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平成16年仙審第70号
件名

貨物船第八あきつ丸貨物船ミハイルルコニン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:ミハイルルコニン水先人 水先免許:小名浜水先区

損害
第八あきつ丸・・・船橋左舷側前部を圧壊
ミハイルルコニン・・・右舷船首部に擦過傷

原因
ミハイルルコニン・・・気象・海象(風圧流)に対する配慮不十分

主文

 本件衝突は,強風が吹く状況下,出港するミハイルルコニンが,風圧流に対する配慮不十分で,岸壁に係留中の第八あきつ丸に向けて圧流されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月27日14時10分
 福島県小名浜港
 (北緯36度56.36分東経140度53.56分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八あきつ丸 貨物船ミハイルルコニン
総トン数 498トン 4,694トン
登録長 70.85メートル 115.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 2,208キロワット

3 事実の経過
 第八あきつ丸(以下「あきつ丸」という。)は,船尾船橋型の鋼製貨物船で,船長Bほか4人が乗り組み,硫酸アンモニウム500トンを積載し,船首2.73メートル船尾4.10メートルの喫水をもって,平成16年4月24日10時50分新潟県新潟港を発し,福島県小名浜港に向かった。
 越えて26日15時30分B船長は,小名浜港第2西防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から019度(真方位,以下同じ。)1.18海里付近の小名浜港4号ふ頭(以下「4号ふ頭」という。)の2号岸壁に出船右舷付けとして接岸を終え,揚荷役待ちのため同岸壁での待機を始めた。
 ところで,4号ふ頭は,東灯台から018度1.33海里の地点から191.5度方向に伸びる岸壁で,同ふ頭の対岸に位置する3号ふ頭と平行に築造されており,両ふ頭間の距離は200メートルで,4号ふ頭の岸壁長さが490メートル,3号ふ頭の岸壁長さが370メートルであった。
 また,4号ふ頭の1号岸壁には他の1隻が,一方,東灯台から022.5度1.36海里付近の,3号ふ頭の4号岸壁にはミハイルルコニン(以下「ミ号」という。)が,同ふ頭の3号岸壁には他の1隻の大型船がそれぞれ係留していた。
 こうして,あきつ丸は,引き続き2号岸壁に係留して待機していたところ,翌27日14時10分,折からの南南西方からの強風で東灯台から020.5度1.20海里の地点(以下,ミ号の船位は同船の船体中央部でもって表す。)まで圧流された,出港中のミ号の右舷船首部があきつ丸の船橋楼左舷前部に,行きあしのない状態のまま,左舷船尾後方から68.5度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は雨で風力5の南南西風が吹き,潮候下げ潮の末期で,福島県浜通り地方に大雨,強風,波浪,洪水,及び濃霧の各注意報が発表されていた。
 また,ミ号は,船尾船橋型鋼製貨物船で,船長Cほか20人が乗り組み,同月25日03時45分小名浜港に入港し,翌26日07時10分同港3号ふ頭に入船右舷付けとして接岸し,石炭5,111トンの揚荷を終えたのち,空倉のまま,船首2.50メートル船尾4.20メートルの喫水をもって,翌27日13時45分同港を発し,ロシア連邦コルサコフ港に向かうこととなった。
 ところで,これより先A受審人は,同日06時ごろ水先人事務所で当日の気象状況の確認を行った際,強風,波浪及び濃霧の各注意報が発表されていることを知った。
 13時17分A受審人は,当日早朝に入港船の嚮導を終えたのち,ミ号の水先人として乗船し,同時25分ごろ水先業務を援助する引船の船長からVHF15チャンネルで,東灯台から025.5度1.05海里の3号ふ頭の南方沖合に,ミ号が出港するに際して航行の障害となるおそれがある錨泊船(以下「錨泊船ア」という。)が存在することを知らされた。
 しかし,A受審人は,錨泊船アと東灯台から027.5度1.18海里のところの,他の錨泊船(以下「錨泊船イ」という。)との間に約230メートルの船間距離があるので,同水域に向けて後進し,その後,左回頭しながら錨泊船アを替わして無難に出港できるものと思い,引船に対して錨泊船アに移動してもらうよう指示することも更にもう1隻の引船を手配するなど,折からの強風による,風圧流に対する配慮を十分に行うことなく,出港作業に取り掛かった。
 13時30分A受審人は,船尾中央部から引綱を出して引船に取ったのち,同時40分全ての係留索を解纜(かいらん)し,7節ばかり入れていた左舷錨鎖を巻き始めるとともに,引船にミ号の船尾を左舷後方に引かせて同船の嚮導を始め,同時55分ミ号が東灯台から021度1.27海里の地点に至って揚錨を終え,後進速力が約2ノットの対地速力(以下「速力」という。)となって後進を続けた。
 14時04分半A受審人は,東灯台から026.5度1.14海里の地点に達したとき,折からの南南西方からの10メートル以上の強風で圧流され,錨泊船イに著しく接近する状況となったことを知り,機関を2機とも極微速前進にかけたまま,左舵一杯をとり,引船に船尾を左方に引かせながら進行した。
 14時08分ごろA受審人は,ミ号が更に圧流されて4号ふ頭に接近しているのを認めたので,機関を極微速力後進にかけ,同時09分東灯台から020.5度1.18海里の地点に達したとき,船体がほぼ停止したのを認めたので,機関停止した。
 こうして,ミ号は,行きあしのないまま,南南西方からの強風により更に圧流され,その船首が260度を向く状態となったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,あきつ丸は,船橋左舷側前部を圧壊し,ミ号は,右舷船首部に擦過傷を生じた。

