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平成16年横審第32号
件名

漁船第五十一共徳丸漁船第五十六石田丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢,岩渕三穂,濱本 宏)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:第五十一共徳丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第五十六石田丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第五十一共徳丸・・・球状船首部に凹損
第五十六石田丸・・・左舷後部外板に凹損

原因
第五十六石田丸・・・動静監視不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第五十一共徳丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五十一共徳丸を追い越す第五十六石田丸が,動静監視不十分で,第五十一共徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第五十一共徳丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月28日03時40分
 千葉県犬吠埼南東方沖合
 (北緯35度36.0分 東経140度55.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五十一共徳丸 漁船第五十六石田丸
総トン数 302トン 247トン
全長   55.30メートル
登録長 44.65メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 970キロワット 853キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第五十一共徳丸
 第五十一共徳丸(以下「共徳丸」という。)は,昭和59年4月に進水したバウスラスター付き船尾船橋型鋼製漁船で,まき網漁業船団の運搬船として従事していた。
 船橋内の機器配置は,前部中央に操舵スタンドがあり,そこから左舷端にかけて近距離用レーダー,ソナー,遠距離用レーダーが並び,同スタンド右舷側に機関遠隔制御装置等が設置され,遠距離用レーダー後方,操舵スタンド後方,機関遠隔制御装置後方にそれぞれ椅子が置かれていた。
イ 第五十六石田丸
 第五十六石田丸(以下「石田丸」という。)は,平成13年2月に進水した可変ピッチプロペラ及びバウスラスター付き船首船橋型鋼製漁船で,まき網漁業船団の運搬船として従事していた。
 船橋内の機器配置は,前部中央に操舵スタンドがあり,その右斜め後方に近距離用レーダー,同レーダー右斜め前方に遠距離用レーダー,同スタンド左舷側と遠距離用レーダーの下に魚群探索用ソナーがそれぞれ備えられ,近距離用レーダー右側と操舵スタンド後方となる同レーダー左側にそれぞれ椅子が置かれていた。
 操舵室後方は,床が同室前部より0.8メートルほど高くなった,天井の低い横2メートル縦1.5メートルの部屋で,甲板員の見張り場所となっていた。

