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平成16年横審第63号
件名

油送船智山丸漁船精漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢,岩渕三穂,古城達也)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:精漁丸船長 海技免許:六級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:精漁丸機関長

損害
智山丸・・・船尾部に凹損
精漁丸・・・船首部を圧壊

原因
精漁丸・・・居眠り運航防止措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,精漁丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,錨泊中の智山丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月8日22時50分
 愛知県三河港港外
 (北緯34度45.3分 東経137度10.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船智山丸 漁船精漁丸
総トン数 498トン 44トン
全長 64.22メートル 26.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 669キロワット
(2)設備及び性能等
ア 智山丸
 智山丸は,平成3年に進水した平水区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製油タンカーで,専ら三重県四日市港を積地とし,伊勢湾及び三河湾内でガソリンや灯油等のばら積貨物輸送に従事していた。
 錨泊中の灯火設備として,錨泊灯と紅色全周灯に加え,船首マスト,船橋上部,船橋前壁両舷に甲板上を照射するための作業灯が,船橋楼周囲外壁に照明灯が,それぞれ取り付けられていた。
イ 精漁丸
 精漁丸は,平成8年に進水した軽合金製の沖合底びき網漁船で,船首端から約11メートル後方の操舵室には,レーダー,GPSプロッター等の航海計器や魚群探知機が設置され,操舵スタンド後方に背もたれ,ひじ掛け付きの椅子が置かれていた。また,当時の喫水では眼高が約4メートルとなり,前方に死角を生じる構造物はなく,見通しは良好であった。

3 事実の経過
 智山丸は,船長ほか4人が乗り組み,ガソリン520キロリットル,灯油340キロリットル及び軽油340キロリットルを積載し,船首3.2メートル船尾4.3メートルの喫水をもって,平成16年2月8日13時15分四日市港を発し,三河港に向い,揚荷の都合により同港港外で錨泊することとし,16時20分橋田鼻灯台から165度(真方位,以下同じ。)1,200メートルの地点に左舷錨を投下して錨鎖を3節半延出し錨泊した。
 智山丸は,日没時に錨泊灯,危険物積載船を示す紅灯及び作業灯を点灯して錨泊中,22時50分前示地点において,船首が045度を向いているとき,その船尾部に精漁丸の船首部が,ほぼ真後ろから衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,精漁丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,同日00時30分愛知県形原漁港を発し,遠州灘の漁場に至って操業を行ったのち,18時00分同漁場を発進して帰途に就いた。
 A受審人は,発進時から船橋当直に当たり,20時00分高松埼沖合で,同当直をB指定海難関係人に交替したとき,乗組員全員が連日の早朝からの操業でやや疲労気味であることが分かっていたが,同指定海難関係人は漁船の経験も長く同当直の経験も豊富で安心して任せられると思い,眠気を感じた際には顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるよう指示することなく,操舵室右後方のベッドで就寝した。
 B指定海難関係人は,渥美半島沖合を西行して伊勢湾に入り,22時07分半立馬埼灯台から300度1,200メートルの地点に達したとき,針路を047度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
 ところで,B指定海難関係人は,出港前に3時間ほど睡眠をとり,出港配置終了後しばらく休息したものの,05時00分からは操業準備にかかり,操業終了後の後片付け作業を済ませてから船橋当直に就いたので,やや疲労気味であった。
 定針後B指定海難関係人は,他船をほとんど見かけなくなったことで安心し,操舵輪後方の椅子に腰を掛けて続航し,22時38分橋田鼻灯台から214度2.55海里の地点に達したころ,強い眠気を感じるようになったが,もうすぐ船長を起こす予定地点に到達するので,それまで我慢できるものと思い,顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとらないで続航中,いつしか居眠りに陥った。
 22時44分B指定海難関係人は,橋田鼻灯台から204度1.55海里の地点に達したとき,正船首方1.1海里のところに錨泊中の智山丸を視認することができ,その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していたが,居眠りしていてこのことに気付かず,同船を避けないまま進行し,精漁丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,智山丸は船尾部に凹損を生じ,精漁丸は船首部を圧壊したが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
(1)乗組員全員が,早朝出港して夜遅く帰航するという形態で,連日早朝から操業に従事していたため,やや疲労気味であったこと
(2)A受審人が,B指定海難関係人に船橋当直を行わせるに際し,同人は漁船の経験も長く同当直の経験も豊富で安心して任せられると思い,居眠り運航の防止措置を指示しなかったこと
(3)B指定海難関係人が,連日の早朝からの操業でやや疲労気味であったこと
(4)船橋内が暖房の効いた状態であったこと
(5)B指定海難関係人が,椅子に腰を掛けた姿勢で船橋当直をしていたこと
(6)B指定海難関係人が,強い眠気を感じた際,顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(7)B指定海難関係人が,居眠りに陥ったこと
(8)B指定海難関係人が,智山丸を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,精漁丸の船橋当直者が,航行中,居眠りに陥らなければ,錨泊中の智山丸を避けることができたと認められる。
 したがって,A受審人が,無資格のB指定海難関係人に,夜間,単独で船橋当直を行わせるに際し,居眠り運航の防止措置を指示しなかったこと並びにB指定海難関係人が,連日早朝からの操業で疲労気味であったこと,眠気を感じた際,顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと,同指定海難関係人が居眠りに陥ったこと及び同指定海難関係人が智山丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 精漁丸が,連日早朝から操業に従事し,乗組員全員がやや疲労気味であったこと,B指定海難関係人が椅子に腰を掛けた姿勢で船橋当直をしていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 船橋内が暖房の効いた状態であったことは,居眠りに陥りやすい要因の一つであるが,航行船にとって特別の状況とはいえず,本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,愛知県三河港港外において,漁場から帰航中の精漁丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,錨泊中の智山丸を避けなかったことによって発生したものである。
 精漁丸の運航が適切でなかったのは,船長が無資格の船橋当直者に対し,居眠り運航の防止措置を指示しなかったことと,無資格の船橋当直者が眠気を感じた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,夜間,無資格の乗組員に単独の船橋当直を行わせる場合,同当直者が連日の操業でやや疲労気味であることが分かっていたから,眠気を感じたときには顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,同当直者は漁船の経験も長く同当直の経験も豊富で安心して任せられると思い,同当直者に対して,眠気を感じたときには,居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかった職務上の過失により,同当直者が居眠りに陥り,錨泊中の智山丸を避けないで進行して衝突を招き,同船の船尾部に凹損を,精漁丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,夜間,単独で船橋当直に従事中,眠気を感じた際,顔を洗ったり外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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