(航法の適用)
 本件は,岸壁に係留中の船舶と出港するため回頭中の船舶とが衝突したものである。
 したがって,本件に対する適用すべき航法はなく,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ミ号
(1)A受審人が,ミ号の喫水が空船で浅くなっており,風には注意が必要であると思っていたこと
(2)A受審人が,両ふ頭の南方沖合で錨泊中の他船に移動してもらわなかったこと
(3)A受審人が,2隻の錨泊船の間を後進して回頭できると思っていたこと
(4)A受審人が,更に引船の応援を要請しなかったこと

2 その他
(1)風速毎秒10メートル以上の強風が吹いていたこと
(2)錨泊船アが,3号ふ頭と4号ふ頭間のほぼ中心線上の,両ふ頭の南方沖合にいたこと

(原因の考察)
 本件は,ミ号が出港するため狭い水域で回頭中,折からの南南西方からの強風に圧流され,岸壁に係留中のあきつ丸と衝突したものであるが,以下,その原因について考察する。
 A受審人は,ミ号に乗船する前に当日の天気予報を確認したとき,強風注意報が発表されており,ミ号に乗船した際,南南西方からの強風が吹いていることを知り,かつ,ミ号が揚荷を終えて空船状態で,喫水が浅くなっているのを知っていたのであるから,風圧流の影響を考慮し,操船の補助として更にもう1隻の引船を手配するなどの措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が3号ふ頭と4号ふ頭間のほぼ中心線上の,両ふ頭の南方沖合で錨泊中の他船に移動してもらわず,錨泊船間を後進して回頭できると思っていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,福島県小名浜港において,南南西方からの強風が吹く状況下,出港するため回頭中のミハイルルコニンが,風圧流に対する配慮が不十分で,岸壁に係留中の第八あきつ丸に向けて圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福島県小名浜港において,南南西方からの強風が吹く状況下,狭い水域内から出港する船舶の嚮導にあたる場合,強風に圧流されて操船の自由を失うことのないよう,更に引船を手配するなどの風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,係留岸壁の南方沖合で錨泊中の2隻の船舶の間に向けて後進し,その後,左回頭すれば無難に出港できるものと思い,風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,狭い水域内で強風に圧流されて操船の自由を失い,岸壁に係留中の第八あきつ丸との衝突を招き,ミハイルルコニンの右舷船首部に擦過傷を,第八あきつ丸の船橋左舷側前部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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