(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月20日04時28分
新潟県新潟港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一慶宝丸 |
漁船第二うしまつ丸 |
総トン数 |
3.74トン |
1.02トン |
全長 |
11.70メートル |
|
登録長 |
9.95メートル |
4.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
106キロワット |
14キロワット |
3 事実の経過
第十一慶宝丸(以下「慶宝丸」という。)は,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,昭和51年7月に取得した一級小型船舶操縦士の免許を有するA受審人が1人で乗り組み,サバなどを目的とした操業のため,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年6月20日04時20分新潟県松浜漁港を発し,同県岩船港西方沖合の漁場に向かった。
ところで,慶宝丸は,操舵室で立って操船しているとき,船首浮上によって正船首方の左右それぞれ10度の範囲に死角が生じ,A受審人は,平素,操舵室の左右の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
A受審人は,操舵室で立って操船にあたり,04時26分ごろから増速を始め,同時26分半阿賀野川口灯台から268度(真方位,以下同じ。)から550メートルの地点で,針路を344度に定め,機関を全速力前進にかけ,14.0ノットの対地速力として手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,左舷船首30度900メートルのところに,自船の針路を左方から右方に横切る態勢の引き縄漁の漁船(以下「引き縄漁船」という。)を認めた。
04時27分少し前A受審人は,船首死角が生じている状況下,阿賀野川口灯台から276度550メートルの地点に達したとき,正船首方500メートルのところに,第二うしまつ丸(以下「うしまつ丸」という。)を認め得る状況であったが,左舷前方の引き縄漁船に気を奪われ,操舵室側面の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,うしまつ丸の存在に気付かなかった。
その後,A受審人は,うしまつ丸に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けないまま進行し,04時28分阿賀野川口灯台から309度900メートルの地点において,慶宝丸は,原針路,原速力のまま,その船首がうしまつ丸の船尾右舷側に後方から6度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力1の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,日出時刻は04時21分であった。
また,うしまつ丸は,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,昭和49年9月に取得した一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士の各免許を有するB(平成16年12月死亡)が船長として1人で乗り組み,アジ釣りの目的で,平成16年6月20日04時10分救命胴衣を着用して新潟県松浜漁港を発し,同時20分阿賀野川河口の前示衝突地点付近の漁場に至って船首を北西方に向け,機関を停止して漂泊し,操業を始めた。
B船長は,船体中央部で左舷方を向いて竿釣りを行っていたところ,04時27分少し前前示衝突地点で338度に向首していたとき,左舷船尾6度500メートルのところに,自船に向首接近する慶宝丸を視認できる状況であったが,釣果がよかったことから釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船に気付かなかった。
B船長は,その後慶宝丸が衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,避航を促す有効な音響による注意喚起信号を行わず,更に接近しても機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま操業を続け,04時27分半わずか過ぎ慶宝丸の機関音を聞いて正船尾方に迫った同船を初めて視認し,手を振って大声を出したものの,同船に変化なく,危険を感じて海に逃れた直後,前述のとおり衝突した。
衝突の結果,慶宝丸は左舷船首部に擦過傷を生じ,うしまつ丸は船尾外板の圧壊及び船外機の濡れ損等の損傷を生じて,のち廃船処分とされ,B船長は付近で釣りをしていたモーターボートに救助された。
(原因)
本件衝突は,新潟県新潟港の阿賀野川河口付近において,漁場に向かって同川を下航中の慶宝丸が,見張り不十分で,前路で漂泊して操業中のうしまつ丸を避けなかったことによって発生したが,うしまつ丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響による注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,新潟県新潟港の阿賀野川河口付近において,漁場に向かって同川を下航する場合,船首浮上による船首死角が生じていたのであるから,前路で漂泊して操業中のうしまつ丸の存在を見落とすことのないよう,操舵室側面の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,左舷前方の引き縄漁船に気を奪われ,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,うしまつ丸の存在に気付かないまま進行して衝突を招き,慶宝丸の左舷船首部に擦過傷を,うしまつ丸の船尾外板の圧壊及び船外機の濡れ損等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。