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平成17年横審第37号
件名

遊漁船第一松鶴丸ヨットどんたく衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史)

理事官
河野 守

受審人
A 職名:第一松鶴丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:どんたく船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第一松鶴丸・・・船首部に擦過傷
どんたく・・・マスト倒壊,ブームやアンテナ等の設備に損傷

原因
第一松鶴丸・・・見張り不十分,船員の常務不遵守(新たな危険)

裁決主文

 本件衝突は,第一松鶴丸が,見張り不十分で,前路を無難に航過したどんたくの至近で,同船に向けて転針したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月28日18時08分
 千葉県大原漁港沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第一松鶴丸 ヨットどんたく
総トン数 19トン  
全長 18.00メートル 8.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 300キロワット 9キロワット

3 事実の経過
 第一松鶴丸(以下「松鶴丸」という。)は,船体中央部に操舵室を有し,2機2軸を備えたFRP製遊漁船で,A受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許を取得し,平成15年6月一級及び特殊の小型船舶操縦士免許に更新した。)が1人で乗り組み,釣客7人を乗せ,船首0.84メートル船尾2.00メートルの喫水をもって,平成16年9月28日12時30分千葉県大原漁港を発し,12時40分同漁港南東方沖合の釣場に至って遊漁を行い,日没を30分ばかり過ぎたころ帰途に就いた。
 ところで,大原漁港は,干出礁を利用して造成された,陸岸から南東方に延びる外北防波堤及び北方に延びる東防波堤とに囲まれた港で,両防波堤の突端に設けられた大原港外北防波堤灯台(以下,灯台の名称については「大原港」を省略する。)と東防波堤北灯台との間が港口にあたり,港口の幅が約60メートルであった。また,同北灯台の東方至近には東沖防波堤の南西端が位置し,同端から北東方に約150メートル築造された同防波堤の北東端に東沖防波堤灯台が設けられていた。
 A受審人は,接触不良で点灯しなかったマスト灯に代えて停泊灯,両舷灯及び船尾灯のほか,本船購入時から航海灯と連動して点灯するように配線された前部作業灯2灯,更に後部作業灯2灯を点灯し,18時00分東沖防波堤灯台から114度(真方位,以下同じ。)1.4海里の地点を発進すると同時に,針路を300度に定め,機関を10.7ノットの速力(対地速力,以下同じ。)にかけ,手動操舵により進行した。
 北上中のA受審人は,折からの北東風により前窓に波しぶきがかかって水滴が付き,前部甲板を照らす作業灯の明かりがあってやや前方が見え難かったのに,当日の午後に大原漁港を出航した遊漁船が自船しかいなかったので,今頃同漁港に入航する他船はいないと思い,旋回窓を回したり,レーダーを活用するような見張りを行わないで続航した。
 18時06分半少し過ぎA受審人は,東沖防波堤灯台から085度450メートルの地点に達したとき,正船首方320メートルのところに,白,紅各灯が交互に見える様子を一瞬認めたものの,水面上の高い位置に見えたので船舶の灯火と思い至らず,気に止めなかったので,それがどんたくの灯火であることも,同船が自船の前路を左方に横切ったことも気付かなかった。
 18時07分半少し前A受審人は,東沖防波堤灯台から052度280メートルの地点に至り,転針目標の同灯台を左舷正横少し前に見るようになったとき,港口に向かうため左転することとし,このとき左舷船首42度130メートルのところに,前路を無難に航過したどんたくが存在したが,依然として他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかったので,どんたくの存在に気付かないまま,左舵をとり同船に向けて転針を始め,18時08分少し前針路を238度に転じた直後,船首至近にどんたくのマストを視認して驚き,機関を後進に操作したが効なく,18時08分東沖防波堤灯台から028度125メートルの地点において,松鶴丸は,原針路,原速力のまま,その船首部がどんたくの右舷中央部に後方から18度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
 また,どんたくは,推進機関を備えたFRP製ヨットで,B受審人(昭和59年7月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,日本沿岸を時計回りに周航する目的で,同年4月静岡県沼津港を発航し,日中に帆走して日没に最寄りの港に仮泊することを繰り返していたもので,バラストキール部分の最大1.6メートルの喫水をもって,9月28日06時20分茨城県那珂湊港を発し,千葉県銚子港に向かった。
 B受審人は,12時ごろ銚子港付近に至り,そのころ台風21号が沖縄本島北西方沖合にあって北東方に向け速度を早めたとの気象情報を得て,明日以降台風の影響から数日間は港の中で避泊することが予想されたので,以前,入港したことがある千葉県勝浦港に向かうことを思い立ち,引き続き南下したところ,逆潮により船脚がかなり落ちてきたことから,勝浦港への到着が夜遅くなると判断し,予定を変更して最寄りの同県大原漁港に向かうこととし,それまで同漁港へ入ったことがなかったので,10日前そこに入港したヨット仲間に連絡をとり避難に適するかなど水路状況を入取のうえ,進路を大原漁港に向けて南下した。
 17時ごろB受審人は,メインマスト頂部の三色灯とその下方のマスト灯をそれぞれ点灯し,18時ごろ大原漁港沖合に達したとき,セールを降ろすため船首を風上の北東方に向けて反転し,18時02分東沖防波堤灯台から047度980メートルの地点で,セールを納めて再び反転し,針路を東防波堤北灯台に向く230度に定め,機関を5.0ノットの速力にかけ,手動操舵により進行した。
 18時06分半少し過ぎB受審人は,東沖防波堤灯台から040度270メートルの地点に達したとき,松鶴丸の白,緑,紅3灯のほか作業灯を左舷正横後20度320メートルに見る態勢で,同船の船首方を横切って続航した。
 18時07分B受審人は,港口に近づいたので機関を3.0ノットの速力に減じ,18時07分半少し前東沖防波堤灯台から035度180メートルの地点に至ったとき,左舷船尾28度130メートルのところから松鶴丸が突然左転を始め,同船の前路を無難に航過した自船に向けてきたが,そのことに気付く由もなく進行し,18時08分わずか前向首目標の東防波堤北灯台を少し左方に離すため針路を256度に転じた直後,右舷後方目前に松鶴丸を視認して驚き,左舵をとったが効なく,どんたくは,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,松鶴丸は,船首部に擦過傷を生じ,どんたくは,マストが倒壊してブームやアンテナ等の設備に損傷を生じたが,のち修理された。

(原因)
 本件衝突は,夜間,千葉県大原漁港沖合において,松鶴丸が,見張り不十分で,前路を無難に航過したどんたくの至近で,同船に向けて転針したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,千葉県大原漁港沖合において,港口に向かうため左転する場合,どんたくを見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,どんたくの存在に気付かず,前路を無難に航過した同船の至近で転針してどんたくとの衝突を招き,松鶴丸の船首部に擦過傷を生じさせ,どんたくのマストを倒壊してブームやアンテナ等の設備に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。


参考図
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