸が自船の進路を避けないまま接近したが,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき,大きく左転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 08時40分少し前B受審人は,気配を感じてふと右後方を見たとき,東洋丸の船首部分が間近に迫り,どうすることもできず,万栄丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,東洋丸は球状船首にペイント剥離を生じ,万栄丸は右舷後部外板及び操舵室を大破して転覆し,のち廃船となり,D甲板員(四級小型船舶操縦士免許受有)が,溺死と検案され,B受審人が4箇月半ばかりの通院加療を要する頚部捻挫及び腰部捻挫を負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,友ケ島水道において,北上中の東洋丸と同じく北上中の万栄丸とが衝突したものであるが,以下,適用航法について検討する。
 友ケ島水道付近は,海上交通安全法が適用される海域であるが,同法には,本件に対し適用する航法がないので,海上衝突予防法を適用する。
 両船の運航模様から東洋丸は万栄丸の右舷船尾41度から追い越す態勢で接近して衝突したもので,海上衝突予防法第13条の追越し船の航法で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 東洋丸
(1)相当直の二等航海士が降橋したこと
(2)A受審人が一瞥しただけで,万栄丸が横切り船で,自船を避航してくれるものと思い,万栄丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(3)A受審人が避航動作をとらなかったこと

2 万栄丸
(1)B受審人がまだ遠方なので航行の妨げになることはないと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(2)B受審人が汽笛不装備で,警告信号を行わなかったこと
(3)東洋丸が間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,東洋丸が万栄丸に対する動静監視を十分に行っていれば,その後同船を追い越す態勢で接近することが分かり,万栄丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることにより,避けることができたと認められる。
 したがって,A受審人が,万栄丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと及び避航動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 相当直の二等航海士が降橋したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,万栄丸が東洋丸に対する動静監視を十分に行っていれば,その後同船が追い越す態勢で自船の進路を避けることなく接近することが分かり,東洋丸に対して警告信号を行うことができ,更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,東洋丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと,汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと及び更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,友ケ島水道において,万栄丸を追い越す東洋丸が,同船に対する動静監視不十分で,万栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,万栄丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,友ケ島水道において,北上中,左舷前方に万栄丸を認めた場合,追い越す態勢で接近するのかどうか判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥しただけで,万栄丸が横切り船で,自船を避航してくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船を追い越す態勢で接近していることに気付かず,万栄丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の球状船首にペイント剥離を,万栄丸の右舷後部外板及び操舵室を大破させて転覆させ,同船を廃船させるとともに,D甲板員を溺死させ,B受審人に4箇月半ばかりの通院加療を要する頚部捻挫及び腰部捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 B受審人は,友ケ島水道において,北上中,右舷後方に北上する東洋丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,まだ遠方なので航行の妨げになることはないと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,東洋丸が追い越す態勢で自船の進路を避けないまま接近していることに気付かず,大きく左転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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