(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月6日10時10分
北海道寿都港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十一幸進丸 |
総トン数 |
19.40トン |
登録長 |
16.18メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
140 |
3 事実の経過
第五十一幸進丸(以下「幸進丸」という。)は,いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で,A受審人(昭和50年6月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,荒天避難の目的で,船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成15年12月6日10時00分北海道寿都港を発し,北海道岩内港に向かった。
ところで,寿都港北東方沖合には,寿都港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から050度(真方位,以下同じ。)350メートル,028度810メートル,031度1,280メートル,051度1,300メートル及び079度470メートルの各地点を順に結んだ線によって囲まれた範囲に,定置漁場区域が設定されており,漁業時期が3月1日から12月31日までの間さけなどを捕獲する定置網が設置され,陸側の端と沖側の端に旗竿付きのボンデン及び点滅式ブイが設けられていた。A受審人は,何回も同港を入出航した経験があり,定置網の存在を知っていた。
10時07分少し過ぎA受審人は,北防波堤灯台から158度15メートルの地点で,針路を068度に定め,機関を回転数毎分1,700にかけ,8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は,操舵室右舷側で立った姿勢で見張りに当たり,10時08分左舷船首41度210メートルのところに定置網の境界付近を示す旗竿付きのボンデンを視認でき,定置漁場区域に向かっていることがわかる状況であったが,そのころ右舷前方で操業している漁船を見かけ,その場所に同網が設置されていると思い,前方の見張りを十分に行わなかったので,同ボンデンに気付かず,同区域を替わすような針路としないで続航した。
10時09分わずか前A受審人は,北防波堤灯台から071度410メートルの地点に達したとき,針路を沖合に向く000度に転じたところ,定置網に向首する状況となり,衝突のおそれがあったものの,これに気付かないまま進行し,幸進丸は,10時10分北防波堤灯台から043度555メートルの地点において,原針路,原速力のまま,同網の手網に衝突した。
当時,天候は雪で風力2の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
この結果,幸進丸は,推進器翼に欠損及び曲損,推進器軸に曲損及び舵板に亀裂などを生じたが,のち修理され,定置網の手網などが損傷した。
(原因)
本件定置網衝突は,寿都港を発航して港外に向け航行中,見張り不十分で,同港北東方沖合の定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,寿都港を発航して港外に向け航行する場合,同港北東方沖合には定置網が設置されていることを知っていたのであるから,同網の標識を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,そのころ右舷前方で操業している漁船を見かけ,その場所に同網が設置されていると思い,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同網の標識に気付かないまま転針し,同網に向首進行して衝突する事態を招き,幸進丸の推進器翼に欠損及び曲損,推進器軸に曲損及び舵板に亀裂などを生じさせ,同網の手網などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。