(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月23日06時00分
青森県岩崎漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八光栄丸 |
漁船冨美丸 |
総トン数 |
9.1トン |
4.49トン |
登録長 |
13.72メートル |
11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
35 |
3 事実の経過
第三十八光栄丸(以下「光栄丸」という。)は,従業区域を丙とし,刺網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和50年に取得した一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士の各免許を有するA受審人ほか1人が乗り組み,あまだいを獲る目的で,船首0.50メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,平成16年7月23日03時30分青森県岩崎漁港を発し,同漁港南方沖合8海里ばかりの漁場に向かった。
04時00分A受審人は,漁場に至り,網を入れて操業を開始し,50分ばかり潮の状態を見ていたところ,あいにく潮の状態が悪かったので,操業を打ち切って帰港することにし,揚網を始めた。
05時30分A受審人は,岩崎港第2南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から201度(真方位,以下同じ。)5.7海里の地点で揚網を終え,針路をほぼ弁天島に向首する022度に定め,機関を前進にかけて11.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
ところで,光栄丸は,11ノット前後の速力で航行すると船首が浮上し,また,船首部左舷側にシーアンカー用の巻取機を設置しているため,操舵室の左舷側に寄って見張りを行うと正船首方に死角を生じる構造となっていた。
05時57分A受審人は,南防波堤灯台の南南西方1,700メートルばかりのところにある沖ノ瀬に約1海里まで接近したとき,左舷前方に弟が操業しているのを認め,操舵室の左舷側に移動し,同人の操業模様に気を取られたまま続航した。
そのころ,A受審人は,正船首1,000メートルのところに,漂泊して操業中の冨美丸を視認できる状況にあったが,弟の操業模様に気を取られ,死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま進行した。
こうして,光栄丸は,A受審人が死角を補う見張りを行わず,前路で操業中の冨美丸に気付かないまま続航中,06時00分南防波堤灯台から197度1.6海里の地点において,原針路,原速力のまま,その船首が冨美丸の左舷中央部に前方から68度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風力1の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
また,冨美丸は,底建網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和51年に取得した二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の各免許を有するB受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日05時05分岩崎漁港を発し,同漁港南方沖合の漁場に向かった。
05時20分B受審人は,前示衝突地点付近に前もって設置しておいた底建網に至り,船首を270度方向に向けて機関を中立回転とし,網に取り付けたロープを巻いて揚網作業を開始した。
05時57分B受審人は,ロープを巻き込み,袋網を手で引き揚げていたとき,左舷船首68度1,000メートルのところに,自船に向首接近する光栄丸を視認することができたが,揚網作業に気を取られていて接近する同船に気付かず,有効な音響による注意喚起信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく同作業を続行した。
こうして,冨美丸は,B受審人が揚網作業を続行中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,光栄丸は,球状船首に破口を生じたが,のち修理され,冨美丸は,左舷船体中央部外板に破口を生じて転覆し,僚船に岩崎漁港に引きつけられたが,廃船とされた。
(原因)
本件衝突は,青森県岩崎漁港南方沖合において,第三十八光栄丸が,見張り不十分で,漂泊して操業中の冨美丸を避けなかったことによって発生したが,冨美丸が,見張り不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,青森県岩崎漁港南方沖合において,操業を終えて同漁港に向けて航行する場合,前路に死角を生じる船であったから,漂泊して操業中の冨美丸を見落とすことのないよう,操舵室内を移動するなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方で操業中の弟の操業模様に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,死角に入った冨美丸に気付かず,原針路,原速力を保ったまま,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の球状船首に破口を生じさせ,冨美丸の左舷船体中央部外板に破口を生じて転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,青森県岩崎漁港南方沖合において,漂泊して底建網の揚網作業を行う場合,自船に向首接近する第三十八光栄丸を早期に視認できるよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,揚網作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,有効な音響による注意喚起信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく同作業を続けて第三十八光栄丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。