3 事実の経過
 共徳丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,操業の目的で,船首1.6メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,平成15年6月27日23時00分千葉県銚子港を発し,船団の僚船とともに犬吠埼南東方沖合の漁場に向かった。
 翌28日01時ごろA受審人は,所定の灯火のほかに船団灯を掲げて犬吠埼南南東方14海里の漁場に至り,魚群探索に引き続き網船からの漁獲物積込作業を行ったのち,北上して周辺に30隻ほどの漁船が点在する中,再び針路,速力を変更しながら魚群探索を開始した。
 ところで,共徳丸では,漁場において常に船長が在橋し,操船はすべて同人の指揮の下で行うことになっており,当時,A受審人が操舵室左舷側後部の椅子に腰を掛けて操船指揮及びソナーの監視に,甲板員が操舵スタンド後方で手動操舵に,機関長が右舷側の機関遠隔制御装置の後方で機関操作にそれぞれ当たって航行していた。また,魚群探索中,漁船で混み合った海域を航行することが多く,他船と10メートルに接近することも珍しくなかった。
 03時33分半少し前A受審人は,犬吠埼灯台から154度(真方位,以下同じ。)6.3海里の地点に達したとき,針路を207度に定め,機関を半速力前進にかけ,9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 03時37分半A受審人は,犬吠埼灯台から158度6.6海里の地点に至ったとき,右舷船尾58度300メートルのところに石田丸の白,白,紅3灯や船団灯などを認めることができ,その後同船が自船を追い越し,衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,漁船で混み合った海域に対する慣れから,他船との接近を気にすることなくソナーの監視を続け,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,さらに接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 03時40分少し前A受審人は,右舷側至近を追い越す態勢の石田丸を初めて認め,次いで同船が急速に接近したことから直ちに機関停止,左舵一杯としたが及ばず,03時40分共徳丸は,犬吠埼灯台から161度6.9海里の地点において,ほぼ原針路,原速力のままその船首が,石田丸の左舷後部に後方から17度の角度で衝突した。
 当時,天候は小雨で風力3の南南西風が吹き,視程は約5海里であった。
 また,石田丸は,B受審人ほか8人が乗り組み,操業の目的で,船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,同月27日22時30分茨城県波崎漁港を発し,船団の僚船とともに犬吠埼南南東方沖合の漁場に向かった。
 23時30分ごろ漁場に到着したB受審人は,所定の灯火のほかに船団灯を掲げ,魚群探索をしながら南下して犬吠埼南南東方14海里の漁場に至り,網船からの漁獲物積込作業を行ったのち,北上して周辺に30隻ほどの漁船が点在する中,再び針路,速力を変更しながら魚群探索を開始した。
 ところで,石田丸では,漁場において常に船長が在橋し,操船はすべて同人の指揮の下で行うことになっており,当時,B受審人が操舵輪後方の椅子に腰を掛け,船長補佐を右横のレーダーを挟んだ右舷側の椅子に,甲板員2人を操舵室後方の見張り部屋にそれぞれ配置し,B受審人自らの操舵操船により航行していた。また,魚群探索中,漁船で混み合った海域を航行することが多く,他船と10メートルに接近することも珍しくなかった。
 翌28日03時35分B受審人は,犬吠埼灯台から156度6.1海里の地点に達したとき,針路を190度に定め,機関を半速力前進にかけ,11.6ノットの速力で進行した。
 03時37分B受審人は,左舷船首41度370メートルのところに共徳丸の船尾灯,船団灯などを認めたが,他船と接近することに慣れていたうえ,いちべつしただけで速力の遅い,ほぼ同じ針路で航行する同航船と判断したことから,衝突のおそれはないものと特に気にすることなく,再びソナーに目を移し,魚群探索を続けた。
 03時37分半B受審人は,犬吠埼灯台から158度6.4海里の地点に至ったとき,共徳丸の灯火を左舷船首41度300メートルに見ることができ,その後同船を追い越し,衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,共徳丸はほぼ同じ針路で航行しているから衝突することはあるまいと思い,その動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,共徳丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航した。
 03時40分少し前B受審人は,左舷側至近に共徳丸を認めたものの,追い越したと思ってソナーに目を移した直後,石田丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,共徳丸は球状船首部に,石田丸は左舷後部外板にそれぞれ凹損を生じたが,その後,いずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,共徳丸,石田丸の両船が魚群探索のため南西進中,石田丸が,共徳丸の右舷正横後32度方向から接近して衝突したもので,石田丸が共徳丸を追い越す態勢であったものと認められる。両船とも法定灯火を掲げており,見張りを十分に行っていたなら,互いに追い越し態勢で接近していることを明確に認識でき,避航も可能であった。
 従って本件は海上衝突予防法第13条追越し船の航法において律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 共徳丸
(1)恒常的に他船と接近しながら魚群探索を行っていたこと
(2)ソナーの監視を続け,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 石田丸
(1)恒常的に他船と接近しながら魚群探索を行っていたこと
(2)共徳丸がほぼ同じ針路で航行する同航船だから衝突することはあるまいと思い,動静監視を十分に行っていなかったこと
(3)共徳丸の進路を避けなかったこと

3 その他
 周辺に多数の漁船が点在していたこと

(原因の考察)
 共徳丸が,周囲の見張りを十分に行っていたなら,後方から接近する石田丸の灯火を視認することができ,同船が自船を追い越し,衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもできたものと認められる。
 したがって,A受審人が,ソナーの監視を続けて見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,石田丸が,共徳丸の動静監視を十分に行っていたなら,自船が共徳丸を追い越し,衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることが可能であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,いちべつしだだけで共徳丸をほぼ同じ針路の同航船だから衝突することはあるまいと思い,その動静監視を十分に行わなかったこと,確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで共徳丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A,B両受審人とも,恒常的に他船と接近しながら魚群探索をしていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からは是正すべき事項である。
 多数の漁船が点在したことは,漁場においては通常の状態であり,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,犬吠埼南東方沖合において,両船が相前後して南西方に向け魚群探索中,共徳丸を追い越す石田丸が,動静監視不十分で,共徳丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,共徳丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,犬吠埼南東方沖合において魚群探索中,左舷前方に共徳丸の灯火を認め,同船を追い越す態勢で接近する場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに,同人は,いちべつしただけで共徳丸はほぼ同じ針路で航行しているから衝突することはあるまいと思い,その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により,共徳丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,自船の左舷側後部外板及び共徳丸の球状船首部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,犬吠埼南東方沖合において魚群探索のため航行する場合,自船を追い越す態勢で接近する石田丸の灯火を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,他船の接近を気にせずにソナーの監視を続け,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船を追い越す態勢で接近する石田丸に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1

参考図2





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